【童門冬二・小説 決断の時―歴史に学ぶ―】AIに負けない人間の"風度"2019年3月10日
人類の近未来を予測する書物や映画がある。書物ではジョージ・オーウェルの「一九八四年」が有名だ。一九四九年(昭和二十四年)に発売されたこの本では、作中に人間生活に登場する生活機器がいろいろ考案されていた。テープレコーダー、テレビの多重映写などがすでに発想されている。オーウェルの予想する一九八四年(昭和五十九年)に、それではかれの考案した約百の機器が、一体いくつ実現したかを調べた人がいる。八十をこえていた。世界はオーウェルの予見力に驚嘆した。
映画では"二〇〇一年宇宙の旅"が人間を沈黙させた。スタンリー・キューブリックのこの近未来予想は、コンピューターが未来を操りはじめ、宇宙飛行士がロケット内でコンピューターとチェスをしても、必ず敗北するという恐しさを示していた。"アイ・ロボット"はAIが人間に使われていたのが、主客転倒しAIが人間社会を支配するようになる映画だ。原因は人間のロボットに対するパワハラだ。人間に軽視・蔑視の差別を受けているうちに、本来無機物であった金属製のAIに予想もしなかった機能が生れる。感情だ。喜怒哀楽の情で、特に人間に対する憎しみと怨みの念が発達する。これがAIたちに伝播し始末に負えなくなる。AIは人間に反乱し社会の支配力を奪う。人間は逃げ惑う。
私はすでに後期高齢者(九十一歳)であり、この世での持ち時間も残り少ないが、AIに追いまくられる恐怖心は、"あり得ること"としていつも実感している。そして、
「その時に人間が負けない武器は何だろうか?」と考える。武器は一つだけである。
「風度」だ。「ふうど」と読む。風土ではない。ほとんどの辞典には出ていない。「名将言行録」などの古い本に散見する。すぐれた武将たちの記述の中に
「敵を唸らせ、部下を心服させたのは、あげてこの人物の風度である」というような使い方がされている。その例をいくつか摘出して基底にある共通項を探ってみると、
「相手に"なら"と思わせるこの人物の"らしさ"」ということになる。
「この人のいうことなら信頼できる」「この人のためなら協力しよう」という気にさせる。その人物の発するオーラだ。
オーラだからいわくいい難しで理論化できない。しかし周囲への影響力は強い。私は極限状況に追い込まれた人間の最後の武器は、このオーラ即ち風度だと思っている。周囲を感動させ、脅威させ、そのモラール(やる気)をアップさせ、協力の心を増長させ、一致して危機に立ち向かう勇気の源泉だと思っている。
しかしこの風度は既製品ではない。探して得られる物でもない。ひとりひとりが自分でつくり出すものなのだ。ということは私たちがそれぞれの"立ち位置"によって、必要とされる風度が違うということなのだ。
家庭にあっては父の風度、母の風度、子の風度、祖父の風度、祖母の風度が皆違う。それぞれが発散すべき風度は、それぞれの立ち位置による"らしさ"である。つまり「この父なら、母なら、祖父なら、祖母なら」と子や孫に思わせる"らしさ"の発散だ。そして親たちも逆に子の"らしさ"、孫の"らしさ"から何かを学びとるフィードバック(出力と入力の有効な相互制御)に発展させる柔軟さが必要だ。
組織でも同じだ。トップらしさ、ミドル(管理職)らしさ、ロー(ヒラ)らしさを自ら培養し、周囲を"なら"と思わせる。
「この社長のためなら全力をつくそう」「この課長なら単なる上司ではなく、人間の正しい生き方を教えてくれる師だ」「この親切な対応をしてくれる窓口さんなら、ずっとここの客になろう」と、職場のまわりだけでなく、客にも飛び火をする効果を生むことだ。
昔の英傑やリーダーの"風度"は、その行動が相手を感動させる、パワーを掻き立てるという。感性をゆるがせ潜在するエネルギーに火を点ける作用をした。相手をそうさせた動機づけ(モチベーション)は、おそらく「この人はウソをつかない、誠実に仕事に専念している。私利私欲が全くない敬愛すべき人物だ」と感じさせるオーラ(風度)なのだ。感性をも持つようになったAIに支配されないためには、人間がその風度をAIの感性に伝えることだ。
先日、JA全中の中家会長からいろいろお話をきく機会を得た。会長の話の中につぎのような目からウロコの落ちるようなものがあった。「あるコープ(JAの販売店)で、よく見かける客がいるンです。なぜここを利用なさるンですか、ときくと、その客はコープのひとりの職員を示して、あの人がいるからですよといって、さらにあの人がいる限り、私は要る物すべてここで買いますよといってくれました。嬉しかったですね」
会長はそういったあと、
「JA職員のすべてがそういわれてほしいですね」と結んだ。
この話はまさに「ならと思わせるらしさ」
つまり今回書いた"AIに負けない人間の風度"の実例なのだ。
個人個人の立ち位置を自覚した風度の培養努力は、そのまま「生涯学習」の目標といっていい。
(挿絵)大和坂 和可
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(113) -みどりの食料システム戦略対応 現場はどう動くべきか(23)2024年10月12日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(30)【防除学習帖】第269回2024年10月12日
-
農薬の正しい使い方(3)【今さら聞けない営農情報】第269回2024年10月12日
-
女性の農園経営者【イタリア通信】2024年10月12日
-
JA全農あきた 24年産米の仮渡金(JA概算金)、追加で2000円引き上げ 収量減に対応2024年10月11日
-
農場へのウイルス侵入防止強化へ 衛生管理徹底を 鳥インフルエンザ対策2024年10月11日
-
(405)寄付【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年10月11日
-
外国産農産物の調達 価格面で「懸念あり」円安も影響 食品産業対象調査 日本公庫2024年10月11日
-
JA全農みやぎ 24年産米の仮渡金(JA概算金)、3品種で3000円引き上げ 集荷力強化2024年10月11日
-
冬の床冷え対策に「くらしと生協」人気の「アルミシート入りラグ」に新商品登場2024年10月11日
-
大阪産「夢シルク」のさつまいもあんぱん新発売 クックハウス2024年10月11日
-
障がい者が活躍を応援「エイブル・アートSDGsプロジェクト」開催 近畿ろうきん2024年10月11日
-
「第11回豆乳レシピ甲子園」2200件の応募から最優秀賞を決定 日本豆乳協会2024年10月11日
-
サヤインゲン目揃い会で出荷規格確認 JA鶴岡2024年10月11日
-
くん煙剤やナブ乳剤を展示 「第14回農業WEEK」に出展 日本曹達2024年10月11日
-
和の技と肉の魅力を融合 新感覚「肉おせち(二段重)」数量限定発売 小川畜産食品2024年10月11日
-
青森県産青りんご「王林」使用「J-CRAFT TRIP 王林サワー」再発売 三菱食品2024年10月11日
-
持続可能な農食産業発展へ 名大と「未来作物ラボ」開講 グランドグリーン2024年10月11日
-
山形県のブランド米「つや姫」使用の乾麺「つや姫麺」新発売 城北麺工2024年10月11日
-
茨城県産レタス使用「モスの産直レタス祭り」茨城県で開催 モスバーガー2024年10月11日