農薬:防除学習帖
IPM防除4【防除学習帖】第105回2021年6月11日
防除学習帖では、「みどりの食料システム戦略」で重要な革新的技術として取り上げられたIPM技術について、その具体的な技術の内容を紹介しており、前回は生物的防除病害について紹介した。前回、害虫防除に使用される生物的防除の1つとして生物農薬について紹介したが、今回は害虫防除特有の生物的防除であるにフェロモン剤を紹介する。
1.フェロモン剤とは
昆虫は、次世代を残すために、メスが性フェロモンを放出し、オスがそのフェロモンを頼りにメスを探し出し、交尾をする。いわゆる求愛行動に欠かせない物質で、害虫の種ごとに異なっている。このメスが出すフェロモンを特定し、それに似たものを人口的に作り上げ、それを利用しているのがフェロモン剤である。
フェロモン剤には、大きく分けて「交信かく乱型」と「誘因型」があり、それぞれで効果を示すメカニズムが異なる。
(1)誘因型
文字通り、特定の害虫メスのフェロモンに似た物質(「ルアー」という)を人口的に作り出し、そのルアーを粘着シートや捕殺容器などに設置し、害虫のオスをおびき寄せて殺虫するものである。結果として害虫が交尾する機会が減るため、農作物被害の大半を占める幼虫の発生が減るという仕組みである。このことは、モンシロチョウとその幼虫であるアオムシを想像すればわかりやすい。モンシロチョウの成虫は蜜を吸うだけで、作物に直接的な被害は起こさないが、幼虫であるアオムシは作物の葉っぱを手あたり次第に食べてボロボロにし、作物の生育被害を起こす。つまり、幼虫が現れなければ作物の被害は無いわけで、幼虫をつくらないためには、交尾を邪魔すればよいことになる。
この誘因型は、オスとメスの出会いを徹底的に邪魔するためには、特に広いほ場では複数個所に設置しないと満足な結果が得られない。ゴキブリホイホイと似ており、設置数が少ないと、どうしてもトラップを逃れて交尾を果たすオスが出てくるためである。
このため、この誘因型はもっぱら害虫発生の時期や量を観測するフェロモントラップとして予察事業に活用されることが多い。
(2)交信かく乱型
現在流通しているフェロモン剤の多くはこのタイプである。
交信かく乱型が防除効果を発揮するメカニズムは、メスのフェロモンに似た物質をほ場全体に漂わせることで煙幕を張り、メスの位置を特定できないようにすることである。つまり、メスを探そうにも、あたり一面に魅力的なメスの匂いが漂い、本物のメスを探そうにも探し出せなくして交尾を邪魔するのである。
ただ例外もある。それは、たまに行き当たりバッタリで偶然にも本物のメスと出会うことに成功するオスがわずかながらもいたり、フェロモンが設置されていない畑などで交尾を済ませたメスが、フェロモン設置の畑に飛び込んでくる場合などである。
2.フェロモン剤の上手な使い方
(1)誘因型
誘因型は、前述のとおり予察に使われることが多いが、一部防除目的に使用されるフェロモン剤もある。(以下の表)
これらは、作物名や使用方法を特徴をつかむために簡便にきしているので、使用前に農薬ラベルをよく読んで正しく使うこと。
(2)交信かく乱型
交信かく乱型は、その目的から交尾阻害型とも呼ばれる。このタイプのフェロモン剤は、ロープ状かスティック状のディスペンサーと呼ばれる専用容器にフェロモン様物質が封入されており、そのディスペンサーから徐々にフェロモン様物質が放出されてほ場内を漂い効果を示す。
使い方は単純で、ディスペンサーを定められた用法を守って設置するだけである。
用法には、害虫の特性から割り出され、実地試験によって効果を確かめられた方法が示されており、具体的には単位面積あたりの設置本数・長さ、設置間隔、設置垂直位置などが定められている。フェロモンの効果を最大限発揮させるには、この用法を確実に守って使用することにつきる。ただ、10aに数百本のディスペンサーを設置しなければならないものもあり、設置には労力がかかることは覚悟しておいてほしい。その分、農薬散布の量や回数を大幅に減らして、害虫の被害を格段に軽減できるというメリットもある。
この交信かく乱型は、広い面積単位で一斉に使用する方が効果も安定しやすく、事例では、20~30haほどのまとまった面積が必要だとされている。もし、作付けのほ場が飛び石になるようであれば、作物が作付けされていない部分にもディスペンサーを設置する方が効果は安定するが経費的な課題も残る。ただ、フェロモン剤は、できるだけまとまったほ場単位(産地単位)で一斉に設置した方が効果も安定することを理解しておいてほしい。
また、ほ場の周囲(連続したほ場の周囲)ではどうしてもフェロモン煙幕に隙間ができやすくなるので、周囲ではディスペンサー量を多くすると良い。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 石川県2025年7月4日
-
(442)エーカレッジ(作付面積)から見る変化【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月4日
-
【JA人事】JAながさき県央(長崎県)里山耕治組合長を再任(6月27日)2025年7月4日
-
人的資本を人事制度で具体化する 「令和7年度 人事制度改善セミナー」開催 JA全中2025年7月4日
-
「有機薄膜太陽電池」で発電した電力 ブドウの着色に活用 実証実験開始 山梨県2025年7月4日
-
株主優待制度を新設 農業総研2025年7月4日
-
夏の訪れ告げる初競りの早生桃 福島県産「はつひめ」販売 青木フルーツ2025年7月4日
-
ニッテン「スズラン印」ロゴマークをリニューアル 日本甜菜製糖2025年7月4日
-
「国際協同組合年」認知度調査「生協に参加したい」が7割 パルシステム2025年7月4日
-
洋菓子のコロンバン主催「全国いちご選手権」あまりんが4連覇達成2025年7月4日
-
野菜わなげや野菜つり 遊んで学ぶ「おいしいこども縁日」道の駅とよはしで開催2025年7月4日
-
北海道初進出「北海道伊達生産センター」完成 村上農園2025年7月4日
-
震災乗り越え健康な親鶏を飼育 宮城のたまご生産を利用者が監査 パルシステム東京2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「農政技術(森林)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「獣医師(家畜保健衛生分野)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
信州の味が集結 JA全農長野×ファミマ共同開発商品 長野県知事に紹介2025年7月4日
-
障害者のやりがい・働きがい・生きがい「ガチャタマ」で応援 パルシステム埼玉2025年7月4日
-
参議院選挙に行ってとんかつ割引「選挙割り」実施 平田牧場2025年7月4日
-
作物と微生物の多様な共生が拓く農業の未来 意見論文が米国植物科学誌に掲載 国際農研2025年7月4日
-
国産率100%肥料の商品を販売開始 グリーンコープ共同体2025年7月4日