生産資材:JA全農がめざすもの
【JA全農がめざすもの】生産資材部・ゆめファーム全農 栽培から出荷まで総合的なノウハウを蓄積2014年12月9日
・高い天井、大きな施設
・最高の技術指導者と提携
・最適な栽培環境を実現
・40t収穫を目標に
栽培施設の設置から栽培管理・収穫販売までのノウハウを蓄積し、それをパッケージ化して、担い手に総合的に提案することで産地振興に貢献する。トマト栽培実証施設「ゆめファーム全農」(全農営農・技術センター生産資材研究室栃木分室)は、こうした目的を実現するために栃木県栃木市につくられた。収穫作業が本格化した11月中旬に訪問した。
◆高い天井、大きな施設
「ほー 大きいな!」というのが、「ゆめファーム全農」の施設(ハウス)の中に一歩入った率直な感想だった。間口9m×奥行44m×8連棟、面積は約32aということもあるが、軒高が5mもあり、植えられたトマト上部の空間を大きくして誘引空間を確保しているので、見上げたときに大きさを感じるからだろう。
ハウスに必要な一つひとつの資材は今までにも数多く取り扱ってきているが、「それらの資材が組み合わされ一つになったときにどんな効果があるのか、きちんと実証する」こと。さらにトマト栽培のノウハウをも蓄積して、「資材だけではなく栽培ノウハウを含めた総合的な提案をしていきたい」と、安田忠孝全農生産資材部長が本紙に語ってくれた実証栽培施設がこの「ゆめファーム全農」だ。
◆最高の技術指導者と提携
ゆめファーム全農を始めるにあたって全農は、地元のJAしもつけ(栃木市)管内のトマト生産者である大山寛氏(有限会社サンファーム・オオヤマ)と技術主管として契約した。
大山氏は、全国野菜園芸技術研究会(全野研)会長で、国内最高水準の栽培技術をもつ生産者だ。県農業試験場、全農栃木県本部と「高軒高ハウス・ハイワイヤー誘引」技術を共同開発し、2002年に自作地へ導入。トマト土耕栽培による収量25t/10aプロジェクト「ドリーム25」の中心人物として取り組み、目標達成後もさまざまな技術を駆使して収量を増やし、現在では栽培面積1haで33t/10aを達成している。02年にはトマト部会として「天皇杯」、08年には農水省「農業技術の匠」、12年には「黄綬褒章」を受賞。現在でもさらなる収量増と後進の育成に取り組んでいる「スーパー生産者」だ。
その大山技術主管の技術指導を受け、JAしもつけ、同トマト生産部会、県農業試験場や農業振興事務所などの協力をえて、「ゆめファーム全農」の実証栽培はスタートした。
8月9日に、トマト苗約8900本の定植が完了し、10月上旬から収穫が始まり、来年7月上旬まで、部会の一員となったJAしもつけに出荷していく予定だ。全農がJAの生産部会員となって出荷することも初めての試みだという。
(写真)
光合成を促進するために二酸化炭素を送風
◆最適な栽培環境を実現
ハウス内は軒高が高いだけではなく、さまざまな工夫がされている。
外張りのフィルムは、現在開発中の「散乱光型フッ素系フィルム」を使っている。このフィルムは、ハウス内の透過光線総量を減少させずに、散乱光線を若干増加させることで、ハウス内に取り入れる太陽光のムラを少なくするとともに、骨材などの影による影響を減らして作物が効率的に受光できるようにしている。
さらに天井部2層カーテンや気泡入り農PO側面カーテンを導入し、ハウス内の保温性を高めている。また、重油焚温風暖房機とその吸気口に、取り付けタイプの低コストヒートポンプを導入し、ヒートポンプを優先稼働させるハイブリッド運転で燃油を節減。さらにポリエチレン製フレキシブルチューブをハウス上層部から土中にかけて設置し、上層部の温かい空気を土中に取り込んで地温上昇をはかるなど、新たな省エネ対策技術にも取り組んでいる。
ハウス内を見て気づくのは、群落内に太い透明なダクトが設置されていることだ。これは、光合成を促進するために、炭酸ガス発生装置を導入し、ダクトを使ってトマト群落内に二酸化炭素を局所施用する送風装置だ。この装置では、細霧装置での加湿などによる飽差の制御、飽差を指標とした二酸化炭素施用制御にも取り組んでいる。
こうしたさまざまな装置類は「複合環境制御装置」「ハウス環境モニタリングシステム」を組み合わせて管理し、各種機器と換気装置の動作を制御して最適な栽培環境をつくっている。
同時に、ICTクラウドを利用して測定データを記録・蓄積し、栽培管理データとして活用しているが、制御ロジックの開発にも役立てている。このシステムはスマホやタブレットでハウス内外の環境確認や異常警報の受信ができるだけではなく、管理項目の設定値をリモートコントロールすることもできる。
◆40t収穫を目標に
現在、栽培されているのは、トマト部会指定品種の「マイロック」だ。大山技術主管の指導の下、常より密植させ、高さ3.3mの位置から誘引するハイワイヤー方式で栽培されている。生育中盤以降は側枝を伸ばして、収穫玉数を増やしていくと、営農・技術センター生産資材研究室長兼栃木分室長の広本直樹さん。
高軒高栽培に適応した品種の選定試験も並行して進められており、その中から新しいスターが誕生するのかもしれない。
また肥培管理については、通路施肥や液肥追肥を行い、長期多段取り栽培に適した施肥設計の検討も進めていくという。
いままでの全農にはなかった施設であり、試みであることから、「ゆめファーム全農」にかかる期待は大きい。今年から始まったばかりなので、初年度でどこまでその期待に応えられるのかは未知数だが、広本室長をはじめここで働いている皆さんの顔をみていると「けっこういける」という感じがした。
また、栃木県下での施設トマト土耕栽培の収量は、10カ月収穫で18?23t/10aだというが、「40t/10aを目指していく」と力強く語ってくれた。
そしてここで培われたさまざまな技術やノウハウが、多くの担い手の人たちに受け継がれ、元気な産地づくりへとつながっていくことは間違いないといえる。
(写真)
40t/10aをめざすハウス内
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