【熊野孝文・米マーケット情報】23万tがゼロになる?! 生産基盤の弱体化2018年9月11日
このコラムの読者だという関東のコメ集荷業者から「7月17日号に『23万t過剰』という見通しが書いてありましたが、実際はゼロになるんじゃないですか」という質問があった。
なぜそう思うのか理由を聞き返したところ、自社が集荷している生産者から30年産早期米の収量を聞くとほとんどの生産者が平年作は行かず、中には反5.8俵しか穫れなかったいう生産者もおり、高温障害は品質の劣化だけではなく収量減の要因にもなっており、こうした傾向は各地で見られ、平年作にはならず供給過剰という見方は当たらないという意見であった。
コメの需給見通しについては、以前にも触れたように農水省の試算は摩訶不思議なものであり、30年産が平年作であれば来年6月末の在庫が今年6月末の在庫より少なくなるなどということはあり得ないのだが、不作ということになれば話が違って来る。
需給見通しについては後述することにして、なぜそれほどまでに早期米の収量が落ちたのか? その要因を質問してきた集荷業者に聞いたところ、今の稲作生産者はほとんどが一発肥料を使っており、高温が続いたせいで早めに肥料が効いて、肝心の出穂以降の肥料が足りなかったからだという。高温が続くときは追肥が必要だと高温障害の専門家が言っているが、と質すと、そういう作業をする生産者はほとんどいないという。大規模稲作生産者に本当にそうなのか聞いてみると、それどこころではなく刈取り適期になった早期米を刈らない生産者もおり「エアコンの付いていないコンバインじゃ上からの太陽熱と下からのコンバインの熱で熱中症になっちゃいますよ」と笑って答えた。
米穀業界の青年部が主催した講演会で、講師を務めた滋賀の大規模稲作生産者が「スマート農業も良いが、水管理も出来ない生産者が増えている。基本を励行するのが先ではないか」と言っていたが、稲作の現状はまさにそうなってしまったのだろう。
◇ ◇
30年産米の品質劣化がどう影響するのか大手卸の役員に聞いてみると「1%の歩留り減で10億円の収益減になる」とビックリするような額を言う。単純に1000億円分の玄米を精米して歩留まりが1%落ちるとそうした計算が成り立つのだが、今まで入荷した30年産米の品質を見るとオーバーな表現ではなく、一緒にいた職員も交えて精米後のシラタ混入率がどこまで許されるかという話になってしまった。
精米の品位基準は納入先の量販店・生協、外食企業など相手先によって違い、厳しいところではシラタ1%以下と言うところもあるが、5~7%は許容範囲で、この程度であれば炊飯時に問題はないという。厄介なのは胴割れで、目視で確認できないものであっても炊飯時に割れてしまうものもあり、こうした目視で確認できない胴割れ粒の程度を測定して除去する方法を研究しているところもある。
23万t供給過剰の算出根拠は、30年産政府備蓄米不落札分8万t、SBS輸入10万t、消費減5万tの合計で、30年産米が平年作という前提で立てられた需給見通しだが、30年産の作況が1ポイント落ちればこの分は吹き飛んでしまう。作況が100の平年作でも歩留まりが1%落ちれば、主食用に供給される精米は減少するので、冒頭の集荷業者の指摘も外れてはいない。ただし、精米工程で主食用に適さないと弾かれたコメが主食用に供給されなくなるかと言うとそうではない。
実際に販売されていた品位劣化のコメのネーミングは、シラタが「ホワイトライス」「ミルクライス」、着色粒は「えくぼ小町」、未熟粒は「ベビーライス」と命名されていた。コシヒカリやあきたこまちなど一般の銘柄米と一緒にホワイトライスを格安で販売していた小売店主に売れ行きを聞くと一番はホワイトライスだとの答えであった。業務用米大手小売りの集まりで、北海道を視察して来たという小売店主が地区ごとの状況を細かく報告した。現地の大規模稲作生産者とのやり取りで、生産者が「1.9mmで篩うと網下に落ちる分だけで500万円の減収になる」と言うので、この小売店主は「その分はうちが全部買う」と言って来たとのこと。
現在、出回り始めた関東のくず米相場の庭先価格は、無選別でkg60円台、調整した中米は60kg8000円程度で29年産より大幅に安い価格でスタートしている。中米は主食用米の増量原料に使われる。30年産米は低品位米の動向が最大の焦点になるに違いない。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
渡邊次官は留任 林野庁長官に小坂氏、水産庁長官に藤田氏 農水省2025年6月24日
-
随意契約米 販売店 3万6737店 農水省2025年6月24日
-
日本農業再生機構設置を提言した涌井徹氏【熊野孝文・米マーケット情報】2025年6月24日
-
【Jミルク新執行部発足】需給対応に手腕注目、需要拡大目標設定と全国参加基金2025年6月24日
-
自律飛行型ドローンを活用した事業検討で基本合意 運航に必要なサービスを一体的に提供へ JA全農とKDDI2025年6月24日
-
夏の贅沢「丹波篠山デカンショ豆」JAタウンで予約販売開始 JA全農兵庫2025年6月24日
-
茨城県庁で子ども食堂への食品寄贈式 6月25日に開催 JA全農いばらき2025年6月24日
-
「とうもろこし収穫体験」開催 直売所「たべるJA(じゃ)んやまなし」が募集した315人参加 JA全農やまなし2025年6月24日
-
【JA人事】JA津安芸(三重県)新組合長に前川温仁氏(6月21日)2025年6月24日
-
【JA人事】JAおいしいもがみ(山形県)押切安雄組合長を再任(6月20日)2025年6月24日
-
サーキュラーエコノミーを加速 リーテムと業務提携契約を締結 JA三井リースグループ2025年6月24日
-
JAタウン「酪農家応援キャンペーン」対象商品は送料負担なしで販売2025年6月24日
-
JAグループによる起業家育成プログラム「GROW&BLOOM」採択者が決定2025年6月24日
-
第8回「懸賞論文」入選作品が決定 家の光協会2025年6月24日
-
「上を向いて、笑おう。御堂筋天国 旬のたよりマルシェ」6月27日に開催 農林中金2025年6月24日
-
小泉農相と意見交換 政府備蓄米の安定供給と市場流通促進へ アイリスオーヤマ2025年6月24日
-
国際シンポ「地球沸騰化時代のアフリカ農業と日本の最新技術」開催 アクプランタ2025年6月24日
-
弘前大学と共同研究講座「岩木健康増進プロジェクト健診2025」に参加 雪印メグミルク2025年6月24日
-
夏休み 子どものいる困窮世帯に食料支援プロジェクト実施 全国フードバンク推進協議会2025年6月24日
-
パルシステム連合会 第43回通常総会 新理事長に渋澤温之氏2025年6月24日