農薬:防除学習帖
農薬の上手な施用法6【防除学習帖】第86回2021年1月22日
農薬は、その有効成分が病原菌や害虫、雑草に直接作用してはじめて効果を現す。その効果を発揮するためには、有効成分を何等かの方法で作物に付着または吸収させる必要がある。特に、水に希釈して散布する水和剤や乳剤、液剤、フロアブル剤などは作物への付着具合が防除効果に大きく影響する。
このとき、特に露地栽培で農薬を散布する際には気象の影響を多く受け、防除の成否を左右することになる。今回は、その要因を紐解いてみる。
1.風
農薬散布を行う場合、風の影響が一番大きく、加えてドリフト等による他への影響も最も多いので十分に注意する必要がある。その際に意識しなければならないのは風速である。
農林水産省の空中散布のガイドラインでは風速3m/s以下で散布することとなっている。
風速3m/sとは、時速に直すと10.8km/h(3m/s×3600s=1万0800m=10.8km)となり、ジョギングしている時や扇風機の中メモリの時に受ける風ぐらいである。外であれば木の葉がかさかさ動き始める程度の風である。
これは、大体イメージつきやすいと思うが、実際のほ場ではもう一つ気をつけないといけないものがある。それは、植え付けられた作物が起こす乱気流である。ビル風など建物によって気流の乱れが起こることはよく知られているが、これと同じことが、ほ場に起こっている。作物を地面に建った建物と思えばわかりやすいと思うが、この乱気流は畑地よりも水田の方がより起こりやすい。
これで何が起こるかというと、粉剤やミストなどの軽い粒子は乱気流で吹き飛ばされやすく、作物の間に入り込むことができず、株間や株元まで薬剤が届かなくなることが多くなる。粉剤が効かないという場合、風による散布ムラが発生し、実は薬剤が作物にきちんと付着していなかったというのが意外と多い。
このため、農薬散布は、できるだけ無風状態で行う方がよい。しかし、実際には散布しなければならない時に無風状態であることは難しいので、朝夕の時間帯を狙うか、それ以外の時間帯であれば風の影響の少ない薬剤を選ぶなどする必要がある。
2.雨
雨が降ったら、まず農薬散布はできない。
粒剤やフロアブル除草剤、ジャンボ剤のように雨でも散布可能な製剤もあるが、その場合でも、雨の中の散布はできれば避けたい。なぜなら、粒剤の場合は、粒剤が濡れた葉などに付着して、部分的な薬害の要因になったり、ジャンボ剤のように水に溶けるフィルムで覆われている場合は、どんなに注意していても、濡れた手袋などで触れると包装が破れやすくなってしまったりするからである。
水に希釈して散布する農薬は、特に雨の影響を受けやすい。例えば、雨で作物表面に雨滴が付着している場合、雨滴が邪魔をして散布液が作物に付着しにくいし、かろうじて付着できても、雨滴で薬液が薄まって効果の低下が起こる可能性が高くなる。
これは、散布時の話であるが、散布後であっても雨の影響を受ける。
薬液を散布後、乾燥・固着が不十分な時に雨が降ると、せっかく作物に付着した薬液が洗い流されてしまい、効果低下を起こす。乾燥・固着が十分になった後であれば、豪雨でなければ、効果に影響があるほど流れ落ちることはない。なので、気象情報などをよく把握して、散布後すぐに雨が降りそうな時は農薬散布を行わないようにした方がよい。散布日は、散布後に農薬が完全に乾燥する時間(最低2~3時間)が確保できる日を選ぶようにしたい。最近は1kmメッシュ気象情報などで、かなり正確な降雨予報が手に入るので、これらを利用すると良い。
また、乾燥・固着後も作物表面に付着した農薬が雨によって流されるので、雨が多い時などは、雨での流亡も考慮して散布間隔を短くするなどの工夫が必要となってくる。
農薬の雨に対する性能については、製品ラベルの注意事項欄等に書かれているので、散布前によく確認しておき、それに応じた使用を心掛けてほしい。
3.気温
一見気温は関係なさそうであるが、実は重要な要因である。例えば、気温の高い日中では、温められた空気により上昇気流が発生し、粉剤などの軽い粒子の舞い上がり現象が起こる。これは、空気が、温かいと軽くて上に上り、冷たいと重くて下に下がるという性質があるが、外のほ場でも当然のように起こる。晴天で日射が強い場合はさらに顕著になるので、晴天の多い季節には特に注意が必要である。また、気温が高いと散布者の疲労も増大するので、軽労化のためにも涼しい時間帯で散布を終了できるようにした方がよい。
4.結露
作物の表面が結露し、水滴がついていると、降雨時の散布と同様に農薬散布には不適な条件である。結露は、作物の蒸散や朝方の気温が低い時に空気中の水分が凝集して起こる。
朝方の散布の際に作物表面に露がついている場合には、露がなくなるまで待つか、夕刻に散布するか、もしくは露を払う作業を行って散布する方が望ましい。
露払い作業では、無人ヘリやドローンなどを一旦ほ場の上を飛行させて露を落とす作業を行う場合もあるが、効率が悪くなるので、実際にはあまりなされないことが多く、露対策には課題が残る。
以上が、農薬散布を行う際に、散布に適した日を選び、朝夕の気温が低いうちに農薬散布を済ませることが基本とされる理由である。
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