【米国大統領選2016】アメリカの危機 トランプ生み出す(上) 萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授2016年11月14日
萩原伸次郎・横浜国立大学名誉教授
米国の次期大統領にトランプ氏が就任する。選挙期間中はTPPからの離脱を表明しているが、どのような外交経済政策を実施していくと予想されるのか。軍事と安全保障も含めて萩原伸次郎・横浜国大名誉教授に解説してもらった。
◆虐げられし労働者の味方
トランプ大統領の誕生は、一言でいえば、アメリカの危機が生み出したものだ。つまり、既成政治の行き詰まりだ。ドナルド・トランプは、そこをうまくついた。だから、共和党大統領候補でありながら、あえて共和党主流派と仲たがいすることで、自分を国民にアッピールしたのだ。
大統領選挙終盤、女性侮蔑発言や「わいせつ発言」が暴露され、下院議長ポール・ライアン(共和党)や上院での実力派議員であるジョン・マケイン(共和党)にも支持しないといわれ、『ワシントン・ポスト』『ニューヨーク・タイムズ』のみならず、保守派経済誌『ウォールストリート・ジャーナル』からもトランプ氏は大統領にふさわしくないといわれたにもかかわらず勝利したのは、自分を従来の共和党候補のエリートとは違うと国民にアッピールし、自分は、「虐げられし米国労働者の味方」だということの演出に成功したからだ。
民主党の「はぐれもの」、バーニー・サンダースは、既成政治家クリントンに敗れて大統領候補になれなかったが、共和党の「はぐれもの」ドナルド・トランプは、既成政治家やメディアに疎外されればされるほど「虐げられし米国労働者」に共感をもって受け入れられたようだ。
ヒラリー・クリントンを既成の政治家、米国最悪の国務長官だ、とこき下ろし、最終盤の10月28日、FBIコミー長官のヒラリーに対するメール再調査発言をフルに利用し、彼女に「嘘つき女」というレッテル貼りを繰り返しながら、大統領の座を射止めたということだろう。
◆新自由主義に逆戻り?
「虐げられし労働者の味方」の演出に成功し、大統領の座を射止めたドナルド・トランプだが、しかし、その経済政策は、新自由主義的経済政策に逆戻りすることが濃厚だ。11月8日大統領選挙と同時に行われた連邦議会選挙では、上下両院とも共和党が多数を占めたからだ。「トランプ現象」によって、共和党は、はからずも、行政府を民主党から奪還することに成功したのみならず、立法府も引き続き上下両院で過半数をとったのだから、笑いが止まらないだろう。
トランプ次期大統領は、米国第一主義をとり、米国をかつてのような偉大な国に取り戻すといっている。彼の言う偉大な国とは、白人優先の排外主義的米国ということだ。移民に関して厳しい措置が取られることは必至だ。オバマ政権は、不法移民の子供たちに対しても一定の条件で強制送還することから外すことを決めたが、トランプは、例外を認めないといっている。そうすると、約130万人の若者が強制送還の対象になるといわれる。犯罪歴のある不法移民の強制送還、テロの温床となっている国からの移民の拒否など、米国における白人優先主義を実行することになれば、分断される米国という事態がより一層深刻となるだろう。
TPPからの離脱が表明される。しかしこの離脱表明は、オバマ政権下でのTPPだから離脱するのであって、共和党の大統領選挙綱領にあるように、TPPにかわる米国の利益となる強力な貿易協定を進めることになるだろう。「大筋合意」のTPPは、確かに、多国籍企業の利益を最優先する協定だったが、労働条項や環境保護条項が含まれていた。パリ協定からの離脱に見られるように、トランプ大統領は、環境保護に関して、米国財界の意向をくんでいる。トランプ大統領の下で新たな通商交渉が提起されることが考えられる。
(写真)米国議会議事堂。トランプ現象によって共和党は上下両院とも多数を占めた。
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