政権の前のめりと与党の拙速2016年11月3日
少なくとも自ら条文を詳細に分析した分野だけでもTPP批判を書きたいと思いながらこのコラムを引き受けたものの、国会審議を見ているとどうしても政府・与党のやり方にモノ申したくなる気持ちを抑えられない。見るにも聞くにも耐えられないことが展開されている。
◆"熟議"と言いつつ民主主義を押しつぶす
誰の目にもTPP特別委員会での審議は、ほとんど入口議論・周辺議論に終始していると映っている。野党が引き延ばしを図っているからという意見もあるかもしれない。しかし、TPPは深く幅広い内容を含み、私たちのくらしや地域に計り知れない影響を与えるものだ。「強行採決」発言が相次ぐ中で"強行採決をしないとの約束を"という野党の言い分は尊重されるべきだ。
しかし今行われようとしているのは"安保法制"で行われたことと全く同じ。通常一つの重要法案を審議するだけで10時間以上の審議がされると聞くが、"安保法制"と同様11件の関連法案を一纏めにし、TPP承認案と合わせて一括採決を強行しようとしている。
そしてそれにも拘わらず安倍首相は、"熟議"がされれば自ずと採決がされると繰り返し、自公の幹部は今日も(11月1日)、「審議はそろそろ尽くされ採決をする時期が来ている」と発言している。公明党は自民党に歯止めを掛けるどころか補完勢力となり下がり、今は、特別委員会の質問を聞く限り、提灯持ちでしかない存在に成り果てている。
◆国会審議以上にひどい国民への対応
本年2月4日のTPP署名以降、日本では市民への説明会は一度もされないままだ。
他国はどうか? 同じく年内合意を目指しているニュージーランドでさえコンサルティング・プロセスとして市民・各界の意見を聞き、提案書を求め、1000件を超える提案書を受け付けている。豪州も年内承認を目指していたが、参院選と同じ7月に上下院同日選挙が行われ、議会の勢力図が少し変化した。下院では与党が僅差で過半数、上院では与党は少数派となった。現在市民・各界からの意見集約作業を続けておりその報告を年明け2月7日以降に議会へ報告するという決定があらためてなされている。日本とは大違いだ。
◆全文翻訳は本当に! しなくていいのか?
国会でも民進党玉木雄一郎議員が英文約8300ページの3割弱約2300ページしか翻訳されていないのは問題だ、全文翻訳をして審議をすべきだ、と政府を追及している。筆者もザッと眺めたが、日本の付属表は翻訳されているが、国別の付属表の大半は翻訳をされていない。政府は他国の個別の付属表については、概要説明を作成しており問題ないとしているが果たしてそうか?
問題なのは様々な留保措置(例外措置)を挙げている国別の表だ。日本の留保措置の表と比較することで初めて、日本が他国に比べて多くの譲歩を受け入れたのかそうでないのかを評価する上で欠かせない表だ。
例えば附属書Ⅳの(公共的に重要な)国有企業の留保措置を見ると日本はゼロ。日本・シンガポ-ル以外の10ヶ国は、73ページに渡って、社会的に重要で意味のある国有企業をTPPの規制・制約の対象から外している。「政府調達」(政府や自治体、独立行政法人によるモノやサ-ビスの購入)でも日本は各国に比べて圧倒的に門戸を開放している。つまり地元の企業・地域経済が潤う仕組みを脆弱にしていることになる。
◆"誤訳"以外にも問題が...
誤訳の有無をチェックするのは膨大すぎて個人の力に余るので、別の観点からの事例を一つ指摘したい。条文本文と日米交換文書の文章が同じ事柄について大きく異なる約束をしている事例だ。
15章「政府調達」7条「調達計画の公示」5項では、"調達計画の公示に英語を用いるよう努める"とあるが、「保険等の非関税措置に関する日本国政府と米国政府との間の書簡」では、日本語訳文の23ページで「日本語および英語の双方で~中略~アクセスできるようオンライン・サイトの利便性を向上させること」となっている。この交換文書は一応、"国際約束を構成しない"とされているが、この文書の内容の多くは既に実行されているし、"TPPが発効するまでに~中略~実施されることを期待します"、となっている。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(1)養豚農家に寄り添い疾病を防ぐ クリニック北日本分室 菅沼彰大さん2025年9月16日
-
【石破首相退陣に思う】戦後80年の歴史認識 最後に示せ 社民党党首 福島みずほ参議院議員2025年9月16日
-
【今川直人・農協の核心】全中再興(6)2025年9月16日
-
国のプロパガンダで新米のスポット取引価格が反落?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年9月16日
-
准組合員問題にどう向き合うか 11月15日に農協研究会開催 参加者を募集2025年9月16日
-
ファミリーマートと共同開発「メイトー×ニッポンエール 大分産和梨」新発売 JA全農2025年9月16日
-
「JA共済アプリ」が国際的デザイン賞「Red Dot Design Award2025」受賞 国内の共済団体・保険会社として初 JA共済連2025年9月16日
-
秋元真夏の「ゆるふわたいむ」北海道訓子府町で じゃがいもの新品種「ゆめいころ」を収穫 JAタウン2025年9月16日
-
山形県産「シャインマスカット」品評会出品商品を数量限定で予約販売 JAタウン2025年9月16日
-
公式キャラ「トゥンクトゥンク」が大阪万博「ミャクミャク」と初コラボ商品 国際園芸博覧会協会2025年9月16日
-
世界初 土壌団粒単位の微生物シングルセルゲノム解析に成功 農研機構2025年9月16日
-
「令和7年8月6日からの低気圧と前線による大雨に伴う災害」農業経営収入保険の支払い期限を延長(適用地域追加)NOSAI全国連2025年9月16日
-
農薬出荷数量は1.3%増、農薬出荷金額は3.8%増 2025年農薬年度7月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年9月16日
-
林業の人手不足と腰痛課題解消へ 香川西部森林組合がアシストスーツを導入 イノフィス2025年9月16日
-
農業支援でネイチャーポジティブ サステナブルの成長領域を学ぶウェビナー開催2025年9月16日
-
生活協同組合ユーコープの宅配で無印良品の商品を供給開始 良品計画2025年9月16日
-
九州・沖縄の酪農の魅力を体感「らくのうマルシェ2025」博多で開催2025年9月16日
-
「アフガニスタン地震緊急支援募金」全店舗と宅配サービスで実施 コープデリ2025年9月16日
-
小学生がトラクタ遠隔操縦を体験 北大と共同でスマート農業体験イベント開催へ クボタ2025年9月16日
-
不在時のオートロックも玄関前まで配達「スマート置き配」開始 パルシステム千葉2025年9月16日