理念なき民主党農政2015年5月18日
民主党が農協法改正案を国会に提出した。政府の改正案への対案である。
先日、法案の説明文書を公表した(文書は本文の下)。細部には検討すべきことが多いが、しかし、大筋は首肯すべきものである。
説明文書には、3月24日に発表した「...基本的考え方」を添付した。その中で、「今後、農業者戸別所得補償法案を提出」する、といっている。歓迎すべきことである。
しかし、ここには大きな問題がある。当初の戸別所得補償制度の理念から遠く離れている。
文書をみると、冒頭で、「農業政策の根本は、農家の所得をいかに確保し、…営農を継続する体制を構築するかにある。」と書いている。なぜ農家だけ所得を確保し、営農を継続するのか、書いてない。
これでは、非農家の多くの人たちは、農家だけを特別に優遇して所得を確保するのは不公平な政策だ、と考えるだろう。なぜ、そのためにオレが収めた税金を使うのか、という不満をもつだろう。それなら、わが家の所得も確保する政策を作ってくれよ、ということになる。
ここには、農業政策の基本が書かれていない。だから、こうした不満になる。農家所得を確保し、営農を継続する目的は何か、という政策の理念がない。
◇
戸別所得補償制度は、民主党が2009年の総選挙で掲げた看板政策で、それが多くの国民から支持されて、政権交代の原動力になった。いまでも、大多数の農業者が支持している。
この制度の当初の目的は、農基法で規定されている農政の崇高な目的に副うもので、「人間の生命の維持に欠くことができない」食糧の安定的供給だった。つまり食糧安保だった。また、そのための食糧自給率の向上だった。だから、この制度は、すべての国民のための制度だった。それゆえ、大多数の国民が支持した。
そして、この目的に賛同し、この目的の達成に貢献する全ての農家を制度の対象にした。つまり、規模の大小を問わず、また、年齢の如何を問わずに制度の対象にした。
この考えのもとで、大規模で、いわゆる認定農業者だけを選別して農政の対象にするという選別政策を、明確に否定した。だからこそ、大多数の農業者が支持した。
◇
こんどの文書では、農家所得を確保する目的から食糧安保や自給率向上が消えた。崇高な農政理念が消えた。そして、所得を増やし、営農を継続することを目的にし、矮小化した。所得の増大や営農の継続は手段であって目的ではない。
これでは農業者は使命感を失って落胆するし、多くの国民は支持しないだろう。拝金主義農政といわれても、しかたがない。財界の思う壷だ。
それだけではない。目的が明確でないのは、明確にできない、恥ずかしい目的が隠されているからではないか、とカンぐられても仕方がない。
隠された目的は、選挙のときの票集めのためのバラマキだ、と疑われている。
◇
このバラマキ批判は、当初からあった。民主党は、当初からこの批判に怯えていた。
だが、怯える理由はない。食糧安保が目的だから、この目的に貢献することが条件で、この条件を満たす全ての農家を政策の対象にするのは、当然である。選別政策こそ目的にそぐわない。
だが、こんどは、食糧安保を目的から外し、しかし営農規模で差別しない、といっている。これでは、財界からの、以前よりも激しいバラマキ批判が起きるだろう。
◇
今後、法案にして国会に提出するという。
期待したいが、このままでは成立する可能性は小さい。成立させるには、他の野党の協力が必要になる。他党との共同提案にして、しかも、与党のなかの農林族の賛同を得るしかない。
そのためには、他党を含めた徹底的な検討、ことに政策理念についての再検討が重要になる。その過程で、この制度は磨き上げられるだろう。そうすれば、多くの農業者と国民から熱く支持されるだろう。
◇
農村では、米価の歴史的な低落のなかで、低落を止める岩盤になる戸別所得補償制度に対する農業者の期待が大きくふくらんでいる。その反面で、いまの農政にたいする不満が鬱積している。
この不満が、安保法制や労働法制の審議ともからみ、TPPともからんだ何かのキッカケで、倒閣運動に転化しても不思議はない。政界の一寸先はヤミだという。安倍晋三首相の一強多弱の政治体制が、高ころびに、あおのけに、ころぶかもしれない。
民主党復権の機は熟している。その力量が、期待を込めて注目されている。
◎民主党の資料はこちら
(前回 安保法制と農協の競争至上主義化)
(前々回 統一地方選挙の後に迫る戦前回帰)
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