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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.12.26 
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 政府は本日(12月26日)、約30年ぶりの商業捕鯨の再開に向けて、クジラの資源管理を担う国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明した。反捕鯨国との意見対立から、我が国が目指す商業捕鯨再開のメドが立たないためである。脱退後、国際法上、南極海での捕獲調査はできないため、日本の領海や排他的経済水域(EEZ)内での商業捕鯨の再開を目指すとのこと。政府が12月20日にこの方針を固めて以降、多くの新聞が取り上げている。

◆席をけるな、という日経

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 日本経済新聞(12月21日付)は、「科学調査を含めいっさいの捕鯨を認めようとしない反捕鯨国が増え、議論が先に進まないいらだちは分かる」としたうえで、「今なぜ」と疑問を投げかける。そして国際社会には、「米トランプ政権となんら変わらない振る舞いに映る」ことを危惧する。さらに、調査捕鯨ができないことに加えて、商業捕鯨が再開され捕獲数が増えたとしても、それに見合った国内需要の伸びに疑問を呈する。1960年代に年20万トンを超えた鯨肉消費量が今や5千トンほど。ちなみに馬肉は1万トン強。
 翌22日付の同紙コラム「春秋」では、「IWC脱退へ」の報から思い出されるふたつの姿を紹介している。
 ひとつは、1933年2月24日、スイス・ジュネーブでの国際連盟総会において満州国が認められず、翌月、連盟を脱退する日本の姿。その後、我が国がどのような道をたどったかを思い起こせと、暗に警告する。
 もうひとつが、TPPをはじめ、気に入らない枠組みからの離脱を繰り返す米国の姿。国際社会から、「トランプ流を見習ったのでは」と疑われかねないとする。
 「別の道はありえないのか。幸い、まだ席をけってはいない」と結んだものの、けっちまったぜ。

 

◆食文化の維持にも限度あり

 日本農業新聞(12月21日付)は、捕鯨国と反捕鯨国の間にある食文化の決定的な違いからの脱退であり、「反捕鯨派の反発が必至な上、食卓からクジラが遠のいて久しい今、仮に捕獲量を増やしても需要があるかどうかは不透明」と解説する。大変興味深いのは最後に添えられた、「食文化で譲らない姿勢が他の国際交渉でも生きる」との水産庁幹部の強気な発言。
 残念なことに山口新聞(12月21日付)は、かつて商業捕鯨基地として栄え、現在もクジラの食文化を継承する下関市の関係者から聞こえる不安の声を紹介している。市内の鯨肉店店主は、「南極海で取れた鯨肉は品質が良く一定のブランド力があった。扱えなくなると商売が厳しくなるだろう」と表情を曇らせ、水産会社社長は「今後の鯨肉流通量や仕入れ価格がどうなるかが分からず不安」とのこと。さらに下関くじら食文化を守る会会長は、「仮に商業捕鯨が再開されても、沿岸捕鯨だけになると鯨の解体施設がない下関では船主が荷揚げできず、国内の他の沿岸捕鯨が盛んな地域に比べ不利になる」とし、解体設備を備えた母船式捕鯨の公海上での実施が重要とし、「国際社会と連携を深めることが大事」と述べている。ちなみに下関市は安倍晋三首相の選挙区。
 京都新聞の社説(12月24日付)は、「今回の判断の背景には『捕鯨は日本の伝統文化』とする自民党の捕鯨議員連盟の影響もある。古式捕鯨が伝わる和歌山県選出の二階俊博幹事長らが強い対応を求めた」ことを明らかにする。しかし、「日本に伝わる捕鯨は沿岸に限られる。遠洋捕鯨まで伝統文化という主張が国際理解を得られるのか」と疑問を呈するとともに、現在の鯨肉に対する消費傾向では、捕鯨が産業として成立する見込みが乏しいという現実を突きつけている。

 

◆短慮を諫め翻意を促す産経と朝日

 産経新聞の主張(12月21日付)は、「商業捕鯨モラトリアム(一時停止)後、日本による調査捕鯨は海の生態系を解き明かし、海洋資源の状況を把握するなど極めて重要な役割を果たしてきた。日本のIWC脱退により、調査する国がなくなれば科学的データの蓄積は途絶え、海の持続可能な開発への知見が失われよう。......IWCにとどまり、調査捕鯨の継続によって『持続可能性を踏まえた生態系調査』の科学的データを蓄積し、粘り強く反対国の説得にあたるべきだ」と、冷静に諭す。
 朝日新聞の社説(12月23日付)は、「地元に捕鯨漁業を抱える与党の有力者からは、脱退に向けた『決意』を示す声があがっている」ことを紹介した直後に、「短慮と言わざるを得ない。脱退はやめるべきだ」と、厳しく翻意を促す。「IWCの目的には捕鯨産業の発展も含まれており、一部の反捕鯨国の姿勢がこれに反しているのも事実だ。南極海などの公海は別として、日本近海での商業捕鯨の限定的な再開は、厳密な資源管理を前提とすれば検討の余地もあるだろう」と一定の理解を示しつつも、「だが、そうしたことはIWCの中で、粘り強く主張していくべき事柄だ。日本への批判の大きな材料になってきた調査捕鯨のあり方を根本から見直しつつ、理解を広げるしかない」と、念を押す。

 

◆捕鯨の全体像を示し国民的議論を深めることを政府に求める北海道と信濃毎日

 北海道新聞の社説(12月24日付)は、「水産資源の管理は国際協調が欠かせない。今回の決定が、他の分野での協力の妨げにならないだろうか。政府が目指す商業捕鯨の姿も不明確だ」とする。そして「地球温暖化対策で『パリ協定』離脱を決めた米国と同様、国際社会から注がれる視線が厳しさを増すのは避けられまい。マグロやサンマなどの資源管理では、日本は国際協調を求める立場だ。反捕鯨国の反発などによる悪影響が懸念される」ことを危惧し、「脱退後の日本の捕鯨の全体像」を示すことを政府に求める。
 信濃毎日新聞の社説(12月21日付)は、「厳しい状況であり、打開は容易でない。一方、脱退しても、待っているのはいばらの道だ」とする。戦後の食料難の時代とは違い、鯨肉はすでに「珍味」に分類され、商業捕鯨再開後に消費量が大幅に伸びることは考えにくいからだ。それ故に、「国際的批判を覚悟してまで再開を勝ち取らねばならないものなのか」と素直に問い、「国民的議論が深まっているとはいえない。このまま突き進むことは許されない」と結論づける。

 

◆芸無き脱退劇

 鯨肉産業は苦しい中で、縮小均衡路線に活路を見いだし、高級珍味として残れるものは残ろうとしている。消費者も、そのような食材と認識している。ここで問われる政治家と役人の力量は、縮小均衡路線の中に細くても丈夫な命綱を提供することにある。トランプ氏のまねをして、大日本風を吹かせても、国際社会では親分にすがる粋がったチンピラとして軽蔑されるだけ。
 第二次安倍政権が発足して7年目に入る日を飾る、国難政権ならではの脱退劇、とでも皮肉っておこう。
 2018年最後の当コラム、テーマがクジラだけに、今年最後のホエールだ。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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