【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(089)二項対立と黄昏時2018年7月6日
ある農家の方と話す機会があり、いろいろと興味深い話を聞くことができた。悩みの一つは、長年同じ地域で一緒にいろいろなことをやってきたが、どうも最近、話が合わないというものだ。例えば、ある物事について賛否を判断しなければならない時、双方の極論に対し、どちらも理解はできるがどちらに対しても完全には納得できないというものである。
さて、論理学の用語に「二項対立(dicotomy:ディコトミー)」というものがある。これは2つの異なる、あるいは対立している概念を指す。昼と夜、空と海、結果と過程、男と女、プラスとマイナス等々、世の中には2つの異なる概念があることが多く、これらの対立で物事を理解すると意外にわかりやすい。先ほどの例で言えば「賛成か、反対か」である。
実は、もともと2つ存在していたものだけではなく、表面上混沌としているものを、あえて2つに分けるという行為そのものも「二項対立」という概念に含まれるようだ。何故そうするかというと、意識的に2つに分けることにより、違いを明確化させ「わかりやすく」させることが出来るからだ。
実はこの手法はビジネスと相性が良い。「買うか、買わないか」、「売るか、売らないか」という形で、即座に結論が出せる。そのため、時間がない場合や、早く決着を付ける必要がある場合、本来、時間をかけて考えるべき内容でも、意識的に2つに分けることにより、双方の立場の違いを明確化し、「対立を煽る」形で強引にどちらかに振り子を振らせるようなことが行われがちである。
さらに悪いことに、この時、どちらか片方が残る一方に対して優越しているという見方が加わると、感情的な緊張感が増幅され、ひどい場合には相手に対する侮辱や非難、最悪の場合には戦争にまで行きつくことは人類の歴史に多くの事例を見ることができる。
※ ※ ※
そのそも「二項対立」という概念は、あくまでも物事の本質を理解すること、つまり「学習」のための手法である。先に述べたように、わかりにくい状況を2つに分けて整理することにより、違いを明らかにする。そして、ここが最も重要だが、違いを明らかにした上で、強引にどちらか片方に従わせるのではなく、双方が納得する結論を導き出すための手法のはずだ。
先ほどの例で言えば、一日を「昼と夜」に分けたつもりでも、その境界には「昼でも夜でもない時間」が存在する。例えば、日没直後の赤い夕焼けが残った空の時間は「黄昏時(たそがれどき)」と呼ばれている。さらに時間がたち、青黒くなった空の時間は「逢魔時(おうまがとき)」と言われていたが、こちらは残念ながら今ではほとんど死語かもしれない。「禍々しい」という言葉にその名残りがあるくらいか。かつての日本人はこのような形で、一日の中には昼とも夜ともいえない曖昧な時間があることを認めていたし、それが現実社会は「二項対立」のような単純ではないとする生活の知恵でもあった。
※ ※ ※
「二項対立」は手法としてわかりやすく、用いている当事者たちは歯切れも良いが、実際には「賛成でも反対でもない」というケースはかなり存在する。当たり前のことだが、2つに分けられたものを合わせてこそ、全体がひとつの世界、あるいはひとつのシステムとして機能するからだ。我々が本来追及すべきはどちらか片方だけの世界ではなく、全体のバランスを備えた世界のはずだ。一方で生物多様性といいながらモノカルチャーを推進しているというのでは論理的整合性どころではない。
それほど難しく考えなくても、世の中が「男性」か「女性」のどちらかしかいない世界になったら、極めてつまらなくなることは、圧倒的多数の人にはよくわかると思う。だからこそ、どちらか片方だけを声高に主張する極論には「普通人」としては慎重にならざるを得ない。
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