農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(7)【防除学習帖】 第246回2024年4月20日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探る必要がある。そのことを実現するのに必要なツールなり技術を確立するには、やはりIPM防除の有効活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、どのようにIPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか検討してみたいと考えている。
IPM防除は、化学農薬による化学的防除に加え、化学的防除以外の防除法である①生物的防除や②物理的防除、③耕種的防除を効率よく組み合わせて防除するものである。化学的防除に関しては、既に検証・紹介し、みどり戦略対策の考え方を一定程度整理したので、現在は次の段階として化学的防除以外の防除法にどのような技術があるのか、その詳細を紹介しながら、導入にあたっての留意点を紹介している。
前回までに主な生物的防除剤の紹介が済んだので、生物的防除剤の最後にこれまでに紹介していなかった生物防除剤を紹介する。
1. 水稲種子消毒用微生物殺菌剤
水稲栽培において、いもち病やばか苗病など種子伝染性病害の防除のために、化学農薬による種子消毒や温湯消毒が実施されている。これらの種子伝染性病害を防除できる微生物殺菌剤には、トリコデルマ菌(糸状菌)を有効成分とするエコホープシリーズ、タラロマイセス菌(糸状菌)を有効成分とするタフブロックシリーズの2種がある。両菌ともに、種子周辺や幼芽、根圏で増殖して生育域を拡大し、病原菌と競合して病原菌の増殖を抑えて病害の発生を抑制するのが主な作用である。ただし、トリコデルマ菌(エコホープ)については、ばか苗病菌の菌糸や胞子を溶かす溶菌作用が、タラロマイセス菌(タフブロック)については病原菌に吸着あるいは貫通して、寄生・捕食する作用もあることが確認されており、こういった作用が防除効果の安定に結びついていると考えられている。
種籾に処理する際には、微生物殺菌剤ができるだけ多く付着するように、浸漬後の引き上げ作業はゆっくり丁寧に行い、また、どちらの有効成分微生物の生育適温が30℃前後なので、その温度が保たれる催芽時に浸漬処理するのが最も効果が高くなる処理法である。このような微生物剤の特性をよく把握して、使用上の注意事項を守って使用することが何より重要である。

2.除草防除に使用される生物農薬
生物農薬(除草剤)は、使用しても有効成分の使用回数カウントが無い貴重な除草剤であるため、一時期は利用が進んだ。しかし、使用時期を逃すと効果がないことや使用できる時期が限られることや、対象の草種以外には全く効果が無いことから、実際の営農の場面では効率的な使用が難しいことなどから、次第に使用が減り、経済的な理由で登録失効となった。
これは、雑草を侵す病原菌を有効成分にして、雑草を病気にさせて退治する生物農薬であり、今後、再び開発される可能性もあるため、有効成分別に特徴を参考までに紹介しておきたい。
(1)糸状菌が有効成分のもの
販売していた時の商品名がタスマートという生物除草剤があった。
その有効成分はドレクスレラ モノセラスという糸状菌であり、ノビエやタイヌビエなどイネ科ヒエ属雑草にのみ病原性を示す微生物で、イネはもちろん、ヒエ属以外の植物には何の影響も及ぼさない。田面水中でヒエ属雑草の実生に付着し、発芽して菌糸をヒエ体内にはびこらせて7~10日後に枯らす。
ドレクスレラ モノセラスは、発芽後間もない時から最大でも2葉期までのヒエ実生にしか効果がないので、この時期を逃さず散布することと、菌の胞子がヒエの体に安定的に付着するようにするため、少なくともヒエが水に沈む程度の水深を7日間は保つことが安定した除草効果を得るための必要条件である。
(2)細菌が有効成分のもの
販売していた時の商品名がキャンペリコという生物除草剤があった。
その有効成分は、ザントモナス キャンペストリスという細菌であり、スズメノカタビラに特異的に病原性を示す。つまり、有効成分の細菌が、スズメノカタビラに感染し、病気にさせて枯らすということだ。そのため、除草効果を発揮させるためには、有効成分である細菌をスズメノカタビラに感染させなければならない。細菌は、傷口や気孔などの開放部から雑草体内に侵入するので、スズメノカタビラに多くの傷がある状態でキャンペリコを散布した方が効果も安定する。幸い、芝は刈り込みという作業があるので、刈り込み後には、スズメノカタビラは傷ついており、多くの開口部ができているため、その傷に向けて散布するとよい。それによって効率よく感染させることができ、その結果、効率よくスズメノカタビラを枯らすことができる。

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