農薬:防除学習帖
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(85)炭酸水素塩【防除学習帖】第324回2025年11月15日
令和3年5月に公表され、農業界に衝撃を与えた「みどりの食料システム戦略」。防除学習帖では、そこに示された減化学農薬に関するKPIをただ単にクリアするのではなく、できるだけ作物の収量・品質を落とさない防除を実現した上でKPIをクリアできる方法を探っており、そのことを実現するのにはIPM防除の活用が重要だ。そこで、防除学習帖では、IPM防除資材・技術をどのように活用すれば防除効果を落とさずに化学農薬のリスク換算量を減らすことができるのか探りたいと考えている。
IPM防除では、みどり戦略対策に限らず化学的防除法以外の防除法を偏りなく組み合わせ、必要な場面では化学的防除を使用して防除効果の最大化を狙うのが基本だ。その際、農薬のリスク換算量を減らせる有効成分や使用方法を選択できればみどり戦略対策にもなるので、本稿では現在、農薬の有効成分ごとにその作用点、特性、リスク係数、防除できる病害虫草等を整理し、より効率良く防除できてリスク換算量を減らすことができる道がないかを探っている。そのため、登録農薬の有効成分ごとに、その作用機構を分類し、RACコードの順番に整理を試みている。現在FRACコード表日本版(2023年8月)に基づいて整理し紹介しているが、整理の都合上、FRACコード表と項目の並びや内容の表記方法が若干異なることをご容赦願いたい。
38.炭酸水素塩
(1)作用機構:[U]不明
(2)作用点:不明
(3)グループ名:炭酸水素塩/FRACコード[NC]
※FRACの表記では「種々」となっているが、本稿では構造から理解しやすいと考えて「炭酸水素塩」と表記した。化学グループ名も同様に「炭酸水素塩」とした。
(4)殺菌剤の耐性リスク:不明(ほとんど無いと考えられている)
(5)耐性菌の発生状況:無し
(6)化学グループ名/有効成分名(農薬名):
このグループには現在のところ1つの化学グループおよび2つの有効成分名、農薬名がある。
[1]:炭酸水素塩/炭酸水素ナトリウム(ハーモメイト)
[2]:炭酸水素塩/炭酸水素カリウム(カリグリーン)
(7)グループの特性:
このグループは単純な炭酸水素塩の構造をしており、塩を構成するアルカリ金属の違いによって今のところ、2つの有効成分が農薬登録されている。
これらは、希釈液(水溶液)となると塩がイオン化し、金属イオン(ハーモメイト:Na+,カリグリーン:K+)が発生する。この金属イオンが病原菌の細胞に浸透移行し、細胞内のイオンバランスを崩すことによって細胞機能に障害を起こし、殺菌効果を示すと考えられている。病原菌の菌体に直接作用させることによってはじめて殺菌効果を発揮するので、病害が発生した後の治療効果のみを示し、残効性もない。このため、病害が発生する前に予防散布しても全く効果がなく、発生を確認したら速やかに散布し、その後に新たな病斑が確認できたら追加散布を実施する。つまり、新たな発病を発見するたびに繰り返し散布する必要がある。本剤の散布回数は無制限であり、耐性菌発生の可能性も無いので、安心して繰り返し散布が可能だが、本剤だけで防除するのはコストが割高になるため、他の殺菌剤とのローテーション防除の1剤として使用されることが多い。うどんこ病や灰色かび病など病斑の表面に病原菌が確認でき、病原菌に直接散布することができる病害に治療効果を示す。
(8)リスク換算係数とリスク換算量削減の考え方:
この化学グループに属する炭酸水素ナトリウム(重曹)は食品添加物であり、ADIの設定は不要とされており、同様に炭酸水素カリウムもワインの加工用助剤として使用されるなど安全性が高く、ADIの設定は不要とされている。従って、炭酸水素塩は単独で使用する限り、リスク換算総量に与える影響は皆無であり、削減の対象とならない貴重な殺菌剤である。施設園芸を中心に回数制限なく使用できる殺菌剤として大いに活用できる。
(9)炭酸水素塩の農薬登録がある主要病原菌一覧
炭酸水素塩の農薬登録がある主要作物・病害名・病原菌別有効成分の一覧を次表に示した。これらの他、他の殺菌剤との混合剤も存在するので、実際の使用前には必ず製品のラベルにて登録内容(適用作物・適用病害・使用方法等)を確認して正しく使用してほしい。

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