(015)米国のトウモロコシの長期見通し2017年1月20日
例年、2月下旬に米国ワシントンD.C.では農務省主催の農業観測会議が開催される。今年の予定は2月23~24日である。(https://www.usda.gov/oce/forum/)筆者は米国駐在中は毎年、そして大学に移ってからは可能な限り、この会議に参加していたが、近年はこうした時間を取ることが中々難しい。その代わりではないが、インターネットの普及により、いつでも公表資料が確認できるようになり、その気になれば実に多くのものが世界中で入手できる。
農務省のホームページでは、既にこの会議で公表される内容の一部が早期公表されている。ここではその中で米国のトウモロコシの長期見通しを紹介したい。別表は原データのうち、項目部分を日本語にし、興味深い点をハイライトしたものである。
※ ※ ※
ハイライト部分を順にコメントしていこう。
第1は、1エーカー当たりの単位収量(単収)である。1エーカーあたり何ブッシェルという形である。簡単に言えば、トウモロコシ1ブッシェルは56ポンド、約25.4kgである。また、1エーカーは約0.4haと理解しておけば良い。
筆者がトウモロコシの取引をやり始めた1980年代後半の平均単収は約120ブッシェルであったが、現在では168.4ブッシェルである。これが2026/27年には188.8ブッシェルになることが予想されている。わかりやすく、ヘクタール当たり何トンかという形に換算すれば、現在、1ha当たり約10.6トン取れている米国産トウモロコシの単収は、11.9トンということになる。
第2は、生産面である。現在の生産量は136億ブッシェルだが、2026/27年には148億ブッシェルへと約11億ブッシェルの増加が見通されている。長期的には生産量の増加は先に述べた単収の増加によることを想定している。実際、作付面積も収穫面積も長期的には減少見込である。
※ ※ ※
第3は、需要面である。これは主体となる国内飼料用需要が現在の51億ブッシェルから61億ブッシェルへと10億ブッシェル増加見込であり、増加分をほぼ全て吸収することを想定している。
一方、食品・種子・産業用需要は現状水準を維持しているが、その中心であるエタノール及びその副産物需要は約51~52億ブッシェルでほぼ一定している。
ここでのポイントは、米国のトウモロコシ需要のうち、3分の1がこのエタノール及びその副産物で占められる構造が今後も固定需要と考えられていることである。
さらに、日本に最も関わる「輸出」の部分であるが、こちらは概ね20~21億ブッシェルが見通されている。
以上、需要面では、ほぼ全てが国内飼料用需要の増加に行きつく。
問題は、これだけ増加した飼料需要の結果としての食肉生産がどうなるかであるが、簡単に言えば、米国国内需要だけでなく「食肉輸出」が大きく伸びることを想定しているという点である。この点については、別の機会に記したい。少なくとも、TPPの有無にかかわらず、米国の長期戦略では「食肉輸出」は米国産品の輸出増加という大命題の中で、極めて重要なウエイトを占めるという点は理解しておくべきである。
※ ※ ※
さて、第4は農場価格であるが、こちらは長期的に見ても余り低下するようには見通されていない。在庫率も12~13%で現状水準を維持している。農場価格は安い年には3ドル台の半ばになるが、高くなれば4ドル近くなるというものである。
そして、最後は農家の利益である。一般に、売上高から変動費(と管理可能な個別固定費)を引いた数字を貢献利益と言い、経済学の限界利益に相当する。2015/16年の農場価格は3.61ドル、単収168.4ブッシェルであるから1エーカー当たりの売上高は約608ドルということになる。このうち、変動費が337ドルであるため、これを引くと271ドルとなる。下記の表では「変動費を上回るリターン」という英文の直訳を記したが、一般にはこの数字のことを貢献利益(contribution margin)と言う。
あくまでも見通しであるが、11年間で売上高が15%伸びるのに対し、貢献利益は22%増加する、つまり売上げの額ではなく利益の「質」で考えると、トウモロコシ農家の経営は良くなるということをこの長期見通しでは言いたいのであろう。
表のPDFはこちらから
もちろん、現実にどうなるかは別の問題であることは言うまでもないが、少なくとも米国農務省がこうした将来展望を持っているということは理解しておくべきであろう。
重要な記事
最新の記事
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(1)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(2)2025年9月18日
-
【座談会・どうするJAの担い手づくり】JA鳥取中央会・栗原隆政会長、JAみえきた・生川秀治組合長(3)2025年9月18日
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(3)病気や環境幅広く クリニック西日本分室 小川哲郎さん2025年9月18日
-
【全中・経営ビジョンセミナー】伝統産業「熊野筆」と広島県信用組合に学ぶ 協同組織と地域金融機関の連携2025年9月18日
-
【石破首相退陣に思う】米増産は評価 国のテコ入れで農業守れ 参政党代表 神谷宗幣参議院議員2025年9月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
-
「ひとめぼれ」3万1000円に 全農みやぎが追加払い オファーに応え集荷するため2025年9月18日
-
アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日
-
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」三重県で開催 JA全農2025年9月18日
-
秋の交通安全キャンペーンを開始 FANTASTICS 八木勇征さん主演の新CM放映 特設サイトも公開 JA共済連2025年9月18日
-
西郷倉庫で25年産米入庫始まる JA鶴岡2025年9月18日
-
「いざ土づくり!美味しい富山を届けよう!」秋の土づくり運動を推進 富山県JAグループ2025年9月18日
-
日本初・民間主導の再突入衛星「あおば」打ち上げ事業を支援 JA三井リース2025年9月18日
-
ドトールコーヒー監修アイスバー「ドトール キャラメルカフェラテ」新発売 協同乳業2025年9月18日
-
「らくのうプチマルシェ」28日に新宿で開催 全酪連2025年9月18日
-
埼玉県「スマート農業技術実演・展示会」参加者を募集2025年9月18日
-
「AGRI WEEK in F VILLAGE 2025」に協賛 食と農業を学ぶ秋の祭典 クボタ2025年9月18日
-
農家向け生成AI活用支援サービス「農業AI顧問」提供開始 農情人2025年9月18日
-
段ボール、堆肥、苗で不耕起栽培「ノーディグ菜園」を普及 日本ノーディグ協会2025年9月18日