農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】提言:いま、協同組合が役割を発揮するために! 冨士重夫 一般財団法人 蔵王酪農センター理事長2021年6月28日
新自由主義によってもたらされた「格差の拡大」「環境破壊」といった負の遺産を乗り越えて、みんなが幸せに健康に暮らせる社会を築くために、いまこそ協同組合がその価値原則を生かして役割を果たすべきだと、「農協改革」の経験をも踏まえて冨士重夫氏は強調しています。
冨士重夫
一般財団法人蔵王酪農センター理事長
1.いま、なぜSDGsなのか
持続可能な経済社会を目差すSDGsの取り組みに今、我も我もと流行のように乗ろうとしている。我が社は自然環境に優しい取り組みをしています。我が社は環境保護活動を展開しています。と企業のアピールが声高に主張されています。
書店では、20代、30代にマルクスの「資本主義」の課題に対して、様々な提起をしている本が人気を得ています。
漫画アニメ「鬼滅の刃」の炎柱、煉獄否寿郎(れんごくきょうじろう)さんの母の言葉「なぜ自分は人より強く生まれたのか。弱き人を助けるためです。」「天から賜りし力で人を傷つけること、私腹を肥やすことは許されません」が、世界中の若者達の共感を得て感動をよんでいます。
資本主義経済をつき詰めた新自由主義において良いとされる価値観、すなわち「競争」「利益至上主義」「資源・土地の収奪」「グローバリズム」「国際分業論」「市場原理主義」といった考え方によって、もたらされた人類への負の遺産が『貧富・格差の拡大』と『地球環境の破壊』です。
『格差の拡大』は非正規労働者の拡大、労働分配率の低下、不公平の拡大、集落・地域の危機、社会保障制度の危機に現れ、人格の尊厳に深刻な影響を与えつづけています。
『環境破壊』は、自然災害の増大、異常気象の多発、廃プラスチックによる海洋汚染、新たなウィルスの人や動物への感染拡大によるパンデミックなどに現われ、人々の暮らしや健康に対する危機となっています。
2.価値観、意識の大転換が必要
新自由主義によってもたらされた負の遺産『格差の拡大』『環境破壊』を克服して、みんなが健康で心豊かで安心して幸せに暮らしていくために、2030年を目標に17の具体的な取り組みを提起し、これまで良いとされてきた価値観の転換を訴えて行動を提唱しているのがSDGsです。
「競争」は良いという価値観が、いじめや、受験や就職に失敗した人々を「負け組」と分類し、そお人々を努力しない怠け者、能力の低い人間だと見下し、人格の尊厳を傷つけ、経済的困窮者を増大せていった。
お互いの人格を尊重し、共に学問や人徳をよろ一層磨き上げ、共に向上するという意味の素晴しい日本語「切磋琢磨」という言葉こそ「競争」と対極の価値観であり、今、私たちに求められているのが意識の大転換です。
差別の排除は、一人一票、自主自立、連携、出資利子制限などは、協同組合にとって根本的な価値原則ですが、2012年の国連の「国際協同組合年」は、こうした価値原則を本質的に有する協同組合が、もたらした社会経済発展への貢献を国際的に認めた証しでもあるのです。特に協同組合が貧困削減、仕事の創設などに果たす役割が注目され、国際協同組合年のスローガンは「協同組合がよろよい社会を築きます」とされたわけです。
また、2016年にはユネスコが「協同組合」を世界無形文化遺産に決定しました。登録の内容は「協同組合における共通の利益を形にするという思想と実践」であり、協同組合は組合員の共通の利益と価値を通じてコミュニティーづくりを行うことができる組織であり、雇用の創設や高齢者支援から都市の活性化や再生可能エネルギープロジェクトまだ様々な社会問題へ創意工夫ある解決策を編み出していると評価したのです。
3.協同組合としての不断の検証が重要
世界がSDGsに取組む中で、協同組合の重要性を評価し、協同組合的手法を持続可能な経済社会システムに生かそうと提起している中で今の日本の状況は極めて異質です。
政府、規制改革会議が掲げる「農協改革」の根底にあるネライは協同組合の株式会社化であり、株式会社企業によるM&A、買収にあります。これまでの中央会制度の廃止、株式会社への転換既定の整備、全農改革、信用事業の譲渡・代理店化の主張がそうであり、「株式会社と同じ土俵で事業展開すべきである」「他業態とイコールフッティングにすべきである」「協同組合とは名ばかりで不特定多数と取引し事業拡大している」「准組合員の事業利用規制すべき」といった考え方に現われています。
では、日本の協同組合、JAや生協、漁協も事業や組織の規模が大きくなり、組合員の台替わりがすすみ、既に存在する大規模組合で、自分たちで作った協同組合ではなくなってきている中で、本当に協同組合なのか、本質や原則を踏まえた組織、事業運営になっているのか、自ら不断のチェック、検証を行い、進んで行かなければならない状態にあります。しっかり自らの足元を見つめないとSDGsの持続可能な経済社会素ステムの重要な担い手になり得ないことを自覚する必要があります。
4.協同組合原則という行動指針による検証
協同組合原則とは、自らの基本理念を実現していくにあたっての行動指針であり、多様化する組合員、台替わり、合併により間接参加という状態の中で、常に現在の組合運営が「協同組合」であるのかどうかを点検するための項目といえます。
<第一原則⇒自発的な組合員制度>
加入脱退の自由や差別の排除は仕組として機能するようになっているか。男女による差別はないか、准組合員が増大する中で正組合員との違いは、公平な運営や適切な対応となっているか。
<第二原則⇒組合員による民主的運営>
株式会社は投資家がオーナーで協同組合は組合員がオーナーであり、その組合員の運営原則が一人一票や三位一体などですが、今、協同組合としての基本である組合員の運営参画の危機という状態の中で、最も重要であり、意識して検証し不断の努力を積み重ねなければならない原則です。正組合員、准組合員の意思反映システムはできているか。運営参画は適切に行えるよう工夫されているか。支店組合員組織の運営はどうか。総代会制度は適切か、出席率は良いか。役員の選出方法は適切か。組合員と役員と職員との関係はどうかなど。この第二原則の検証は多岐にわたります。
<第三原則⇒組合員による財産形成と管理>
出資利子制限であるが、利用高配当も含めて適性か。総合事業の力を発揮した事業・組織管理になっているか。経営戦略は短期利益主義ではなく持続可能を基本にしているか。剰余金の処分、活用方法は適切か、資本の運営管理は適切か。
<第四原則⇒組合の自治の自立>
ガバナンスは合理的、効率主義だけでなく人間主義に基づいているか。政治的に、経済的に自主・自立しているか。
<第五原則⇒教育・研修と広報活動の促進>
協同組合は組織体であり、事業体です。組合員が協同活動し、事業利用するのが基本であり、このために組合員、役職員の教育・研修は欠かせないもので積極的に展開しているか。
協同組合は組合員だけの内向きな組織だけでなく協同の輪を広げ多くの人の理解を得て多くの人の幸せを実現していくためにも広報活動は重要であり適切に展開されているか。
<第六原則⇒協同組合間の協同>
世界は巨大企業や多国籍企業が活動し、経済の国際化の中で協同組合は、お互いに結び合い連携を強めていく必要があり、他業態の協同組合との連携、フードバンクや子ども食堂などでの協同組合連携や組合員組織の取り組みはどうか。
<第七原則⇒地位社会への関与>
株式会社はグローバル主義ですが、協同組合は地域主義です。組合員の課題や幸せは、地域の課題や幸せでもあり、協同組合の発展と地域社会の発展は切っても切れない関係にあります。自分たちだけ良ければいいのではなく、地域のインフラやコミュニティの再構築の役割を担っているか。など常に協同組合の特質を踏まえた組織、事業運営となっているか検証していくことが、今、極めて重要となっています。
5.地域みんなで再生の仕組みづくりを
地域農業の縮小再生産、後継者や新規就農者などの人的資源枯渇の危機。地域農業の生産基盤の維持強化と担い手の確保が今や、農業と地域の大きな課題となっています。
もはや一人でとか一つの組織、会社、団体では今の地域、農業の危機を克服できません。
農家、農業生産法人、JA、行政、商工会、青年会議所、観光協会など、地域みんなで考え地域全体で人的基盤や生産基盤を補う仕組みを作っていかなければなりません。
今、こうした地域の拠点となっている様々な組織や法人が、まさしく協同組合の価値原則を生かした仕組みを、みんなで作り上げることが、まさに地域再生、地域活性化が実現する姿になると自覚しつつある。
蔵王酪農センターも地域の拠点として、その一翼を担っていくよう、今後も積極的に取り組んでいきたいと思います。
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