農薬:防除学習帖
【防除学習帖】第15回 害虫の防除方法(生物的防除III フェロモン)2019年8月23日
<前回までのおさらい>
害虫防除において重要な総合的防除(IPM)を実現するために重要な生物的防除のうち、前回までに天敵農薬を2回にわけて紹介した。今回は、生物的防除の最後に、果樹や野菜の広域一斉防除で効果を発揮するフェロモン剤を紹介する。
◆フェロモン剤の概要
フェロモン剤には交信攪乱タイプと誘引タイプの2つがあるが、広域に使用でき、防除効果も高いことから、現在登録のあるフェロモン剤のうち約8割が交信攪乱タイプ(27剤中22剤)だ。対象とする害虫もチョウ目害虫が圧倒的に多く、フェロモン剤の多くは、落葉果樹や野菜を加害する害虫を対象に使われている(「作用別フェロモン剤一覧」参照)。
これは、チョウ目害虫の多くは、雌成虫が"性フェロモン"を空気中に少量放出し、これを雄成虫が嗅ぎつけて雌成虫の位置を特定し交尾に至るという生殖の仕組みを持っているため。フェロモン剤はこの仕組みをうまく利用して、害虫防除に役立てている。
◆交信攪乱タイプのフェロモン剤
(1)交信攪乱によって防除効果が出る仕組み
フェロモン剤とは、害虫の雌成虫が出す性フェロモンとそっくりの物質を化学合成によってつくったもの。偽物のフェロモンに過ぎないが、害虫の雄成虫がまんまとだまされるほど精巧なものだ。
交信攪乱タイプは、この精巧なフェロモン様物質を、ほ場一体に充満させ、雄成虫にしてみると、あたり一面が雌成虫だらけで本物の雌成虫がどこにいるか分からなくなり、本物の雌成虫と交尾できなくなる。その結果、受精卵を産めず、幼虫が産まれない。落葉果樹や野菜のチョウ目害虫による被害は、幼虫の食害によって起こるため、幼虫が発生しなければ作物への被害も起こらないというわけだ。
(2)交信攪乱タイプの使用方法
交信攪乱タイプのフェロモン剤は、雌成虫の位置をわからなくするため、防除したい樹園地や畑全体に煙幕を張るようにフェロモン様物質を充満させなければならない。
もし、この煙幕の隙間や穴に雌成虫がいれば、雄成虫が雌成虫を見つけ出し、交尾を成功させてしまうことがある。こうした隙間や穴は、樹園地や畑の周囲や風上で起こりやすくなるため、フェロモン剤を設置する時に、樹園地や畑の周囲には多めに設置したり、樹園地や畑の回りにまで設置するなどの工夫が必要になる。
フェロモン剤は、ディスペンサーと呼ばれる容器に入れられている。ディスペンサーの形状は、短いチューブ状やロープ状があり、それらを枝や支柱などに一定量設置していく。その設置の仕方や本数は、フェロモン剤毎に異なっているため、使用方法をよく確認する。使い方が間違っていると十分な効果が発揮できないため、しっかりと守るようにしてほしい。
(3)産地単位で使用すると効果が安定する
産地の中でフェロモンを設置したほ場と未設置のほ場が入り混じると、未設置のほ場で交尾したものが、設置ほ場に飛び込んで幼虫の被害が起こることがある。
このため、フェロモン剤の効果を安定させるためには、できるだけ広い面積で、可能なら産地全体で使用するとよい。
設置費用や設置労力など課題は大きいが、エコ農業の実践を目指す産地などでは活用価値の高い防除技術だ。
◆誘引タイプのフェロモン剤
(1)誘引タイプによって防除効果が出る仕組み
誘引タイプの防除効果は、いたってシンプル。"ゴキブリホイホイ"をイメージすればいい。
粘着板などの罠(トラップ)にフェロモン剤を仕掛け、雄成虫にトラップの中に雌がいると勘違いさせて誘い入れ、トラップによって捕獲する。トラップには雄しかかからないので、ほ場外で交尾した雌成虫の侵入を防ぐことはできない。
トラップだけで効果を出そうとすれば、多数のトラップが必要となり、かなり無理がある。このため、この誘引タイプのフェロモン剤は、害虫の発生をモニターし、適期に防除するための指標として使用されることが多い。
(2)誘引タイプの使用方法
一般的には、粘着板を設置したトラップの中央にフェロモン剤を設置し、それをほ場の一定面積に1台の割合で設置する。長い期間が経つと誘引効果が薄れてくるため、使用方法に書かれている間隔でフェロモン剤を取り換えるようにする。

本シリーズの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
【防除学習帖】
重要な記事
最新の記事
-
米の相対取引価格 3万7058円 過去最高を更新2025年11月18日 -
【農協研究会】准組合員問題―その経緯・重要性・従来の対策・今後の解決策―JA松本ハイランド代表理事組合長・田中均氏2025年11月18日 -
【農協研究会】 准組合員拡大に力 3年で8000人増 JAいちかわ代表理事組合長・今野博之氏2025年11月18日 -
"若月イズム"目標と恩義 佐久総合病院名誉院長 夏川周介氏(1)【プレミアムトーク・人生一路】2025年11月18日 -
"若月イズム"目標と恩義 佐久総合病院名誉院長 夏川周介氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年11月18日 -
青果物輸出 12億円目標 25年度 全農インターナショナル2025年11月18日 -
【全中教育部・オンラインJAアカデミー】高市内閣の最大の懸念は歴史認識問題 「自民党本流と保守本流」を講演 元経企庁長官・田中秀征氏2025年11月18日 -
農業の労働力不足 地域ぐるみで解決 次世代担い手育成システムも開発 農作業請負と農家間連携を進めるJA全農ふくれん2025年11月18日 -
GI取得「しりうちにら北の華」など3産品が登録 農水省2025年11月18日 -
【消費者の目・花ちゃん】家の食品ロス難問2025年11月18日 -
国産農畜産物で料理作りに挑戦「全農みんなの子ども料理教室」新宿区で開催 JA全農2025年11月18日 -
「岡山県産紫苑フェア」みのるダイニングさんすて岡山店で開催 JA全農2025年11月18日 -
全国フロントマン選抜技術競技会 福岡県の花田将宗さんが最優秀賞 JA共済連2025年11月18日 -
電動車のバッテリー診断・放電サービスの実証・運用開始 JA三井リースグループ2025年11月18日 -
完全自動運転の開発スタートアップ「チューリング」へファイナンス支援 JA三井リース2025年11月18日 -
「みどり脱炭素海外展開コンソーシアム」参加企業としてCOP30関連イベントで共同声明を発表 ヤンマー2025年11月18日 -
糖度15度前後「濃甘あめ玉みかん」ふるさと納税で受付開始 鹿児島県出水市2025年11月18日 -
秋の味覚と環境への取り組みを体験「カーボンニュートラルまつり」開催 グリーンコープ生協ひろしま2025年11月18日 -
イネの節で鉄を細胞外に排出する新奇輸送体を発見 岡山大学2025年11月18日 -
7才の交通安全プロジェクト 全国の小学校・児童館などに横断旗を寄贈 こくみん共済 coop2025年11月18日


































