都市の熱さで植物は赤く進化 ヒートアイランドへの急速な適応進化を実証 千葉大学2023年10月24日
千葉大学大学院園芸学研究院の深野祐也准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授、内田圭助教、東京都立大学大学院理学研究科の立木佑弥助教、かずさDNA研究所植物ゲノム・遺伝学研究室の白澤健太室長、佐藤光彦研究員らの共同研究グループは、都市の高温ストレス(ヒートアイランド)により、カタバミの葉の色が赤く進化し高温耐性を獲得していることを発見した。ヒートアイランドによる植物の進化を初めて明らかにした成果で、今後、温暖化が進んだ世界の生物動態の予測や、高温下で栽培される農産物の開発につながる可能性がある。
都市の雑草は、時として地温が50℃を超える暑い日でも高温に耐えて生きていることから、都市の高温ストレスは、都市雑草の高温耐性を進化させているかもしれない。世界中の研究者が、都市の生物で急速な進化が起きていることを報告しているが、「都市の高温」が植物をどう進化させるのかは、誰も調べていなかった。
同研究グループは、世界中の都市や農地に生えている植物のカタバミに注目。カタバミは、通常の緑の葉を持つ個体だけでなく、真っ赤な葉を持つ個体まで種内に葉色の変異があるという明確な特徴がある(写真1)。また、カタバミの赤葉は、個体内で緑から赤に変化する樹木の紅葉などと違い、生まれたときから赤いままであることから、カタバミの葉色の違いの多くは遺伝的に決まっている遺伝的変異といえる。同研究グループは、都市部では赤いカタバミが多いことに気が付き、これは都市の高温に対する適応進化かもしれないと考え、この仮説を生態学・植物生理学・遺伝学アプローチで多角的に検証した。
東京都市圏の26地点で野外調査をしたところ、芝生や農地など緑地に比べ都市部では赤い葉のカタバミが多くなるという明確な傾向があった(図1)。緑葉と赤葉の変化は急激で、公園の芝生と住宅を比べると、たった数十メートルしか離れていないのに、葉の色が大きく変わっていた。
次に、都市-赤葉、緑地-緑葉というパターンが高温ストレスという選択圧によって生じたのか調査。もし高温ストレスによって赤い葉が進化したなら、高温環境では赤葉の方が有利になる。逆に、通常の栽培環境(25℃)では、緑葉の方が有利になると予想される。
同研究チームは、都市を模したレンガ圃場、温室、人工気象装置での栽培実験や葉の光合成活性の測定など様々な手法でこの予測を検証。その結果、どの実験でも予測を支持する結果が得られた。つまり、高温下(35℃)では緑葉よりも赤葉の方が、高い光合成活性を示し成長が良かった一方(図2)、通常の気温では赤葉よりも緑葉の方が、高い光合成活性を示し成長が良かった。これは、都市の高温ストレスによって、都市で赤葉を進化したことを示唆する。
さらに、都市の赤葉の進化プロセスを集団遺伝学的手法によって推定。東京都市圏の都市と緑地のカタバミ136個体を対象に、ゲノムワイドなSNPの多型を分析することで、集団の進化の歴史を推定したところ、赤葉は一度だけ進化し東京中に広まったわけではなく、色々な場所で緑葉から赤葉への進化が何度も起こったことが示唆された。
さらに、この進化の普遍性を検証。もし都市の高温ストレスがカタバミを赤く進化させるなら、東京都市圏以外の、世界中の都市でも同じようなパターンが観察されることになる。同研究チームは、この予測を、世界的な市民観察プラットフォームで、観察データがオープンに利用できるiNaturalistのデータベースを使って検証。世界中からアップロードされた9561枚のカタバミの写真を分析すると、予測通り都市部のカタバミは赤葉の割合が高いことが分かった(図3)。
以上の結果から、都市の高温ストレスによってカタバミの葉の色が赤く進化し高温耐性を獲得していることを示し、生態学者、植物生理学者、遺伝学者がチームを組むことでヒートアイランドへの適応が包括的に理解できた。
都市はヒートアイランドによって周囲より数℃以上暑くなっているため、都市は未来の温暖化を先取りしているともいえる。この研究のように、都市の高温環境でおきる急速な進化を解明することで、今後温暖化が進んだ世界の生物の動態を予測し、うまく対処することに繋がる。また、高温適応にかかわる遺伝子が解明されることで、将来の高温下で行われる農産物の開発の役に立つと期待される。
同研究成果は10月20日、『Science Advances』において電子出版された。
重要な記事
最新の記事
-
(448)郷愁とノスタルジー【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年8月15日
-
あらゆる暴力の即時停止を 被爆・戦後80年にメッセージ発表 パルシステム連合会2025年8月15日
-
京都府「第3回京のこだわり畜産物レシピコンテスト」開催2025年8月15日
-
「パンのフェス2025」三井アウトレットパーク木更津で9月に開催2025年8月15日
-
機械審査なし「お米番付12回大会」エントリー開始 八代目儀兵衛2025年8月15日
-
東京23区の住民 過去1年間に森林を訪れたのは3人に1人 森林総研2025年8月15日
-
【サステナ防除のすすめ2025】秋冬野菜の病害虫防除 異常気象こそ先手対応を2025年8月14日
-
見なくなった案山子、燕・雀・烏【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第353回2025年8月14日
-
花がよく売れるお盆・彼岸から見えてくる花産業の問題点【花づくりの現場から 宇田明】第66回2025年8月14日
-
渡り鳥「キビタキ」「ノビタキ」越冬地との間の移動経路を明らかに 森林総研2025年8月14日
-
国産・添加物削減・減農薬にこだわり「デポー国領駅前」リニューアルオープン 生活クラブ生協2025年8月14日
-
果実のフードロス削減・農家支援へ「キリン 氷結 mottainai 浜なし」再登場2025年8月14日
-
【役員人事】バイエル(9月1日付)2025年8月14日
-
「地元で働きたい」に応える 地域限定採用で安定雇用も実現 パルシステム埼玉2025年8月14日
-
政府の「米増産」方針 立ちはだかる「壁」と拭えぬ不安 産地JAと米農家の声2025年8月13日
-
【サステナ防除のすすめ2025】果菜類(施設)編 太陽熱で死滅狙う(1)2025年8月13日
-
【サステナ防除のすすめ2025】果菜類(施設)編 太陽熱で死滅狙う(2)2025年8月13日
-
危険な暑さご用心【消費者の目・花ちゃん】2025年8月13日
-
「新潟県産もも」旬の食べ比べ講座 品種ごとの味や食感を学ぶ JA新潟かがやきなど関連団体2025年8月13日
-
親子で地球にやさしいエネルギーを体験「とよたパクパク★ECOフェスタ」開催 生活クラブ愛知2025年8月13日