(017)あらためて「目的」を読む2017年2月3日
「法律はややこしくてかなわん」という人も多いかもしれないが、とりあえず食と農に関する重要な法律の最初に掲げられている「目的」を示す。多くの場合、法律はその第一条で「目的」が掲げられているが、これを正確に認識している人は意外に少ない。
最初は「食料・農業・農村基本法」(1999年)である。やや長いが、「もって=以て」より前が「何をするか」、そして後が、その結果「何を目指すか」という構成である。
第一条 この法律は、食料、農業及び農村に関する施策について、基本理念及びその実現を図るのに基本となる事項を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、食料、農業及び農村に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展を図ることを目的とする。(下線は筆者、以下同じ。)
簡単に言えば、基本事項を定め、責任を明確にし、施策を推進し、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展を図る・・・というものである。この部分は、旧農業基本法では「・・・農業の発展と農業従事者の地位の向上を図ることにあるものとする。(第一条)」であり、大きく変わっている。
※ ※ ※
次に、昨年秋以来焦点となった農協改革に関連する「農業協同組合法」(1947年)の「目的」を示す。
第一条 この法律は、農業者の協同組織の発達を促進することにより、農業生産力の増進及び農業者の経済的社会的地位の向上を図り、もつて国民経済の発展に寄与することを目的とする。
こちらは、短いためわかりやすい。文字通りであるが、中に「農業者の経済的社会的地位の向上」という文言があることに注意したい。「農業・農村の所得倍増」計画については様々な意見があるが、法律の「目的」から根拠を探すとなるとこのあたりか。
※ ※ ※
最後に、「農地法」(1952年)の目的を示す。
第一条 この法律は、国内の農業生産の基盤である農地が現在及び将来における国民のための限られた資源であり、かつ、地域における貴重な資源であることにかんがみ、耕作者自らによる農地の所有が果たしてきている重要な役割も踏まえつつ、農地を農地以外のものにすることを規制するとともに、農地を効率的に利用する耕作者による地域との調和に配慮した農地についての権利の取得を促進し、及び農地の利用関係を調整し、並びに農地の農業上の利用を確保するための措置を講ずることにより、耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的とする。
こちらは一文がかなり長く、いかにも法律の文章だが、「もって」以下は明快である。
※ ※ ※
さて、食と農に関する法律はこれら以外にも複数あるが、あえていくつかの法律の「目的」を再確認したのには理由がある。当局が実施する様々な政策を評価・検証する際、我々は食と農の現場の実情と当局の規制や行動との乖離に目が行きやすい。往々にして双方に不満が出る。何故、理解してもらえないのか、というストレスがお互いに蓄積する。
これらの背景には、当局者が現場の実情を知らないということもあるだろうが、それと同時に、現場も何故、当局はこのような法律を定めたのか、そもそもその法律が何を「目的」としているのかを充分に理解しておく必要がある。
現行法の下での議論をするとすれば、「その施策は本当に『国民生活の安定向上及び国民経済の健全な発展に寄与』しているのか?」であり、「農協改革の方向は、本当に『農業者の協同組織の発達を促進』し、『農業生産力を増進』と『農業者の経済的社会的地位の向上』をもたらし、『国民経済の発展に寄与』しているのか」、そして、「耕作放棄地等が増加している現状は、『国民に対する食料の安定供給の確保に資』しているのか」ということこそが、本来問われるべきではないかと思う。
※ ※ ※
法律は、人が作るものである以上、どうしても時代の変化に遅れる。時々刻々と変わる変化に対応するために、様々な解釈、改正や修正を加えた結果、細部だけが現状を反映し、全体としてはアニメの合体ロボットのような形になっているものも多い。それを噛み砕いて理解するのが仕事というのは、一面の真理ではあるが、どこかがおかしい。本来は、もっとスッキリして良いのであろう。
小手先や見栄えではなく、国家百年の計とまではいかなくても、少なくとも今後数十年先のわが国の将来を見据え、落ち着いた基本方針(戦略)をじっくりと検討する議論ができないものか。
重要な記事
最新の記事
-
【現地レポート・JAの水田農業戦略】新たな輪作で活路(2)子実コーンの「先駆者」 JA古川2024年3月29日
-
全国から1,000名を超える農業の担い手が集う 「第26回全国農業担い手サミットinさが」開催 佐賀県2024年3月29日
-
家族みんなで夏の農業体験はじめよう 食農体験イベント「土袋でデコきゅうり」開催 JA兵庫六甲2024年3月29日
-
(377)食中毒1万人は多いか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年3月29日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第96回2024年3月29日
-
【人事異動】全国農業会議所(4月1日付)2024年3月29日
-
品種で異なるメロンの味わいを体験 自由が丘「一果房」で29日から 青木商店2024年3月29日
-
第160回勉強会「レジリエントな植物工場運営・発展に向けて~災害からの復旧・復興事例から学ぶ」開催 植物工場研究会2024年3月29日
-
創立55周年記念 ガーデニング用 殺虫・殺菌スプレーなど発売 住友化学園芸2024年3月29日
-
「核兵器禁止条約」参加求める26万の署名 藤沢市議会が意見を採択 パルシステム神奈川2024年3月29日
-
尾鷲伝統の味「尾鷲甘夏」出荷開始 JA伊勢2024年3月29日
-
令和6年能登半島地震 被災地農家を応援 JA全農石川へ寄付 KOMPEITO2024年3月29日
-
林木育種センター九州育種場 九州育種基本区の「スギエリートツリー特性表」公表 森林総研2024年3月29日
-
農業フランチャイズのクールコネクト シードラウンドで3200万円を調達2024年3月29日
-
鳥インフル 米メイン州からの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年3月29日
-
畜産施設の糞尿処理で悪臭対策 良質な堆肥化を促進 微生物製剤を開発 B・Jコーポレーション2024年3月29日
-
水田のスマート水管理で東大大学院農学生命科学研究科と共同研究開始 ほくつう2024年3月29日
-
神明HDと資本業務提携 米・青果流通加工プラットフォームを強化 エア・ウォーター2024年3月29日
-
軽量・軽作業・耐暑性の甘長トウガラシの定植開始 JAくま2024年3月29日
-
植物由来ポリエチレン使用の学校給食用牛乳パック 採用拡大 日本テトラパック2024年3月29日