【小松泰信・地方の眼力】スノーデンと地方紙の使命2017年5月31日
5月27日に映画「スノーデン」を観る。翌28日に『スノーデン 日本への警告』(集英社新書、2017年、以下頁数は本書)を読む。
スノーデンとは、CIA(アメリカ中央情報局)でのイラクに対するスパイ活動、NSA(米国家安全保障局)での電子通信や電話の盗聴活動経験に基づき、米政府による莫大な個人情報監視の事実を曝露し世界を震撼させた、エドワード・スノーデン氏のことである。
◆日本への警告
やはり情報のプロ。わが国の動きについても、鋭くかつ重い警告を発している。とくに重要な警告を2つ紹介する。
「ここ数年の日本をみると、残念ながら市民が政府を監督する力が低下しつつあるといわざるを得ません。2013年には、政府がほとんどフリーハンドで情報を機密とできる特定秘密保護法が、多数の反対にもかかわらず制定されてしまいました。...政府が情報を機密とする権限は本質的に民主主義にとって危険なものであり、極めて厳格なコントロールが不可欠です。機密とする権限の行使は例外的な場合に限られなければならず、日常業務の一環のように行使されてはならないのです」(43-44頁)
「安倍政権は、憲法改正という正攻法ではなく、裏口入学のような法律解釈を行ってしまいました。これは世論、さらには政府に対する憲法の制約を意図的に破壊したといえます。...政府が、『世論は関係ない』、『三分の二の国民が政策に反対しても関係がない』、『国民の支持がなくてもどうでもいい』と言い始めているのは、大変危険です」(49-50頁)
◆前川証言と覚悟
「『総理のご意向』などと記された一連の文書は、...間違いなく本物です。...ところが、あの文書に対し、信憑性を否定する声が出てきています。...元公僕として、この文書をなかったことにはできない。しかも、行政が歪められようとした実態がそこには記されているのです。獣医学部新設にあたり、一体どういう議論が政府で行われていたのか。私の知る限りの経緯を、全てお話ししようと思います」から始まるのは、加計学園問題における一方の当事者であった文科省前事務次官前川喜平氏の独占インタビュー記事である(週刊文春、5月25日発売)。同25日に行われた記者会見においても、同様の内容が冷静かつ誠実に語られていた。そして、証人喚問に応じる意思も表明された。その覚悟のほどが伝わってくる。
安倍首相は〝知らぬ存ぜぬ〟の一点張り。条件反射的に〝怪文書〟と決めつけた菅官房長官は、氏のプライバシーを大仰に書き立てて御用新聞の地位を不動のものとした読売の記事をことさら強調。殿のご意向への慮りか栄達を求めてか、己に課せられた使命を忘れた関係閣僚に元部下達も〝文書も記憶もございません〟の一辺倒。元ヤン義家副大臣は、昔の武勇伝と元教師としての面影も失せ、便宜を〝びんせん〟と読み上げ、でんでん首相と同類項であることをアピール。
政権与党のこの姿勢だけでも真っ黒。それが違うというのなら、「首相に対する侮辱だ」と怒りをあらわにし「籠池氏がいろいろなことを話し始めた。放っておけない」と証人喚問に踏み切った時のようにすべきである。証人喚問しないのなら黒確定。竹下亘国対委員長は30日の記者会見で、氏の証人喚問は「明確に必要ないと思っている」と拒否。理由を問われて、「必要ないというのが理由だ」とのこと。この人、大丈夫。
学商加計孝太郎氏が、行く手を阻む岩盤規制について、腹心の友にぼやいたり、愚痴ったり、アドバイスを求めないわけがない。両者がこの問題で声帯も鼓膜も震わすことがないとしたら、腹心の友ではない。〝悪巧みする男たち〟ならなおさらだ。
◆もう黙ってはおけない
〝在任中に言えよ〟という前川批判への回答は2つ。1つが、その批判の思慮浅さに対するスノーデン氏の教えである。
「実はトーマス・ドレークという人物が、私より前に...正式の手続きを通じて内部通報を行っていました。...しかし、彼は検察官に送り付けられました。...政府から解雇され、家を失い、妻を失い、今はアップル・ストアでiPadを売っています。このように内部通報制度はうまくいっていないのです」と語っている。さらに当時のNSAのナンバー2はこの問題へのインタビューで、告発があったとしても「自分の仕事に戻れ。これ以上この問題で私をわずらわせるな」というしかないと、答えている(75-77頁)。
政権与党の詭弁、強弁を聞くにつれ、スネの小傷を公にされ、自分だけではなく家族すら巻き込むはずの辱めを受けること、さらには身の危険も想定される中での、〝もう黙ってはおけない〟という氏の覚悟ある行動こそ称えられねばならない。皮肉なことに、官僚はもとより与党議員の中から一人も立ち上がる人間がいないことが、内部通報の難しさを証明している。
もう1つが、認可に渋る文科省に揺さぶりをかけ、次官の口封じで引責辞任に追い込んだ、という見方である。前川氏の引責辞任と、加計学園が国家戦略特区の事業主体に認定されたのが、今年1月20日であったことが、何かのシグナルを送っている。
余談ではあるが、証言があった25日、改憲提案を「一自衛官としてありがたい」と発言した河野幕僚長が、防衛省初の任期再延長となった。自分の防衛には長けている人なのだろう。恥を知れ。
◆地方紙の使命
岡山市にある山陽新聞は、〝政府は説明責任を果たせ〟との見出しの社説を30日に他紙よりもかなり遅れて掲載。
「計画に携わった事務方トップの発言は重い。政府は深まる疑念に説明を尽くす必要がある」「野党は前川氏の証人喚問を要求している。与党は拒否し、文書の再調査も行わない方針だが、それでいいのだろうか。やましいことがないのなら、政府はもう一度きちんと事実関係を確認していくべきではないか」「規制緩和の明白な根拠がなければならないのは当然だ。...決定の妥当性を国会の場で明らかにしてもらいたい」「菅義偉官房長官は文書について『怪文書だ』と切って捨て、前川氏に対しては『批判にさらされて辞任した人だ』と述べた。だが否定を繰り返すだけでは政権のおごりととられても仕方あるまい。誠実な対応を求めたい」とする内容、大多数の新聞社説の論調を代表している。ここには、国民の総意が書かれている。
この問題で不思議なことは、本丸加計孝太郎氏のコメントが目につかないことである。腹心の友を窮地から救うために、渦中の主人公にそろそろご登場いただく必要がある。そのためにも、山陽新聞には、地の利を生かした取材によって真実を明らかにする努力が求められる。それは、全国的視点から見た、地方紙の果たすべき使命である。
「地方の眼力」なめんなよ
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