TPPの暗雲を吹き飛ばそう2016年7月4日
いま、農村にはTPPの暗い雲が重く垂れ込めている。参院選も終盤にさしかかったのに、大手のマスコミは、TPPについて、あまり多くを報道しない。
野党は、TPP交渉の経過をもっと詳しく公開せよという。しかし、与党は、外交交渉だから詳細は公開できないという。
また、野党は、政府の大筋合意は、農産物の重要5品目を守っていないという。だから国会決議に違反しているという。しかし、与党は、守ったという。
さらに、野党は、もしもTPPが発効すれば、日本の農業は壊滅するという。しかし、与党は、そうならないように、充分な対策を立てるという。
与野党の論争は、それ以上に深まらない。浅薄だから、農業者の心に響かない。農業者の苛立ちは、つのるばかりである。
農業者は、この半世紀以上の間、輸入農産物に市場を次々と奪われ、農業を縮小し、苦難を強いられてきた。田畑は荒れ、多くの若者が農村から去った。
これは、自然現象ではない。農業に魅力が有るか無いかの問題でもない。何もかも自由に輸入する、という無原則な自由貿易を、強引に押し進めた政治の結果である。
この政策は、農業者に苦難を強いただけではない。食糧自給率を39%にまで下げ、食糧安保を危機的な状態に陥れた。
これは、輸入自由化の失敗であり、自由化対策として行った農業振興策が、ことごとく失敗したことに原因がある。
◇
言うまでもないが、農業振興策が成功したか失敗したかは、その後、農業が振興したか衰退したか、で判断される。
歴史的事実を、この半世紀の間でみると、農業は衰退し続けてきた。つまり、農業振興策は、半世紀の間、失敗し続けてきた、と評価するしかない。終戦直後から続く小麦の大量輸入を考えれば、4分の3世紀に近くになる。
農業の衰退は、食糧自給率の低下で計ることができる。
歴史的事実を、この半世紀の間でみると、食糧自給率は、1960年度の79%から、2014年度は39%にまで下げ続けた。
この食糧自給率低下の数字が、農業衰退の事実を、したがって、農業振興策の失敗の事実を冷徹に示している。この事実は、正常な判断力のある誰もが否定できない。数字は誤魔化せない
農業の衰退は、自由貿易政策の必然的な結果だったのである。この認識のない議論は、空疎に響くだけだ。耳を傾ける人は、どこにもいない。
◇
この自由貿易政策の総仕上げがTPPである。TPPの前身のGATTでは、関税だけを残し、それ以外の全ての国境措置をなくした。TPPでは残した関税も全てなくすという。つまり、国境措置は全くなくなり、完全に無政府的な自由貿易になる。
いますぐに、そうなるという訳ではない。しかし、その方向へ向かって確実に進むことになる。そして、戻ることはできないルールになっている。
◇
各政党は、農村を荒廃させた原因が、このような自由貿易政策にある、という認識をもっているかどうか。それとも、農村の荒廃の原因は、農業者と農協の努力が足りなかった、という不遜な認識なのかどうか。権力の源泉である主権者としての農業者、いわば神、をも畏れぬ認識かどうか。それがいま、厳しく問われている。
回答の如何によっては、農業者が神になり代わって、天罰を下すだろう。こんどの参院選は、その好機である。
◇
多くのマスコミをみると、農業者はTPPに対して漠然とした不安を抱いている、という。だから、情報を充分に公開して、ていねいに説明すれば、不安は解消する、という。
しかし、農業者は不安を抱いているわけではない。農業者は輸入自由化農政を、農業を衰退させ続けてきた原因として、その根本から否定している。だから、TPPに反対している。それゆえ、丁寧に説明すれば誤解を解いてTPPに賛成する、というものではない。
◇
各政党に聞きたいことは、誤解をおそれずに、あえて言えば、交渉の経過についての問答ではない。重要5品目を守ったかどうかでもない。そのような問答で、相手の言葉じりをとらえ、あげ足をとるような軽薄ともいえる議論は、聞きたくない。聞きたいことは、市場原理主義に基づく輸入自由化農政に対する基本的な政治姿勢である。
その上で、半世紀にもわたる輸入自由化の歴史をふまえ、農業と農村の荒廃をどのような政策で立て直すのか。その政策体系のなかで、市場原理主義に基づく無原則な自由貿易政策、ことに当面するTPPを、どう評価するのか。この論点で、各党の真摯な論争を聞きたい。
そうして、農村の再興を願い、心の底から熱くほとばしって出てくるような言葉で、輸入自由化農政に対する基本的姿勢を、互いにぶつけあうことを期待したい。
この論点を選挙の争点にして、白熱の論争をしないかぎり、農業者はシラけるばかりだ。農村に厚く垂れ込んでいる暗雲を吹き飛ばすことは、できないだろう。
◇
野党4党は、TPPの国会批准に反対することで合意した。TPPについての評価は4党ごとに違うが、しかし、その違いを乗り越えて、いまのTPP大筋合意の国会批准に反対、という点で合意した。
他の各政党は、これに答えねばならない。答えは2つしかない。
1つの答えは、TPPが発効すれば、特別な対策を行わなくても、農業の衰退に歯止めがかかり、農業を振興できる、という答えである。
いままで、自由貿易政策が原因して農業が衰退した、という歴史的事実を踏まえ、しかし、TPPはこれまでの自由貿易政策とは違って農業の衰退を止められる、というのだろう。それなら、どのように違うのか、野党4党をはじめ、多くの国民が心の底から納得する説明が必要である。たがいに口先だけで言い負かしあう、というのではだめだ。
◇
もう1つの答えは、TPPが発効しても、充分な農業振興策を行えば、農業を振興できる、という答えである。
これまでの輸入自由化の長い歴史のなかで、歴代の政府は同じことを言ってきた。そして失敗を重ね、農業を衰退させてきた。そうして、この半世紀以上の間、失敗の山をうず高く積み上げてきた。この山の上に、さらに新しい失敗を積み上げようとするのだろうか。そうして、農業者やその関係者のムダな労力と、ムダなカネを浪費しようとするのか。
こんどこそ、半世紀以上もの長いあいだ犯してきた失敗と同じ失敗をくり返さないというのだろうが、それなら、野党4党をはじめ、多くの国民が納得する充分な説明が必要である。
◇
野党4党以外の政党で、この2つの答えのどちらの考えでもない、という政党があるなら、野党4党の合意に加わり、TPPに反対するしかない。それとも、農業の衰退を放置して神の怒りをかうか。この2つの道しかない。それが論理の必然である。
当分の間、衰退の進行をくい止める、などという一時しのぎの、ふやけた弥縫策ではだめだ。各政党は、白熱した議論を重ね、これまで先人が培ってきた、みどり豊かな農村を再興し、将来にわたって持続するという固い意志を示さねばならない。
各政党は、農業再興の固い意志を国民に示したうえで、次の日曜日に行われる参院選で、国民の厳正な審判を仰ぐことになる。
再興の固い意志を示さない政党には、厳しい審判が下るだろう。
(2016.07.04)
(前回 EU離脱、トランプ現象、そしてTPP)
(前々回 与党化するマスコミ)
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