(023)米国のエタノール生産と農家2017年3月17日
2006年始め、当時の米国でブッシュ大統領が行った一般教書演説で方向性が打ち出され、同年3月にはわが国でも「バイオマス・ニッポン総合戦略」で閣議決定されたものと言えば、再生可能燃料であるバイオエタノールである。
筆者はエタノールには全く関係がなかったが、その原料がトウモロコシのため、否応なしにこの業界の動向を注視することとなった。日本を含む世界中でバイオエタノール・ブームが起きて早や10年になる。その後の米国について少し述べてみたい。
米国の再生燃料協議会によれば、2016年時点で世界の燃料用エタノールの生産量は、年間265億8,400万ガロンであり、その58%が米国、27%がブラジルと、この2か国で85%を占める。米国の原料はトウモロコシ、ブラジルはサトウキビが中心である。
米国の生産量は、筆者が駐在していた2004年当時は年間30億ガロンに過ぎなかったが、その後急増し、2016年には153億ガロンを超えている。10年間で実に5倍以上伸びたことになる。
よく知られているように米国中西部のコーンベルト地帯は大穀倉地帯だが、それ以外に目立つ産業がほとんどない。そのため、穀物生産農家には自らの商品である穀物を飼料用、食品用、工業用、あるいは輸出向けに販売する以外に大きな需要が無かった。
※ ※ ※
分かりやすい例を示してみよう。
西暦2000年の米国のトウモロコシ生産量は約100億ブッシェル(約2.54億トン)である。このうち国内飼料用需要が6割、その他国内需要が2割、輸出需要が2割であった。この当時のエタノール生産量は年間15億ガロン程度と、現在の10分の1、トウモロコシのエタノール需要は「その他国内需要2割」の中のそのまた一部に過ぎず、毎月の穀物需給の統計にも表示されていない。これが今から17年前のことである。
昨年の米国のトウモロコシ生産量は約151億ブッシェルと、当時の1.5倍である。151の内訳は、国内飼料用が56、その他国内需要が68、そして輸出が22であり、その他の68のうち54がエタノールとその副産物(DDGS:トウモロコシ蒸留粕)によるものだ。
簡単に言えば、現在の米国のトウモロコシは3分の1が国内飼料用、3分の1がエタノール、そして残りの3分の1のさらに半分以下が輸出に向けられている。全生産量に占める輸出の割合は2000年当時の約20%から現在では15%以下に低下している。
※ ※ ※
では、このエタノールの生産工場は米国内にどの位あるか?不確かな記憶で申し訳ないが、2000年代前半には農家による小規模な工場が中西部で200程度存在していたと思う。その後、穀物メジャーや大手企業が参入し、再編統合が繰り返された。
最新のデータを調べてみたところ、2017年3月時点で工場数は215と余り変わっていない。問題は中身である。生産能力合計は年間約160億ガロンである。
興味深い点は、215工場の構成である。生産能力第1位はADM社(8工場17.2億ガロン)、第2位はPOET社(27工場、16.6億ガロン)、第3位はVeleno社(11工場14.0億ガロン)、第4位はFlint Hills社(7工場、8.2億ガロン)である。上位4社の合計数量は56億ガロンであり、総生産能力の約3分の1・・・ということは、ほどよく競争が働いているということでもあるが、215社のうち年間生産能力1億ガロンを超える工場はまだ57工場(27%)であり、約4分の3は小規模な工場である。最も多いのは年間4~6000万ガロン規模の工場だ。
平均を5000万ガロンとして簡単な計算をしてみたい。
米国農務省は1ブッシェルのトウモロコシから2.7ガロンのエタノールが生産されるとしているが、分かりやすく3ガロンと仮定すると、5000万ガロンのエタノールを生産するためには、約1700万ブッシェル、つまり約43万トンのトウモロコシが必要になる。昨年の平均単収は175ブッシェル/エーカーであったため、この数字を使うと、約9万7000エーカー(約4万ha)のトウモロコシ畑からの原材料調達が必要になる。
米国の平均農場規模を約440エーカー(178ha)とすれば、平均的なエタノール工場は原材料調達のために、平均的な農場規模を持ち、全生産量を工場に出荷してくれる顧客の穀物生産農家が最低でも220人は必要ということになる。
もちろん1万エーカー規模の大農場主10人を顧客にするか、彼らが自ら工場を作れば原材料調達に関しては何とかなる。ただし、これはあくまでも試算であり、作ったエタノールが適正な価格で売れるかどうかは別問題であることは言うまでもない。
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