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燃料費節約の妙策 木下藤吉郎2017年11月13日

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【童門 冬二(歴史作家)】

◆かさむ城の燃料費

 清洲城(愛知県)主の頃の織田信長は苛立っていた。天下に志を向け始めたのに、主立った部下が一向に信長の理想を理解しないからだ。特に、織田家に長く仕えて来た重臣たちの感覚が古く、信長は今でいえば組織と部下の意識改革に焦っていた。信長にすれば、
「わしの部下は三種類いる。言わなくてもわかる部下・言えばすぐわかる部下・いくら言ってもわからない部下の三つだ」
 と思っていた。特に三番目の「いくら言ってもわからない部下」は、歳をとった保守的な重臣に多い。そこへ行くと「言わなくてもわかる部下」の筆頭は木下藤吉郎だ。この頃藤吉郎のポストはまだ課長クラスだったが、藤吉郎自身は、
「仕事は組織で行うものだ。個人芸ではない。だから、チームワークが一番大事だ」と考えていた。学問も知識もない農民出身の藤吉郎が、そういう感覚を持っていたのは、やはり尾張の特に都市部である名古屋に生まれ、清州という商業都市に拠点を置く信長に仕えたからだろう。信長は現在でいえば経営感覚鋭く、財政を重んずるタイプの大名だから、
「織田家の財政」についても常に深い関心を持っていた。今彼が気にしているのは、
「清洲城内の燃料費が高すぎる」ということだ。燃料といってもこの頃は薪が主だから、薪代が嵩んで困るということだ。薪奉行(燃料担当の奉行)を呼んでいろいろ訊いてもどうも煮え切らない。話が曖昧になる。信長は、
(こいつ、何か臭いな)と思った。臭いというのは、燃料商人と組んで、不正をしているのではないかと感じたからだ。事実はそのとおりだったが、薪奉行は素知らぬふりをし続けた。そこで信長は藤吉郎を呼んだ。
「薪奉行をやれ」と命じた。藤吉郎はびっくりした。
「すでに、薪奉行がおられます。その職を私が横取りをするわけにはまいりません」
「命令だ。ここのところ清洲城の薪の燃料費が嵩みすぎる。倹約したい。ついては今の奉行ではだめだ。おまえがやれ」
「・・・・」
 藤吉郎は考えた。言い出したら聞かない信長の命令だ。やらないわけにはいかない。しかし薪奉行はすでに存在する。信長が命じても薪奉行はいい顔はすまい。そして藤吉郎を恨むだろう。ここのところ藤吉郎はトントン拍子に出世し、信長に愛されているので余計僻むだろう。藤吉郎は言った。
「では、お引き受けいたしますが、あくまでも私は臨時の奉行であって、いつまでも薪奉行を務めるのではないことにしてください。今の薪奉行はそのままにしてください」と頼んだ。信長は藤吉郎の性格を知っている。
「極力他人を傷つけずに信長の命令を実行する男だ」
 と思っているから頷いた。
 一応現任の薪奉行に仁義を通して藤吉郎は燃料費の節約策を考えた。城の中にいてもいい案が出ないので、城外の村々を歩きはじめた。村には林が多い。よく見ると、古い木があちこちにある。藤吉郎の頭は閃いた。
(この古い木を薪に使ったらどうだろう?)ということだ。
藤吉郎の才覚
燃料費節約の妙策  木下藤吉郎 林の前に立って古木を眺めていると、庄屋がやって来た。
「木下様、何を御覧になっておられますか」庄屋はすでに藤吉郎の事を知っていた。よく村に出て来ては、あれこれ話し込んで村の実態を仕入れて帰るからだ。庄屋は藤吉郎に好感を持っていた。藤吉郎は村の情報を仕入れて城に戻っても、決して村に不利な扱いはしない。むしろ逆に信長を説いて村の利益になるような施策を施してくれた。
「あの古い木を見ている」
「古い木を?」聞き返した庄屋は、
「あれはもう死んでいますよ。薪にするより他手はありません。しかし、今、村は忙しくて切り倒す者がいませんのであのままにしてあります」と応じた。藤吉郎は目を輝かせた。
「庄屋殿、あの木を切り倒す費用は出そう。切り倒した後薪にしてくれ。そして城に納めてくれ。一切の費用は城で持つ」と告げた。庄屋は目を輝かせた。
「本当ですか」
「わしが今まで嘘を言ったことがあるか」
「ありません。ありがとうございます。早速木を薪にしてお城へ届けます」
 交渉はこうしてすぐまとまった。翌日、村の古い木は切り倒され薪になって城へ納入された。藤吉郎はにこにこ笑いながら、庄屋にいくらかかったかと訊きその手数料をきちんと支払った。この時藤吉郎は、
「古い木を切り倒した後に、新しい苗を植えろ。苗を五本明日届ける」
 と告げた。庄屋は目を見張った。そして藤吉郎の手を取り、
「木下様、あなたは本当に村の事を考えて温かい手を打ってくださる。この通りです」
 と深く頭を下げた。藤吉郎は、領内の村々に同じような手を次々と打った。みんな喜んで、古い木を切り倒し薪にして城へ納入した。木を切り倒す費用や、割って薪にする手間など知れたものだ。今まで払って来た燃料費に比べたら本当に雀の涙ほどの額である。
 調べてみたら確かに燃料費は高い。が、理由があった。それは薪奉行が燃料を取り扱う商人から賄賂を受け取っているのは事実だったが、その高は知れていた。本当に燃料費を高めているのは、
「織田家の家臣たちの家族が使う薪炭料」
 が嵩んでいたことである。本来なら、給与の内からそういう費用を捻出して、自己負担にすべきなのだが、織田家の財政はルーズで、そういう費用も全部丸ごと城から支出していたのである。だから、新しい方針として、
「家庭で使う薪炭代は、それぞれ自己負担しろ」という方針を告げればそれで済むのだが、藤吉郎はそんなことはしたくなかった。今まで慣習としてそういう例を作ってきたことはそのまま守りたい。まして藤吉郎も経験のある足軽階級たちの給与は安く、薪炭料も支出としてはバカにならない。それに、低身分の武士たちは、
「薪代まで出してくださる信長様のお気持ちは温かい」
 と思っているのだから、信長のその評判を落としたくはなかった。したがって藤吉郎は、
「現状のままで、燃料費を倹約する道はないか」
 と、歩き回ったのである。他の村々からも次々と薪が納入された。藤吉郎は最初の村と同じようにきちんと手数料を支払った。同時にまた、
「古い木を切った代わりに、新しい苗を植えろ」
 と言って、五本ずつ新しい木の苗を渡した。この件を藤吉郎は信長に報告した。信長は感心した。特に、
「古い木を切った後には、新しい苗を五本ずつ植えさせている」
 という発想には、手を叩いて感心した。そしてこう言った。
「藤吉郎よ、清洲城でも古い木を切って薪にし、新しい苗を植えたいものだな」
 いくら言ってもわからない老臣たちへの皮肉だということを藤吉郎は感じた。だから何も言わずに下を向いた。そしてクツクツと肩を揺らして笑った。信長が見咎めた。
「こいつ、何を笑っている?」と訊いた。しかし藤吉郎は答えずにこう言った。
「これにて、薪奉行を免職にさせていただきます」。

(挿絵)大和坂 和可

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