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コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2018.11.22 
【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】【緊急コラム】生存権・コミュニティ・資源管理・国境の崩壊への「強制収用」~J-WAVE「JAM THE WORLD」(11月20日)の質疑資料を基に編集~一覧へ

 隔週木曜日掲載コラム【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】ですが、鈴木宣弘東京大学教授より緊急で寄稿がありましたので掲載いたします。

Q 現在の漁業法は1949年に策定。そもそも、現状の漁業法どのような制度で、どういう時代背景からできたものなのか?

 

 私の家も自分の土地の前の浜で真珠、ノリ、カキの養殖をして生計を立ててきた。代々その土地に住んで、前浜を使って生業(なりわい)を続けて、入り江の資源を共同管理をしてきた人達に、優先的な使用権がある、そして、共用資源だから個別の所有権は馴染まないから、その人たちの集合体として全体の調整・管理を行う漁協に漁業権を設定して、個々の漁家はその行使権を持つという整理で、漁民の「生存権」を保証するのが一番民主的だ、という判断で、戦後の民主化政策の一環として確立された。

 

Q なぜ70年間も改正されなかった? 乱獲から守るために海外では、改正されてきたのに...

 

 それだけ、安定した、優れた仕組みだということ。江戸時代には、この漁業法の考え方が慣習的に成立していたが、明治になって崩れ、海を使いたい人に政府が基準も明確にせずに許可するとしたため、混乱が続いた。それを徐々に整備して、本来の安定した姿を取り戻したのが漁業法。
 漁船漁業については、外国では、漁獲量について個別割当やそれを売買可能にした国もあるが、一部の企業に権利が集中して、多くの漁業者が失業したり、割当の2倍も獲っても取り締まれなくて、むしろ資源管理がうまくいかない弊害も出ている。

 

Q 漁業権はこれまで、誰がどういう形で管理してきた?

 

 漁場を共に使用している漁家が漁協に集まって、ノリ、カキ、ハマチ養殖、定置網、漁船漁業などが、互いに迷惑をかけずに有効に浜を重層的に使って、過密養殖や過剰漁獲にならないように年間計画を立てて、年度途中でも話し合って微調整し、きめ細かな資源管理をしている。

 

Q 約70年ぶりに改正の動きがでてきた背景は?

 

 端的に言うと、鈴木さんちのノリ漁場は条件が良いから、そこでノリでなくてオトモダチ企業がマグロ養殖をしたら何10倍ももうかる。それが効率だ。だから、鈴木さんに優先的使用権があるのはおかしい、企業にタダで明け渡せ、という論理。まさに、「今だけ、金だけ、自分だけ」だ。

 

Q 今の日本の漁業の現状(漁獲量・後継者不足・収入は?)

 

 漁獲量は200海里規制や水産物の貿易自由化の進展で輸入に市場を奪われ、減ってきている。関税は平均で4.1%と非常に低い。輸入が増えて価格が下がり、所得が減っては、後継者は残りにくい。しかも、国境を守る欧州の農業所得が100%税金で支えられているのに、日本の国境を守る漁家所得の補助金率は15%と低い。それでもみんなで踏ん張っている。苦境の原因は共同管理ルールのせいではなく政策の方向性にある。

 

Q 今回の改正案、漁業権開放に対して鈴木さんは反対されていますが、どういう問題点があるのでしょうか?

 

 長年そこで暮らしてきた鈴木さんには浜を使う優先権があるというのは自然なことだが、それを非効率と判断して、何の補償もせずに、いやだと言っても無理やり「強制収用」して、しかも、公共的使用でなく、オトモダチのもうけに差し出すから、君はもうどこかへ行け、というのは「生存権的財産権」の剥奪で、憲法に抵触する。漁村のコミュニティも崩壊する。 漁協に集まってルールを決めて、話し合って微調整しながら入り江の資源管理してきたところに、その共同管理ルールを無視して勝手にマグロ養殖する企業の区画が出現したら、餌をやりすぎて赤潮になっても責任取らない。資源管理ができなくなる。
 漁業は、競争、対立、収奪ではなく、協調の精神、共同体的な論理で成り立ち、貴重な資源を上手に利用している。その根幹が漁協による漁業権管理だ。

 

Q 60歳以上の高齢者が約50%を占めていて、後継者も25%しかいない状況。新規参入は歓迎されるべきでは?

 

 そのとおりだが、それは今の仕組みでできる。企業も漁協の組合員になって共生している例も多い。資源管理の崩壊を回避しつつ全体が発展するには、今の仕組みを維持しつつ、「今だけ、金だけ、自分だけ」ではない企業は受け入れることではないか。

 

Q 例えば近畿大学のマグロの養殖は漁協の協力を得てやっているのですか?

 

 そう。漁協の組合員になって、みんなで共同管理をしている。共同管理にそれなりの経費はかかるから、それは払う。今回の話はそれも払いたくないということ。

 

Q 資源管理の面では、今回の改正は有効なのでは?

 

 それは逆だ。個別割当にしても、割当の基になる科学的根拠は薄弱で、予期せぬ魚の資源量の増加や減少が起こる。また、守らない違反者も出る。そういうときに、行政が管理していたのでは、柔軟な対応も適正な取り締まりもできず、膨大なコストがかかる。漁協を通じた自主的な共同管理ルールが最も柔軟に有効に低コストで資源管理を実現できることは現場を知っているものには自明。

 

Q 宮城県では、「漁業権」を民間企業に開放する特区制度を導入していますが、上手くいっている?

 

 上手くいっていない。漁協が決めたカキの出荷解禁日を無視して出荷して、地域ブランドを壊した。しかも、累積赤字は5000万円近くになっている。

 

Q 今回の法案の内容は、要は、漁協への了承や管理が面倒くさいから取っ払おうということ?

 

 そう。その結果、生存権が脅かされ、コミュニティが崩壊し、資源管理が崩壊し、国境も脅かされる。

 

Q 「美しい農村漁村を」と言いながら、今の漁村を残そうと思ったら、どうやったら持続可能なものになるか知恵を絞らないといけないのに企業に売り渡そうと?

 
 
 そう。タダで企業に差し出せと。オトモダチ企業は残るかもしれないが、日本の農村漁村はもたない。

 

Q 鈴木さんは問題点として、「日本では、農林水産業が国土や国境を守っているという感覚が欠如している」とも指摘されていますが、これはどういう意味?

 

 領土をめぐる軋轢を防ぐため、ヨーロッパでは国境線の山間部で多くの農家が持続的に経営を維持できるように、所得のほぼ100%を税金で賄っている。日本の国境線は沿岸部の海。漁業自体は赤字でも漁業権を取得することで日本の沿岸部を制御下に置くことを国家戦略とする国の意思が働けば、表向きは日本人が代表者になっていても、実質は外国の資本が全国の沿岸部の海を買い占めていくことも起こり得る。こうした事態の進行は、日本が実質的に日本でなくなり、植民地化することを意味する。

 

Q 鈴木さんは、どんな改正案、見直しが必要だとお考えですか?

 

 世界でも高く評価されている日本の共同管理の仕組みの根幹を崩すのは間違っている。ただし、参入したい企業にとって、ここが問題だという点については、それを解決していく努力を既存の漁業者側もして、ともに発展できる方向を見出さないといけない。
 
 聞き手まとめ:漁業法案には注目していなかったが、これは日本の地方の風景を一変させてしまいかねない重要問題だとわかった。今の漁協を中心とした共同管理の仕組みを維持したうえで企業も共存する方向を模索すべきではないか。今国会、漁業法案も注目しないといけないと痛感した。

 

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