(008)「ローカル」が持つ「グローバル」化のリスクと可能性2016年12月2日
最近は「ローカル」流行りである。かく言う自分も『ローカル・フードシステム』という翻訳書を出版している。あれほど流行ったグローバル化が最近は旗色が悪い。
グローバル化の象徴として、世界を1つの市場とし、世界中どこでも同じ商品やサービスを提供するような多国籍企業が主役となるような印象が強い。あるいは、世界各国で各々の国の状況に合わせて様々な事業を営む多国籍企業...ということで、グローバル化とは、地域に根差した(この言葉も何をもってそう言うのかは難しいが)企業とは次元が異なるような、得体の知れない大企業中心のことのように印象付けられているようだ。
経営学の世界では、インターナショナル企業、グローバル企業、マルチ・ドメスティック企業、そしてトランスナショナル企業などという分類をする。単に各国でビジネスを実施しているのがインターナショナル企業なら、世界を1つの市場として動くのがグローバル企業、国ごとの特徴を踏まえて事業を展開するのがマルチ・ドメスティック企業で、グローバル企業とローカル企業、両者の特徴を併せ持つ理想的存在が、あくまでも理論的存在としてのトランスナショナル企業...という訳だ。学者はこうしたネーミングが得意である。
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1980年代以降、世の中では一斉にグローバル化が注目され、世界中どこでも全く同じ規格のハンバーガーや車、最近では携帯電話などを入手出来る仕組みが一時代を築いてきた。
ところが、人間というのは不思議なもので、何も無い時には誰もが同じモノを持つことを望みながら、実際にその欲望が満たされると、次は少しでも人とは異なるモノを欲する。そして、その際、人々の欲望を刺激する方向としては異なる2つがある。
1つは、価格低下であり、同じモノならとにかく人より安く、競争相手より安くという方向である。
他の1つは、全く逆の方向で、何等かの理由や機能、あるいは満足感を付加することにより、他よりも高く、付加価値を付ける方向である。
マイケル・ポーターはこれを競争における基本戦略と言い、全ての戦略は最終的には低価格か差別化(あるいは差異化)に分類できるとした。彼のベストセラー『競争の戦略』は今や古典だが、経営学を学ぶ学生や実務家には必読文献である。
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さて、実はローカルとグローバルも似たような状況なのかもしれない。グローバル化の方向に陰りが出、課題が出てきた途端、それまで押され気味(?)であったローカル信者が世界中で息を吹き返してきている。地産地消から地方創生まで、もちろん悪いことではないが、特定の方向だけに力が入りすぎるのは社会のバランスの上で、グローバル化に走りすぎるのと同じ懸念を持たざるを得ない。
例えば、米国農業法におけるローカルの定義は400マイル(約640㎞)である。距離で言えば、東京から青森までを含む。テキサス州やアラスカ州の面積は日本の全国土よりも大きい。テキサス産牛肉は、面積で言えば、日本全国の牛肉よりも広い地域で生産されていることになる。しかも世界中にそのブランドで販売しているとなれば、これはローカル・ブランドではなく、まさにローカルを武器にしたグローバル・ブランドであろう。
地元の農産物の価値を徹底的に追及し、独自のユニークなものとして世界市場で販売した途端にローカルはグローバルになるということだ。そうなると、ローカル化の行きつく先はグローバル化ということになる。
地域の良さを知ってもらいたい、観光客に来てもらいたいと言いながら、いざ大量の観光客が来ると困ってしまう観光地に似ていなくもない。バランスというものは本当に難しい。
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