学校給食改革 公共食と持続可能な開発への挑戦

- 著者
- ケヴィン・モーガン/ロバータ・ソンニーノ著、杉山道男・大島俊三 共編訳、堀田康雄・野澤義則・下内充 共訳
- 発行所
- 筑波書房
- 発行日
- 2014年3月22日
- 定価
- 3000円+税
- 電話
- 03-3267-8599
- 評者
- 榊田みどり / 農業ジャーナリスト
「子ども第一」世界の波に
同書は、学校給食の位置づけや公共食材調達の仕組みが、いかに地域食材や小規模農家からの供給を困難にしているかを綿密に検証。その上で、2000年以降、世界各地で学校給食改革の波が広がっていることを紹介している。
さらに、学校給食だけでなく、幼稚園から高齢者施設給食などの公共食を軸に、「食の流通の再地域化」が、地域経済の発展、民主主義を維持し持続可能な食料システムの構築にもつながると指摘する。
◆商業化を反省、動き出す行政
従来、食事提供はひとつの産業にすぎず、しかも、公共給食では「質よりコスト優先」という考え方が一般的だった。公共事業である以上、特定地域の食材だけを優先すべきではないという「非差別化」の原則もある。それが、学校給食の物資納入の価値観にもなってきたわけだが、その結果、欧米では給食の商業化が進行し、給食の品質低下や大量の肥満児童を生み出した。
欧米の学校給食改革は、その反省から生まれている。事例として取り上げられているのは、アメリカ・ニューヨーク、イタリア・ローマ、イギリスではロンドンと、ロンドンに先駆け改革に取り組んだ3つの地方都市。また、海外食料援助に依存するアフリカ諸国でも「アフリカ学校給食ネットワーク」が誕生し、自国産給食への挑戦が始まっている事実紹介も興味深い。
各地域の具体的な取り組みを紹介するほど字数がないのが残念だが、たとえばアメリカでは、72年に学校での食事に民間企業の参入を認め、その後、景気後退による国家予算の削減で学校と民間企業との契約が増加。多くの学区で既製食・簡便食が増え、肥満が大きな課題になった。中でも、6歳から11歳の肥満児童率が24%と全国一に達したニューヨーク市では、「子ども第一」を綱領として掲げ、学校給食の指導指針、管理規格を改善。保護者・生徒・行政・NPOと連携し、学校給食改革に乗り出している。
イギリスでは、サッチャー政権下の新自由主義政策の中で公共支出削減が始まり、80年の教育法改正で、それまで国家補助金によるすべての子どもへの義務的サービスだった給食を任意の地域サービスに転換。88年の政権法改正では、学校給食に市場原理を導入し、大幅なコストダウンを実現したが、同時に専門職(栄養師・調理師)の減少、調理場の縮小と加工食化が進行し、給食の質の低下が顕著化した。
◆食文化教育へ視点を明確化
05年、人気シェフのジェミー・オリバーが、給食の質の低下をメディアで広く訴えたことを機に、政府が学校給食基準を改定。06年、ロンドンも、「ロンドンのための健康で持続可能な食材」戦略をスタートしている。
イタリアは、99年に施行された財政法で、公共部門の配食では有機農産物や地域の食材、伝統的な食品などを使用することを義務づける画期的な施策をとった最も理想的な給食改革を実現した国として紹介されている。もともとイタリアの給食制度は、「教育に対する国民の権利」「健康に対する消費者の権利」と位置づけられ、教育的・文化的指標に給食が合致しているか、行政に監査権利が与えられている。価格だけでなく「食文化」教育という基準を明確化している点が、イタリアの特徴でもある。
◇ ◇
さて、日本はどうか。85年に学校給食の合理化通知が出され、調理施設のセンター化や民間委託など効率化が推進されたが、現状ではまだ、アメリカ・イギリスよりもイタリアに近い給食が維持されていると感じる。しかし、若い世代の低所得化、食に対する関心の低さ、学校給食予算の貧困を考えると、アメリカが80年代に歩いた道を日本がこれから歩きかねない危惧も感じる。学校給食関係者だけでなく、農業者、食品加工業者、自治体、廃棄物処理業者を含むフードチェーンにかかわる多くの業界関係者に一読をお勧めしたい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日