【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(100)外見と内容2018年9月28日
徒然なるままに思うところを記してきたが、ようやく100回の節目を迎えた。筆者などより遥かに回数を重ねている先達が数多くいる中ではまだまだ最初の節目に過ぎないが、ようやく毎週のペースもつかめてきたので少し情緒的なことを記してみたい。
「人は見かけが...」ということが良く言われる。同じ内容の話をしても誰が話すかにより影響度が異なる。どれほど良いことを述べても話す本人の信用がなければ内容もまともに受け取ってはもらえないのが残念ながら世の中である。
本来、科学を生業とする者は、こうした主観的な判断を極力避け、可能な限り客観的な視点を持つべきだが、やはり人間である以上、外見や感情により動かされるようだ。なぜ、このようなことを述べたかというと、「経営」や「戦略」というものを考える際、どうしても我々は目の前の事象、つまり外見に影響を受けて内容の本質を見間違い、その結果、気が付いた時には当初と全く異なる方向に行ってしまうことが多いからだ。
※ ※ ※
簡単な例だが、ある事業の店舗(例えば、カフェでも英会話教室でも良い)が町の中に1つしかない時はそれなりの認知度であろうし、経営者もとにかく必死なはずだ。その後、事業拡大の中で波に乗り、急速に店舗数が増えることがある。町中、至るところに同じ店舗が存在するとき、その組織の現実の経営はどうかが問題となる。
外見は事業が急拡大し売上げも伸びている時、実際に利益が出るかは全く別である。数量と利益が同時に伸びていれば文句はないが、往々にして数量は伸びても利益が出ない「利益なき繁栄」にまい進しているケースが多い。皮肉なことに、数量が伸びている時の方が目に着きやすく世間的には注目され、メディアでも取り上げられるし、経営者も外の付き合いに忙しい。傍目には大活躍に見える。
※ ※ ※
しかし、経営者の心の中はどうか。急速に多店舗展開した場合の設備投資資金の調達、未熟な人材のトレーニング、負債の返済、売上げの停滞、利益率の低下...、外面の華やかさに比べ、内実は汲々としていることが多い。それでも世間的には華やかであり、各所で持ち上げられるから無理をせざるを得ない。
※ ※ ※
変な例だが、この逆のケースは欧米の古い町並みかもしれない。例えば、米国の北東部、ボストンなどに行くと築何十年どころか100年を超える古い建物がそのまま現代でも使用されている。観光客にはそれだけで人気があるが、本質はその中だ。
古色蒼然とした古い建物の外観はそのままに保ちつつ、内装は明るく部屋は最新の情報機器で埋まり、最先端の技術で溢れているケースが多い。外は古いが中は最先端、ただし、それは通りすがりの一般人には決してわからない。それこそが外部の競争相手を惑わす「戦略」なのであろう。
※ ※ ※
さて、食料貿易は「量」に目が行きがちである。大豆やトウモロコシを何百万トンも動かす仕事は傍目にも「大きな仕事」に見えるし、実際にとほうもない数量や資金が動く。だが、現在の科学や技術の進歩を考えると、こうした「量」の煙幕に目を奪われていると、内なる「質」の変化がわからない。
古い目にはトウモロコシはトウモロコシでしかないが、実は一粒の穀粒の中には膨大な自然科学の知識と技術、ノウハウが集積されている。今、農産物輸出国が意図していることは、表面的には大量の農産物を輸出することであり、これはもちろん重要である。しかしながら、ゲノム編集に代表される昨今の様々な技術の進歩を考えると、実は1粒のトウモロコシを買うことは、こうした技術やそれに付随する各種の権利とも無関係ではないことがよくわかるし、世の中には意識して考えないと見えないものがいかに多いかがわかる。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(159)-食料・農業・農村基本計画(1)-2025年9月13日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(76)【防除学習帖】第315回2025年9月13日
-
農薬の正しい使い方(49)【今さら聞けない営農情報】第315回2025年9月13日
-
【人事異動】JA全中(10月1日付)2025年9月12日
-
【注意報】野菜類、花き類、豆類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年9月12日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政も思い切りやってほしかった 立憲民主党農林漁業再生本部顧問・篠原孝衆議院議員2025年9月12日
-
【石破首相退陣に思う】破られた新しい政治への期待 国民民主党 舟山康江参議院議員2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政でも「らしさ」出しきれず 衆議院農水委員会委員・やはた愛衆議院議員(れいわ新選組)2025年9月12日
-
ドローン映像解析とロボットトラクタで実証実験 労働時間削減と効率化を確認 JA帯広かわにし2025年9月12日
-
スマート農業の実践と課題を共有 音更町で研修会に150名参加2025年9月12日
-
【地域を診る】個性を生かした地域づくり 長野県栄村・高橋彦芳元村長の実践から学ぶ 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年9月12日
-
(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
-
秋の味覚「やまが和栗」出荷開始 JA鹿本2025年9月12日
-
「令和7年台風第15号」農業経営収入保険の支払い期限を延長 NOSAI全国連2025年9月12日
-
成長軌道の豆乳市場「豆乳の日」前に説明会を実施 日本豆乳協会2025年9月12日
-
スマート農園を社会実装「品川ソーシャルイノベーションアクセラレーター」に採択 OYASAI2025年9月12日
-
ご当地チューハイ「寶CRAFT」<大阪泉北レモン>新発売 宝酒造2025年9月12日
-
「卵フェスin池袋2025」食べ放題チケット最終販売開始 日本たまごかけごはん研究所2025年9月12日
-
「日本酒イベントカレンダー 2025年9月版」発表 日本酒造組合中央会2025年9月12日