【浅野純次・読書の楽しみ】第28回2018年7月15日
◎菅正治
『本当はダメなアメリカ農業』
(新潮新書、799円)
自由化で日本農業が壊滅すると誰しも言うが、米国の農業はそんなに強いのか。時事通信記者として4年間、シカゴに駐在した著者は農村地帯の本当の姿を見て回ります。そして得た結論は、米国の農業は張りぼてだ、問題だらけだ、というものでした。
いちばんの問題はトウモロコシや大豆を中心にGM作物が席巻していて、農薬との悪循環に苦しんでいることでした。GMOと除草剤の併用の中で、農薬(グリホサート)でも枯れないスーパー雑草(パルマーアマランス)が現れたのです。
そこでモンサントなどのメーカーは新たな除草剤を開発しますがこのいたちごっこは、さまざまな波紋を農業に投げかけ、農家経営を圧迫しています。
そのほか移民を中心とする労働力の不足、農民の高齢化、食肉工場への反対運動、ミツバチの大量死、家畜への抗生物質投与等々、さまざまな問題が発生していることを本書は明らかにします。
オーガニック農産物を志向する需要の増加に対して、米国農業が十分に対応しきれていないことも問題を複雑にしています。巨象がじわじわと疲弊している印象です。日本の農業は多様で高付加価値をめざすのが、やはり正解なのだろうと感じさせられました。
◎井上泰浩
『アメリカの原爆神話と情報操作』
(朝日新聞出版、1620円)
広島、長崎への原爆投下に関して今もこう考えている米国人が圧倒的だそうです。即ち(1)投下は軍事施設を目標としたので民間人の被害はほとんどなかった、(2)投下のおかげで100万米兵の命が救われた、(3)放射能は爆発の際の強烈な光と爆風というエネルギーに変わりほとんど放射性被害をもたらさなかった、というのです。
それは有力紙ニューヨークタイムズが国務省や国防省から情報を入手し「スクープ」を連発し続けたのを、国民の大半が信じ込んだ結果でした。恐るべき情報操作が戦中、戦後に行われたのです。
本書は米国の政官学が一体となって原爆神話を作り上げていく過程を、解明していきます。ソ連との原爆開発競争に勝利し冷戦で優位を得るためでした。
これでは広島、長崎の犠牲者が浮かばれないだけでなく、将来の核廃絶に対して米国世論が大きな障壁とならざるをえないことも心配です。戦中戦後の秘話というだけでなく、情報操作について考える手掛かりという点でも見逃せません。
◎元村有希子
『科学のミカタ』
(毎日新聞出版、1620円)
科学は苦手という方も多いでしょうが、食わず嫌いはやめて、この本などいかがでしょうか。易しくて面白いこと請合いです。なにしろ「枕草紙」にまつわるテーマに沿って、手垂れの女性記者が軽やかにさばいてみせるのですから楽しく読めないはずがないです。
どきどきわくわく、興ざめ、気がかり、死と生など、清少納言が今、いたら興味をそそられるだろうくくり方はお見事。生物多様性、サステナビリティ、ウナギと生態系、クマとの共生といった生物系テーマから、首都直下地震、火山大国ニッポン、ハダカデバネズミ、水で中毒死など、読んでみたくなるテーマがずらり並びます。
農業関係の方ならこのくらいの科学知識をつまみ食いされてもいいような気がしますがどんなものか。学者の執筆でないだけ、広く浅く科学を知ることができるはず。経済も大事ですが、場合によっては科学のほうが社会の本質に迫りやすいだろうと感じました。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
地域複合農業戦略に挑む(2)JA秋田中央会会長 小松忠彦氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年4月19日
-
農基法改正案が衆院を通過 賛成多数で可決2024年4月19日
-
【注意報】さとうきびにメイチュウ類 伊是名島で発生多発のおそれ 沖縄県2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:JA水戸 那珂川低温倉庫(茨城県) 温湿度・穀温 適正化徹底2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ対策を万全に 農業倉庫基金理事長 長瀬仁人氏2024年4月19日
-
食農教育補助教材を市内小学校へ贈呈 JA鶴岡とJA庄内たがわ2024年4月19日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第97回2024年4月19日
-
(380)震災時は5歳【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月19日
-
【JA人事】JA道北なよろ(北海道)村上清組合長を再任(4月12日)2024年4月19日
-
地拵え作業を遠隔操作「ラジコン式地拵機」レンタル開始 アクティオ2024年4月19日
-
協同組合のアイデンティティ 再確認 日本文化厚生連24年度事業計画2024年4月19日
-
料理酒「CS-4T」に含まれる成分が代替肉など食品の不快臭を改善 特許取得 白鶴酒造2024年4月19日
-
やきいもの聖地・らぽっぽファームで「GWやきいも工場祭2024」開催2024年4月19日
-
『ニッポンエール』グミシリーズから「広島県産世羅なしグミ」新発売 JA全農2024年4月19日
-
「パルシステムでんき」新規受付を再開 市場の影響を受けにくい再エネ調達力を強化2024年4月19日
-
養分欠乏下で高い生産性 陸稲品種 マダガスカルで「Mavitrika」開発 国際農研2024年4月19日
-
福島県産ブランド豚「麓山高原豚」使用『喜多方ラーメンバーガー』新発売 JAタウン2024年4月19日
-
微生物農業資材を用いた大阪産の減肥料栽培で共同研究開始 ナガセケムテックス2024年4月19日
-
栃木県真岡市産バナナ「とちおとこ」使用「バターのいとこ」那須エリア限定で新発売2024年4月19日
-
大阪泉州特産「水なす」農家直送で提供開始「北海道海鮮にほんいち」2024年4月19日