流通:激変する食品スーパー
【第9回】売場を大きく変える可能性が2015年11月26日
前回紹介した「オーガニック」と併せて注目されているのが「機能性表示食品」である。今年4月から開始された新しい制度で、食品に対して「健康の維持・増進に役立つ」といった表示ができるようになった。野菜や果物などの生鮮食品も対象になっている。
◆新たな起爆剤として期待
調査会社のインテージが発表した「健康食品・サプリメント市場 実態把握レポート2015年度版」によると、国内の健康食品・サプリメント市場規模は1兆5785億円と推計され、対前年比2.9%増加している。依然、健康志向が高まりつづけ、食品スーパーも数少ない成長市場として関連商品の充実に努めている。
代表的なものが特定保健用食品(トクホ)だが、消費者庁の審査許可が必要となるため、資金面や時間的な負担が大きく、これまで中小・零細事業者が取り組みにくい側面があった。実際、トクホに限ると、2007年の6798億円をピークに14年は6135億円と減少している(出所:公益財団法人日本健康・栄養食品協会)。
一方、機能性表示食品の許可は事業者が表示の科学的根拠を届けるだけで済み、トクホよりも取り組みやすいので、健康関連商品の新たな起爆剤としての役割が期待されている。
◆難しい生鮮食品の機能性表示
11月20日現在で消費者庁に届けられた機能性表示食品は143で、その内、生鮮食品は2に留まっている。その2つは、「三ヶ日みかん」と株式会社サラダコスモの「大豆イソフラボン大豆もやし」である。中には届出を断念したところもあり、残念ながらまだ活況とは言えない。これにはいくつかの要因がある。
まず1つ目に、産地や収穫時期、土壌の違いなどの環境条件で、表示する機能性の成分量にバラつきが出る懸念だ。
青果物は工業製品ではないので、成分についてはバラつきの懸念が消えない。これを打開するべく、国が新たな分析機器を導入し、科学的根拠につながる研究を進め、許可促進に向けたサポートに着手している。
2つ目は、科学的根拠を示す調査・研究に対する負担の大きさだ。機能性表示食品の届け出では、科学的根拠は自社で実施したものでなくとも可能なのだが、該当するような試験結果や研究のレビューを収集するのが1事業者では困難であり、届け出可能な根拠自体が少ないこともネックになっている。そのため、今後の動向を見守りつつも、様子見を決め込んでいるのが実情である。
今後、手続きや許可へのプロセスの見直しが進めば、青果売場の店頭でも機能性表示食品を目にする機会が増えてくるだろう。
◆存在感高める栄養機能食品
機能性表示食品にはなっていないものの、高機能・高成分を記載した商品が売場での存在感を高めつつある。代表的なのが、カゴメの高リコピントマトや村上農園のカイワレなどのスプラウト、ドールの「ウルトラベジ」シリーズである。
高リコピントマトは、07年から本格的に販売され、定番で取り扱っているスーパーも多い。15年の東京マラソンにおいても走りながら栄養補給ができる食材としてサンプリングを実施し、「野菜と運動」を強く訴求した新たな提案が市場開拓につながっている。
村上農園は6月に従来からあるビタミンB12を含むかいわれをリニューアルし「栄養機能食品」として発売した。
栄養機能食品とは、ビタミンやミネラルが一定量含まれていれば、許可申請や届け出をしなくても機能を表示できる制度で、これまで鶏卵以外の生鮮食品は認められていなかったが、今年度より新たに対象に加えられた。
生鮮食品では、機能性表示食品よりも栄養機能食品の方が浸透がしやすいと指摘する専門家もいる。
「ウルトラベジ」シリーズは、健康志向に着目し、通常よりも栄養素が多く含まれる野菜を商品化しており、これまで2種類を販売している。ドールは、3年前に大手商社の伊藤忠商事に買収され、加工食品を含めドールブランドの商品の提案を積極的に進めている。すでに海外では健康系商品をヒットさせており、今後の動向が気になる企業の1つである。
◆先を見据えて、いまから...
このように先行事例としては、生産が安定しやすい水耕栽培や大手企業の取り組みが中心となっている。また、機能性表示食品の浸透にもまだ時間がかかるだろう。
しかし、それで生産者がこのことに無関心でいる理由にはならない。最近では、生鮮食品に関する大手企業の取り組みは活発であり、健康志向に対応した商品づくりはこれまでにない形で進化していくだろう。さらに、機能性表示食品の手続きがスムーズになれば、対応力の高い企業が積極的に許可申請を進め、新たな需要を開拓する状況は容易に想像できる。
食品スーパーにおいても健康をテーマとした店づくりにさらに力を入れていくのは間違いない。その結果、売場の商品構成が大きく変わる可能性だってあるのだ。その時になってから対応するのでは間に合わない。現状を理解した上で、先を見据えた取り組み・準備を意識してほしい。
大学や研究機関等と連携できるのであれば、根拠作りのための試験や研究は今後の差別化に役立つだろう。
(写真)機能性表示食品「三ヶ日みかん」、栄養機能食品「マルチビタミンB12かいわれ」
重要な記事
最新の記事
-
入会牧野【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第287回2024年4月18日
-
チューリップ切り花が復活の兆し【花づくりの現場から 宇田明】第33回2024年4月18日
-
農基法改正案は廃案に 全国食健連が緊急行動 衆院農水委は18日採決へ2024年4月17日
-
「JA全農杯全国小学生選抜サッカー決勝大会」各地区代表計16チームが決定2024年4月17日
-
食料確保 リスク高まる 生産や備蓄強化と情報の信頼性 農中総研フォーラム2024年4月17日
-
サッカーJ2ベガルタ仙台開催試合でみやぎ米をPR JAグループみやぎ2024年4月17日
-
マルヤナギとJAみのり協働栽培「北播磨のもち麦キラリモチ」おむすび 関西のセブンイレブンで発売2024年4月17日
-
【能登半島地震から100日】現場踏まぬ復興プラン 投入資金"バブル"の恐れ 「榊」出荷の企業家北本政行氏に聞く2024年4月17日
-
YOUはどうして嬉しいの? はて?【小松泰信・地方の眼力】2024年4月17日
-
茨城県JA常陸が子ども食堂を開設 食農教育にも一役「農協の存在を身近に」2024年4月17日
-
【JA人事】JAるもい(北海道)補選で監事に上小倉匤剛氏(4月11日)2024年4月17日
-
農薬出荷数量は5.9%減、農薬出荷金額は2.4%減 2024年農薬年度出荷実績 農薬工業会2024年4月17日
-
業界唯一の加圧式IH炊飯設備の認知拡大目指し「SILK」の専用ウェブサイトを公開 サタケ2024年4月17日
-
畜産DXオンラインセミナー「イノベーターズラウンジ」18日開催2024年4月17日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」ASMRに初挑戦 ご当地煎餅を試食2024年4月17日
-
ジェイエーアメニティーハウス 高速インターネットサービス「NURO 光 Connect」導入2024年4月17日
-
Bリーグ「千葉ジェッツ」第八回食育活動表彰で「農林水産大臣賞」受賞2024年4月17日
-
「第2回 パンのおとも選手権」エントリー受付開始 日本野菜ソムリエ協会2024年4月17日
-
【人事異動】デンカ(5月1日、6月1日付)2024年4月17日
-
富士工業と実証実験 資源循環と環境負荷低減効果を可視化できる数理モデル開発 アクポニ2024年4月17日