【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(102)ゼミの一コマ2018年10月12日
今年の大学3年後期ゼミではマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(大塚久雄訳)を読んでいる。有名な古典だが、ゼミで取り上げるのは初めてだ。わかりやすく、イラストが豊富でビジュアルな教材が氾濫しているからこそ、あえて古典を選び、伝統的スタイルによる輪読を行うことに価値があると考えている。
不思議なもので遥か昔の学生時代に読んだ時には全く気付かず、見えもしなかった様々なことが今ではわかる(気がする)し、理解していたと思っていたことがまたわからなくなったりしている。それだけ歳を重ねたのかもしれないが、時間の試練を耐え抜いた内容には、独特の風味がある。
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例えば、「宗教改革が人間生活に対する教会の支配を排除したのではなくて、むしろ従来のとは別の形態による支配に変えただけだ」(p17)などは、深く考えさせられる。
そして、それに続く形で、「しかも従来の形態による宗教の支配がきわめて楽な、当時の実際生活ではほとんど気付かれないほどの、多くの場合にはほとんど形式に過ぎないものだったのに反して、新しくもたらされたものは、およそ考えうる限り家庭生活と公的生活の全体にわたっておそろしくきびしく、また厄介な規律を要求するものだったのだ」(p16-17)という点に至れば、これはまさに現代の「〇〇改革」の話のようだ。
ちなみに引用文中の強調点は筆者が付けたものではなく、訳本のものだが、「排除」という一言が一時期、世の中の注目を集めたことも多くの記憶にあると思う。また、「別の形態」についても現代に様々な事例を見出すことができる。ウェーバーは宗教改革を事例としているが、あらゆる改革(と称されるもの)は同様の形で、「別の形態による支配」に代わっているだけなのかもしれない。
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人々の生活を支配する規律が宗教であった時代と、それに対する改革の事例を少し読んだ後で、ゼミでは現代の人々の行動について、支配とまではいかなくても制約するものは何かという議論になった。
例えば、コミュニケーションを時代の流れで言えば、郵便からFAX、メール、SNSなどである。「プリーズ・ミスター・ポストマン」という有名なビートルズの曲があり、後にカーペンターズによりカバーされたが、学生の中に1名だけ知っている者がいた。問題はその歌詞だ。恋人からの「手紙」を心から待つという気持ちは普遍的でも、現代では「手紙」ではなく、SNSの「返信」を待つか「既読スルー」になるかという形に変わった...ということになる。これも制約が「別の形態」に変化した例であろう。
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現代の多くの大学生には携帯電話が無い時代のコミュニケーションなどは想像もつかないらしい。そこで将来の可能性の話として、携帯からマイクロチップの話をした。携帯の端末とGoogleを使えばあらゆる情報が手元で検索可能になるが、近い将来、仮に体内埋込型のマイクロチップが普及すれば、キャッシュレスどころか、いずれ携帯すら持ち歩く必要が無くなる可能性もある。その時に人は便利さを感じるとともに、何に支配されることになるのかというような内容だ。
携帯を無くす心配が無いから便利で良いという意見が出た後で、マイクロチップ情報が正しく機能しない場合には大変なことになる可能性を付け加えた。海外旅行の入国審査で要注意人物に指定された場合、どのように一般の観光客であることを証明できるか、などだ。そこまでいかなくても様々な興味深い事例が考えられる。恐らく、世界中どこに居ても、例えば駅の公衆トイレの奥から何番目の個室に誰がいるかまで居場所は特定可能になるし、祖父母がポケットマネーから密かに孫に与えるお小遣いなども電子決済で記録に残るが、それでも良いかと考え始めたところでゼミは終了時間だ。
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こうした微妙な問いを脇に置いたところで技術は着実に進展する。我々は日々に追われてなかなか時間が無いが、それでも時には立ち止まり、振り返ることが必要な時がある。
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