農政:本紙独自 コメ作柄調査 2020年
【本紙独自調査】米の作柄 全国では「平年並み」か 200JAの米担当者に聞く2020年9月29日
本紙が毎年実施しているJAの米担当者に聞いた2020年産米の作柄集計結果がこのほどまとまった。それによると道府県の作況見込みは93~102とばらつきが大きく、集計の結果、全国では「98」と「やや不良」となった。回答が不明、または時期的に推計が難しかった地域もあるため、農水省の8月15日現在の作柄概況もふまえると全国では「平年並み」から「やや不良」とみられる。
7月の日照不足が響く 猛暑の8月 品質に影響
北海道は「やや良」か
調査は9月15日から25日にかけて各県で管内の水稲作付面積の多いJAを中心に米担当者から現場で見た作柄見込みとともに、水田農業の課題などを聞いた。1県1JAなど広域合併JAは地域状況を把握するため複数の事業本部などからも回答を得た。
農水省が発表した8月15日現在の作柄概況では「やや良」が北海道、東北4県の5道県、「平年並み」が北陸、中四国、九州などで20県、「やや不良」が関東、東海、近畿で21県となっていた。
本紙の調査では北海道は「102」のやや良と推計されたが、東北各県は「100」から「101」の平年並みとなった。
北海道は春先に低温が続いたが「8月の出穂以降、高温で生育がよかった」(道南)という。しかし、「見た目は収量がとれるように思えたが、刈り取ると空籾が結構多い」との声もあった。不稔の原因は今のところ分からず、今後調べると話す。また、水分も通常より3~4%低いという。一部海沿い地域では塩害も指摘された。ただ、くず米は少ないという声は多く、良好な収穫を期待した。
東北各県は、「県北でのヤマセの影響が少ないので昨年よりいい」(青森)、「農家からふるい下が少なく登熟がよかったという話を聞いている」(秋田)、「昨年は高温障害が出たが、今年は天候が安定した」(福島)、「7月の日照時間は平年の半分。出穂期には生育が遅れていたが、8月には天候も回復し差し引きで平年並みとなった」(山形)などの声が聞かれた。
関東一部で「やや不良」
関東からは「6~7月は長雨だったが、8月に入り天候に恵まれたため、最終的には昨年よりいい見込み」(茨城)、「昨年は台風により稲が倒伏、今年の稲刈りは順調だった」(千葉)との声もあったが、8月の猛暑による高温障害などで品質が落ちる懸念もあった。また、局地的な雷雨による倒伏が起きて「今後は刈り遅れによる発芽が心配される」(栃木)という地域もあった。
関東・東山では「98」~「100」と推計された。北陸でも7月の日照不足と8月の天候の影響が指摘された。「8月の猛暑が続きお盆を過ぎても涼しくならず丈が伸びすぎ籾が少ない」(新潟)、「早生品種の生育は良くなかったが、晩生が持ち直した」(石川)などの声が聞かれた。
品質では「登熟が進み1.9ミリ網でもほとんど落ちない」との声もあったが、「寝苦しいほどの高温で乳白米も」や胴割も指摘する。一方で「昨年にくらべればいい」、「胴割が昨年よりも少ない」といった声も聞かれた。北陸は「98」~「100」と推計された。
東海の一部で「不良」も
東海と近畿では生育不良と作柄の低下を懸念する声が相次いだ。「出荷契約数量どおりに出荷できないかもしれない、と農家は話している」(三重)との声が聞かれた。担当者の回答には「日照不足」「カメムシ」の言葉が並ぶ。「日照不足で籾数が少なく、カメムシの個体数が多く不稔も発生している」(三重)。
近畿からはウンカの被害報告も。「7月の低温と8月の日照り。ウンカ、コブノメイガの被害が出ている」(大阪)、「ウンカが例年より多く収量に影響している」(兵庫)、「昨年は受粉期に台風にやられた。今年は長梅雨の日照不足で分げつが少なく穂数が少ない」(兵庫)などの声が聞かれた。東海・近畿の各県は「94」~「100」と推計された。
西日本でウンカの被害
中四国と九州では調査時点で今後のウンカ被害を心配する声が多く聞かれた。
「低温で分げつ本数が少なく、今後はウンカ被害が懸念」(岡山)、「ウンカの被害、今までにない。坪枯れが出そう。箱処理剤を変更しなかった農家で被害。しかし、今年は変更した農家でも被害。どれだけ収穫量が確保できるか心配」(熊本)、「コブノメイガ。坪枯れ3町歩、2回の台風による塩害で10町歩ほど枯れた」(熊本)、「ウンカ1000ha被害」(福岡)などすでに被害が明らかになっている地域も。そのほか「晩生の開花時期に台風10号の影響。早生品種では倒伏もあった」(鹿児島)など、今年は全般的には台風被害は少なかったものの一部地域で影響が見られた。
転作助成水準が課題
2020年産は主食用の作付意向調査では、主産地を含めて20数県が「昨年並み」の作付けと回答していた。一方、コロナ禍もあって今年は米の需要量が20万tも減るという事態となり、毎年の需要減のトレンドをふまえると平年作でも主食用米の過剰が懸念されている。
概算金を下げたJAからは「米価が下がるのではないかと心配。農家も納得している」との声がある一方、「農家には需給状況が伝わっていないのではないか」と課題も挙げられた。
また、「生産者は米が余っていることを理解はしているが、生活のため反収の高い主食用米を作らざるを得ない」。主食用米の手取りと飼料用米を生産した場合の手取りが均衡するような対策を求める声は多い。中四国でも「中山間のため麦・大豆は少なく転作が難しい。農家所得最大化がいちばんなので10a8万円の助成が継続されれば飼料用米への転換も考える」との意見もある。いずれも助成水準と政策が継続されるかを問う。
ただ、需給調整をJAグループだけで行うことに不公平感も強い。「JAグループ以外の集荷業者が作付け参考値をオーバーしているため、JA以外の業者に厳守するよう強く指導してほしい」。JAグループは2020年産米を20万t来年秋以降に販売する対策を実施するとしているが、「首都圏で系統外販売している人まで助かるのは心外」との批判も強い。
こうしたなか聞かれたのが、担い手確保の課題だ。米価が下落すれば「米づくりを諦めてしまうのではないか」、「米消費の減少と生産者の減少のどちらが早いか。生産の確保が課題となっている」などの声も。「米価も大事だが水田を守る対策も大事」、「主食用を作付けし水田を守ることも必要な地域」との声もあった。
国による生産数量目標の配分が廃止されて3年。政策の検証も必要だ。ある担当者は「3年経ってこれからが正念場だ」と話す。
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