農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
食農教育は食を通した楽しさが大切 身近で育った食べ物知るだけでも 元JA全青協会長 飯野芳彦氏2022年11月11日
生きていくのに必要不可欠な食。小さい頃からこの食と農の関係を学ぶことは大切だ。農業協同組合新聞はこのほど「小学校の校長先生100人に聞きました」と題して食農教育アンケートを実施し、対応や方針を聞いた。関連して食農教育に実際に取り組んだ経験を持つ元JA全国青年組織協議会会長で、埼玉県川越市の農家・飯野芳彦氏に、みずからの体験を通して「思ったこと」について寄稿してもらった。
元JA全国青年組織協議会会長 飯野芳彦氏
中学の体験学習で小松菜収穫など教える
私は、学問として食農教育を学んだ経験はありません。食農教育に関する書籍を読んだ事くらいが私の知識の精いっぱいなところです。そこで、今回の寄稿に際して食農教育が与える子どもたちの発達や教育の成果、社会的影響力などは私の浅い知識では到底無理と諦めています。しかし、子どもたちと共に食農教育を実際にやってきた経験とそこから感じ学んだ経験を書かせていただきたいと思います。その点をご理解の上目を通していただけると大変ありがたいです。
私が最初に食農教育に携わったのは20代後半の頃です。中学校教員の先輩から体験学習のコマで食育をやってもらえないかという誘いを受けたことに始まります。当時私は農業というものに、周囲からうっとうしいと言われるくらい真剣に取り組み、周囲も一緒にもっとやろうと声高に行っておりました。また、市場出荷メインからスーパーインショップなどの直接販売を始めた頃でもあり生活者の方々にもっと農業を知ってもらいたいと思うようになっていました。そういった事があいまってお誘いを快諾することとなりました。今考えると、浅い知識で引き受け周囲の迷惑もかえりみず若いという勢いだけだった事を恥ずかしく思います。
対象は中学1年から3年生で定員は40人でした。どんな内容がいいかと思案しました。いろいろ考えた上で、収穫から出荷調製までをやってもらいスーパーで目にしない部分をやろうという計画を立てました。先ずは小松菜をプランターには種し、当日までに販売サイズまで栽培管理をしました。
当日はプランターごと教室に持ち込み生徒さんに収穫してもらいました。その後、枯れ葉取り、洗浄、軽量、袋詰めを行いました。生徒さんが行った商品化は不格好でしたがそれなりになりました。その小松菜を自宅に持って帰り家族と食べてほしいと伝えました。その他にも、小松菜が日本原産である事や小松菜の歴史、栽培品種の紹介など私の持つ知識を伝えました。
生徒たちの不評の原因分析 生徒目線で内容改良
私は、伝えるべき事、経験してほしい事、学んでほしい事を全て伝えたと心地良い気持ちとなりました。しかし、後日の生徒さんのアンケート結果をみて愕然としました。一言で言うならば不評だったのです。難しかったとか、汚れたとか様々なマイナスな感想が並べられていました。さすが中学生です。言葉もまとまった不評文書でした。私の自己満足に過ぎない食育だったということを思い知らされる大失敗でした。
これで来年は、食育のお誘いは来ないなと確信いたしました。ですが、翌年先輩から思いがけず今年も頼むよと言われたのでお断りしようかと思ったのですが、考え直しもう一度だけチャレンジしてみる事にしました。失敗の原因を自分なりに分析しました。はっきりわかったのは受講する側の生徒さんの事を1つも考えていなかった事です。そこで親戚の中学生に聞き取りに行きました。その結果、料理としての食にしか興味がなく、生産過程やスーパーに並んでる野菜の姿などには全く興味もなければ知識もないということでした。それはそうだなと感じました。
核家族も第2世代となると遠い祖父母が農家であるという程度で野菜の栽培風景など見たこともなければ興味もない。当然です。そういった経験がなければ野菜の栽培されている畑を見ても公園の緑地程度にしか感じないかもしれないと思いました。当時でも40人の生徒さんの家が農家の人は1人、祖父母の家が農家なのは5人くらいでした。その10年後には、農家の家の生徒さんはいなくなり祖父母の家が農家という人も1人2人になっていました。
楽しい食をメインに 大好評で他校からも毎年依頼
私も幼い頃から畑や自分の家で生産された野菜を食べていました。その思い出を思い返すと楽しいことしか思い浮かびません。畑で泥だんごを作ったり家族で笑いながら我が家の野菜しか入っていない鍋をつついたり。そこでそうだと思いました。楽しい食をメインに農を少しだけ入れるというプログラムにしようと考えました。私の家では様々なジャガイモを生産していましたのでそれを活用する事にしました。ピンクのノーザンルビー、紫のシャドークイーン、黄色のインカのめざめ、これらをポテトもちにして思い思いの形にして焼いて食べる。その少しの合間にポテトもちの話、ジャガイモの歴史などを話しました。また、生産していた爆裂種のトウモロコシも使いトウモロコシの房から実をほぐしフライパンでポップコーンを作りました。
生徒さんはわいわい楽しく受講してくれました。私自身も前回と違い楽しむ事が出来ました。さて、アンケート結果ですが、大好評でした。その後食農教育を毎年依頼をいただけるだけでなく、その評判を異動先の中学でも広めていただき他の3校の中学からも毎年依頼をいただくようになりました。
「食べるを基軸に楽しい思い出として行うことが大切」
私の経験から学んだことは、私たち農業者の考える食農教育は重いということです。もっとさらっとして、食べるを基軸に楽しい思い出として行う事が大切だと感じました。
住む街の空気と水と土で育った旬の野菜を塩茹でで食べる、身体全体で地域の風を感じ、手で土を触る。何より楽しいと言う事が大切なのだと思います。学校の先生から食農教育に関してご質問をいただく事があります。「どうやったら上手に野菜が育てられますか?」この質問に対しいつもこう回答します。「私たちでさえ上手に作れない事が多くあるのだから先生が上手に作ることは無理です。失敗しても何故失敗したかを児童、生徒と一緒に考える。そして失敗した野菜を観察する事も立派な食育です」
何故虫は葉脈を食べないのだろう? キュウリが収穫遅れで大きくなったら黄色い瓜になった。だからキウリからキュウリなんだ! とか失敗から沢山の事を学ぶ事ができます。失敗してもいい教科なんていうだけでワクワクしませんか?
私の4歳の娘は食べたスイカの種を土に埋めたいと言い出しました。毎日水をやったら芽が出てきて大喜び。プロの農家として私はF1品種だからろくな果実は期待できないと思いますが、娘は芽が出て花が咲くだけで大満足なのです。食農教育は身近な食べ物をちょっとした発想でちょっとだけ知る、これで十分なのです。
食農教育を通して知り合った生徒さんが、旬の里芋、エダマメ、トウモロコシ、ジャガイモ、ポップコーンを楽しい思い出と共に思い出し、大人になった時食べたいなぁと地元に戻って買い物をしてくれ、楽しい思い出話しと共に家族団欒の笑顔あふれる食卓を作ってくれると信じています。
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