線虫の性はランダムに決定 発生ノイズが影響大と判明 明大農学部2022年6月8日
明治大学農学部の新屋良治准教授、宮崎大学医学部の菊地泰生准教授、米国カリフォルニア工科大学のPaul W. Sternberg教授らを中心とする研究チームは、マツ材線虫病の病原体である「マツノザイセンチュウ」とその近縁線虫種「Bursaphelenchus okinawaensis」2種の性がランダムに決まる可能性が高いことを明らかにした。さらに、線虫の性決定には発生ノイズの影響が大きいことが判明し、マツ枯れなど寄生線虫病制御の研究にもつながる可能性がある。
同研究チームは、マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウとその近縁線虫種であるB. okinawaensisの性決定機構の解明に取り組んだ。マツ材線虫病は世界四大樹木病害の一つとして知られるほど深刻な病気。日本国内では古くからマツ枯れや松くい虫病として知られている。その病原体であるマツノザイセンチュウにはメスとオスの2性が存在するが、雌雄比は1:1ではなく通常メスが多く生まれる。また、B. okinawaensisには雌雄同体とオスの2性が存在し、通常99%以上が雌雄同体で、ごくまれにオスが生まれる。雌雄同体とオスの交尾により生まれる子孫も同様に99%が雌雄同体であるため、性染色体性決定ではない別の仕組みにより性が決まることが疑われた。
まず、同研究チームは両線虫種において、メス(雌雄同体)とオスの染色体構造を観察し、染色体構造に雌雄差がないことを確認。次に、染色体観察ではわからないゲノム上の小さな違いがあるかを確認するためにゲノム配列情報を雌雄別に取得したが、雌雄間で違いは確認されなかった。
図1
これらの実験により、性染色体の存在は否定されたため、その後、環境性決定やその他既知の性決定機構に合致するかを詳細に調べた。しかし、線虫はさまざまな環境下でも常にほぼ一定の雌雄比を示し、その仕組みは既知の性決定機構のいずれとも違うことが明らかになった(図1)。
図2
B. okinawaensisは、雌雄同体単独で遺伝的にほぼ同一な子孫を残せるにもかかわらず、均一培養条件下においても、低い一定の確率でオスが生まれ、このオスとメスのゲノム情報には違いがない。これら数多くの状況証拠から、今回調べた線虫種のうち少なくともB. okinawaensisは、発生ノイズを主因としてランダムに性が決まると結論付けた(図2)。
同研究では、B. okinawaenesisにおける遺伝学解析により、初めて植物寄生性線虫を含むグループにおける性決定遺伝子の同定に成功。モデル生物である線虫Caenorhabditis elegansの性決定カスケードと比較すると、B. okinawaensisではtra-1を含む一部の下流遺伝子のみが保存されており、改めて線虫内における性決定機構の多様化が明らかになった(図3)。

同研究でランダム性決定が明らかになったB. okinawaensisは、近年新たなモデル線虫種として確立されつつある。今後は、同線虫種を用いて性決定の引き金となるノイズが生じる原因の解明が期待される。また、今回確認されたような遺伝情報の変化を伴わない表現型のばらつきは、急激な環境変動に対して迅速に対応できる利点があることが示唆されている。B. okinawaensisの生態を深く理解することで、ランダム性決定の生態的意義を明らかにすることが期待される。
同研究では、B. okinawaensisの遺伝学解析基盤を整備し、性決定に関与する遺伝子の同定にも成功。これまで、植物寄生性線虫グループにおいて性決定の分子機構は全く明らかになっていなかったため、同研究で得られた知見は今後、植物寄生性線虫の性決定機構の解明に利用できる。
同研究チームは、今回得られた知見を基にして、植物寄生性線虫の性を人為的に操作し、寄生線虫病を制御することを目指している。
この研究成果は、科学雑誌『Nature Communications』に掲載された。
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】シキミ、カンキツにチュウゴクアミガサハゴロモ 県内で初めて確認 宮崎県2025年11月6日 -
【注意報】野菜類・花き類にチョウ目害虫 県内全域で多発のおそれ 埼玉県2025年11月6日 -
米の生産費高止まり 60kg1万5814円 24年産米2025年11月6日 -
栗ご飯・栗タマバチ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第363回2025年11月6日 -
輸出の人気切り花スイートピー生産の危機【花づくりの現場から 宇田明】第72回2025年11月6日 -
熊本県の大雨被害に災害見舞金を贈呈 JA全国共済会2025年11月6日 -
千葉県から掘りたてを直送「レトルトゆで落花生 おおまさり」販売開始 JAタウン2025年11月6日 -
「たすけあい story エピソード投稿キャンペーン」 公式X・Instagramで募集開始 抽選で特選ギフト JA共済連2025年11月6日 -
東京育ち 幻の黒毛和牛「東京ビーフ」販売開始 JAタウン2025年11月6日 -
GREEN×EXPO2027まで500日 横浜市18区で一斉の取り組みで機運醸成2025年11月6日 -
オンライン農業機械展示会「オンラインEXPO 2025 WINTER」を公開中 ヤンマー2025年11月6日 -
第6回全社技能コンクールを開催 若手社員の技術向上を目的に 井関農機2025年11月6日 -
兵庫県 尼崎市農業祭・尼崎市そ菜品評会「あまやさいグランプリ」9日に開催2025年11月6日 -
静岡・三島でクラフトビール×箱根西麓三島野菜の祭「三島麦空」開催2025年11月6日 -
森林・林業業界の持続的価値創出へ「ポジティブ・インパクト・ファイナンス」実施 森未来2025年11月6日 -
ホクトのエリンギ プリプリ食感になって26年振りにリニューアル2025年11月6日 -
豆乳生産量 2025年度7-9月期 前年同期109% 日本豆乳協会2025年11月6日 -
鳥インフル 米イリノイ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年11月6日 -
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年11月6日 -
収穫体験やお米抽選会「いちはら大収穫祭2025」開催 千葉県市原市2025年11月6日


































