【熊野孝文・米マーケット情報】買いヘッジで6000万円差益を得たコメ集荷業者2019年4月2日
先月末、大阪堂島商品取引所が主催して開催された「新潟コシ先物セミナー」で、実際に新潟コシ先物活用している西蒲原郡のコメ集荷業者がどのような活用をしているのか実践例を紹介した。その業者が「ざっと6000万円ぐらいの差益があることになりますね」と言った時は自分の耳を疑ってしまった。
コメ先物市場には様々な利用法があるが、一般的には産地の生産者、農協、集荷業者は自社が生産した、もしくは集荷したコメの価格下落に備えて売りヘッジ(保険つなぎ)するのが普通である。
分かりやすくするために具体的なケースで説明すると新潟コシ先物市場で31年産米の最初の受渡し限月になる10月限の3月29日の引値は1万6540円なので、新潟県内の生産者でコシヒカリを作付しようと思っている生産者がこの価格で1枚(25俵)売れば1万6540円×25俵で41万3500円の所得が確定する。10枚250俵であれば413万5000円の所得が確定する。31年産新潟コシヒカリが10月になって急落し1万5000円になっても売りヘッジした所得は動かない。
冒頭に記した6000万円の差益を得た集荷業者はこれとは全く逆のことを行った。この業者は昨年の夏に農協系統が30年産米の概算金を提示したころ、その価格が割安だったことや新潟コシ先物市場の価格も安いと思えたことから、コシヒカリが品薄になると予想される6月限、8月限を800枚(2万俵)買った。買った理由は割安だと思えたことだけではない。第一に挙げたのが集荷資金の負担が大幅に軽減されること。先物市場で1枚25俵を買うためには取引員に口座を開いて証拠金として1万円を積めば良い。つまり1万円で25俵を買えることになる。しかもその間の倉庫料金は必要なくゼロである。これに魅力を感じて先物市場で買いを入れたのだが、買った価格が平均1俵1万6000円程度だったものが、全県的なコシヒカリの収量不足もあってか急激に価格が上昇して1万9000円を超えるまでになってしまった。6000万円と言うのは、この差額3000円×2万俵のことで、今、買い建て玉を手仕舞いして売り戻せば差益金が自社のものとなる。ただ、この業者は手仕舞いするつもりはない。なぜなら先物市場で買いに入ったのはあくまでも現受けして取引先にコシヒカリを販売するためのものであるからで、その販売価格が仮に1万6500円であったとしても供給責任を果たす必要があるという。
これは買いヘッジした事例で、自社の販売先に確実に新潟コシヒカリを販売するために少ない資金で大きな量を取引することが出来る良い見本である。少し高度になるが在庫負担を軽減させる方法としては今年の10月限を売って2月限を買うという方法もある。現物を扱わない一般投資家ではこうした行為は出来ないが、実際に新潟コシヒカリを扱う集荷業者等当業者はこうしたことが出来る。なぜなら10月限と2月限が同じ価格もしくは逆ザヤ(2月限が10月限より安い)場合、10月限を売って2月限を買うことによってその間の金利、保管料が必要ないということになるからで、実際に豊栄市のコメ集荷業者はそれを実行している。
大阪堂島商品取引所は3月28日に開催した臨時総会で「本年度は、米穀の試験上場期限を迎えるにあたり、コメ先物市場が価格発見機能をはじめ極めて重要な機能を有する産業インフラとして、我が国における戦略的市場であることを広く社会全般に浸透させ、不退転の決意で本上場の実現に取り組むこととする。また、本上場後については、これを契機にした市場認知度の向上を図るとともに、金融・商品両市場の成長戦略を踏まえた市場環境の変化に対応するため、市場機能強化に向けた営業戦略を展開する」とし「本上場実現に向けた環境整備では、コメ先物市場では生産者を中心に当業者の参加が他の農産物先物市場を凌駕しており、これら当業者からはリスクヘッジ等を目的に積極的にマーケットを活用する中で、恒常的な市場継続の強い要望が示されている。こうした要望に応え、農業経営安定化のためのツールとして先物市場を提供することは、農政改革の趣旨に合致するもので、先物市場を通じた米穀指標価格の形成及び発信こそが将来を見据えた国内農業の発展に必要不可欠なものであると認識している」と本上場獲得に向けた決意を披露している。
コメ先物市場がなくなってしまうと一番困るのは生産者や農協、集荷業者、流通業者など当業者であることはハッキリしており、今まさに「コメ先物市場存続要請」に積極的に署名すべきである。
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