【熊野孝文・米マーケット情報】膨らみ続けるコメの財政負担2019年4月9日
アフリカで農業指導をしている人から「援助米が来るのが待ち遠しい」と言われたことがあった。その理由を尋ねると日本から送られて来る援助米は現地で調達できるコメと比べ物にならないほど美味しいからだという。 援助米と言えばMA米が主流で、平成7年からMA米の輸入が始まり、これまでに1658万t(平成30年10月末まで)が輸入されており、このうち324万tが援助用として処理されている。平成も今月で終わりなので、コメ業界で平成の時代を形作ったMA米について少し触れてみたい。MA米の売却状況の経緯はRY(米穀年度 前年11月から当年の10月末まで)ベースでまとめられたデータが公表されている。平成8RYは加工用に12万t売却されただけで31万tが持越在庫になった。9RYからSBSで輸入されたものが主食用に3万t売却されたほか28万tが加工用、12万tが援助用として処理された。 しかし、売却先が限られたこともあって、その後、MA米の在庫は膨らみ続け、18RYには189万tにまで在庫数量が膨らんだ。この年に初めてMA米が飼料用に売却されるようになり、これまでに603万tが売却されている。その他の売却数量は累計で主食用が150万t、加工用が502万tになっている。MA米といえども1t1年間保管すると1万円の保管料がかかるので100万tでは100億円の経費がかかる。在庫負担を減らすためには加工用や飼料用、援助用にどんどん売却すれば良いのだが、これはこれで大きな財政負担が伴う。加工用は国産特定米穀との競合関係上、いくらでも安く売却できるというわけではないので、国産特定米穀(くず米)の発生が多い時はMA米の売却数量が落ち込む。飼料用にはトウモロコシ並みのt2万円で売却されるが、輸入価格がt7万円なので、差し引き5万円の差損が発生し、50万tでは250億円の差損。援助米は基本タダなので差し引きt9万円の差損が発生し、50万tで450億円の差損。農水省の特別会計予算班にこれまでMA米に費やした負担はどのくらいになるか聞いてみると4500億円を超えているという。つまりそれだけの税金をつぎ込んで付き合い良く毎年70万tを超える外国産米を買わされているわけだ。
税負担をしているのはMA米だけではない。ロット当たりの負担額が最も大きいのは国産米である。
左表は財務省がまとめた29年度の食糧管理勘定の区分別損益を記したものだが、これで明らかなように国産米は約450億円の損失を計上している。これは政府備蓄米の買入、売却に伴う損失で、その運用について「基本的な運用としては、適正備蓄水準100万t程度を前提とし、毎年播種前に21万t程度を買入れ、通常は5年持越米となった段階で、飼料用等として売却」と明記されている。
政府備蓄米の買入価格は60kg当たり1万円から1万2500円程度であったが、30年産から値上がりして1万3200円程度になり、今回の31年産では1万3800円程度になっている。つまり仕入れコストが高くなっているので、これを飼料用に10分の1以下の価格で売却すればその分損失が膨らむという構造になっている。
コメの処理に要した財政負担は、食管時代に第一次過剰米処理(昭和46年~49年)で1兆円、第二次過剰米処理(昭和54年~58年)に2兆円。合計3兆円を注ぎ込んで1340万tを処理した。生産調整が強化され、過剰在庫は無くなったが、その代わり生産調整に巨額の税金を投入するようになった。生産調整が始まった当初は700億円程度の予算であったが、現在は3300億円を超えるまでになっている。簡単な話、過剰米処理時代は出口対策に税金をつぎ込んでいたが、現在は入口対策に税金をつぎ込んでいるに過ぎない。
こうした政策を続けて日本のコメ作、コメ産業が発展すれば良いのだが、マーケットは縮小する一方で、生産現場は離農が進み、耕作放棄地は一向に解消しない。それどころかMA米に加えTPP11という新たな外米輸入義務が発生し、これは主食用に販売、その分国産米は政府備蓄米として買い入れられ、エサ用に売却されるという極めてアブノーマルな政策が取られている。新しい時代は米価が上がれば良いという時代とは決別する時代にすべきである。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】ブロッコリーの黒すす病にSDHI剤耐性菌が発生 北海道2025年12月25日 -
【注意報】イチゴにハダニ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年12月25日 -
家庭での米消費、前年比11.7%減 マイナス幅拡大、「新米不振」裏付け 米穀機構11月調査2025年12月25日 -
米価高騰に対応、「4kgサイズの米袋」定番化 値ごろ感出し販売促進 アサヒパック2025年12月25日 -
協同組合の価値向上へ「鳥取県宣言」力強く2025年12月25日 -
【世界を診る・元外交官 東郷和彦氏】トランプ再来の嵐 自国利益に偏重2025年12月25日 -
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】なぜ日本は食料難の経験を教科書から消したのか?2025年12月25日 -
【Jミルク脱粉在庫対策】基金初発動1.2万トン削減 なお過剰重く2025年12月25日 -
すべての都道府県で前年超え 2024年の県別農業産出額 トップは北海道2025年12月25日 -
【農と杜の独り言】第7回 祭りがつなぐ協同の精神 農と暮らしの集大成 千葉大学客員教授・賀来宏和氏2025年12月25日 -
国連 10年に一度「国際協同組合年」を決議2025年12月25日 -
秋田と山形の3JAが県越え連携協定2025年12月25日 -
日本産の米・米加工品の輸出促進策を議論 「GOHANプロジェクト」で事業者が意見交換 農水省2025年12月25日 -
26年産米の農家手取り「2万5000円めざす」 暴落の予兆に抗い再生産価格を確保 JA越前たけふ2025年12月25日 -
笹の実と竹の実【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第370回2025年12月25日 -
茨城県で鳥インフル 97万羽殺処分へ 国内10例目2025年12月25日 -
ホットミルクと除夜の鐘 築地本願寺でホットミルクお振舞い JA全農2025年12月25日 -
JA共済アプリ・Webマイページに「チャットボット」機能を導入 JA共済連2025年12月25日 -
5県9JAの農産物・加工品を販売 第46回マルシェ開催 JA共済連2025年12月25日 -
短期プライムレートを年2.125%に引き上げ 農林中金2025年12月25日


































