全農の株式会社化は共販を壊す2014年7月7日
政府は、全農を株式会社にしたいようだ。
先月の24日に閣議決定した「規制改革実施計画」では、全農・県経済連の株式会社化を「促す」といっている。さすがに、株式会社化せよ、とは言っていない。だが、権力を持った政府が「促す」というのだから見過ごせない。
いまは、全農も経済連も農協だから、共同販売が農協法で認められている。経済的弱者どうしが組織した農協だから、強者の横暴を排除するために、共販が独占禁止法の適用除外になっている。
だが、株式会社になれば、もちろん独禁法が適用され、共販は違法になる。そうなれば、市場で仁義なき戦いが始まる。
ここで問題なのは、全農の一部を株式会社化することではない。すでに全農にはグループ会社として、48もの株式会社がある。全農には35の都府県に県本部があるが、そのグループ会社を加え、さらに12の道県の経済連のグループ会社を加えると、無数の株式会社がある。これが問題なのではない。
問題は、全農の本体を含めて全体を株式会社化するかどうか、である。ことにその中心部門である販売部門を株式会社化するかどうかである。焦点は、共販を続けられるかどうかにある。
◇
共販がなかった戦前はどうだったか、をふり返ってみよう。市場で聞いたことだが、その時代の場面を再現しよう。
都市近郊の農業者がコマツナなどの野菜をリヤカーに乗せて市場へ行き、荷受人に委託して売る場面である。
農業者「野菜を持ってきたので売って下さい」
荷受人「では、店先に置いていって下さい」
数日後
農業者「野菜の代金を受け取りにきました」
荷受人「あれは売れなかった」
農業者「では持って帰るから、引き取りたい」
荷受人「ゴミ捨て場に捨てたから、どれでも持っていっていい」
やや上品な言葉づかいにしたが、実際はもっと激しいやりとりがあったようだ。
農業者は、さぞかし無念だったろう。涙がにじむほどの無念さを抱きしめ、空のリヤカーを引いて帰っていったのだろう。
先人たちは、そうした無念さを集め、大きなエネルギーに変えて、共販体制を築きあげた。そして独禁法の適用除外を勝ち取ったのである。
市場原理主義者には、この無念さは分からないだろう。主義とはそうしたものだ。経済観だけでなく、自然観や社会観、さらに他者へのやさしい思いやりという人間観を含めて「主義」という。
◇
では、共販体制になった今はどうか。共販の窓口をしている農協と、市場の荷受人との電話のやりとりを再現しよう。
農協「今日のコマツナは何円で売れましたか」
荷受人「80円でした」
農協「隣の市場では90円だったから、貴社への明日の出荷量は減らすしかない」
荷受人「明日は頑張るから、減らさないで下さい」
共販体制になってから、農協と荷受人とは、このように対等の関係になった。
◇
全農と経済連は、こうした共販体制の中で、単協の間に入って、単協をまたぐ共販を実現するなどの調整をしてきた。
また、野菜のリレー出荷の体制を作って、供給の安定を実現してきた。もしもリレー出荷がなかったら、端境期には野菜価格が暴騰しただろうし、出荷最盛期には、産地間の激しい競争で価格が暴落しただろう。
リレー出荷は、農家の経営を安定させただけでなく、国民の家計をも安定させたのである。
◇
政府は、こうした共販体制を壊そうとしている。単協間で自由な競争をすれば、産地が活性化するという。
そうだろうか。
単協の数は、全国で699である。699もの多数の単協を自由な競争にまかせたら、それは弱者どうしの過当競争になる。だから全農や県経済連が間に入って、いくつかの単協をまたぐ共販を作ってきたし、出荷調整もしてきた。全農や経済連は農協だから、そうした活動は農協法で認められている。
もしも、全農や経済連が株式会社になったら、そうした活動は、独禁法違反になる。つまり、単協は過当競争をするしかない。
◇
いまのところ政府は、単協まで株式会社化せよ、とは言っていない。単協の共販まで否認する、とは言っていない。だが、それが、いつまで続くことか。
財界は、農業へ株式会社を進出させたい、と考えている。そうなったばあい、その株式会社は農協に入れるとしても入らないだろう。農協は協同組合だから、1億円の資本金の株式会社も、10アールの小規模な農家も、議決権は同じ1票だからである。協同組合は、カネの力では支配できない。それが譲れない大原則である。
だから、株式会社は農協に入らないで、農協と競争することになる。
株式会社は共販はできない。だが、農協は共販できる。これでは不公平だ、と株式会社が言いつのるだろう。財界に弱い政府は、言いなりになって、農協の共販を認めなくなるだろう。
このように、全農の株式会社化に続くのは、単協の株式会社化だろう。そうして共販を全面的に否認し、弱者の抵抗組織を徹底的に破壊する。それが隠された意図だろう。
◇
だが、その前に、株式会社の農業への進出は失敗するだろう。農業は、それほど容易に営めるものではない。その結果、共販という弱者の抵抗組織が壊されるだけになる。これは断固として阻止せねばならぬ。
(前々回 TPP効果による酪農崩壊の危機)
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