コラム 詳細

コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2019.05.09 
【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】卒業生・修了生への祝辞一覧へ

 上野千鶴子・東大名誉教授の新入生祝辞が話題を呼んだので、レベルは違うが、私の昨年度(2018年3月)の鈴木研究室の卒業生・修了生への祝辞の全文を原文のまま紹介したい。

 

◇   ◇

 

 修了・卒業、おめでとうございます。
 連日、メディアで報道されているように、いまの政治や業界のリーダー達は、「今だけ、金だけ、自分だけ」で、部下や現場で頑張っている人々のためでなく、自らの利益と保身のためだけに、むしろ周りを容赦なく犠牲にする見苦しい方が多すぎます。みなさんは、これからの日本、アジア、そして世界を背負う人材として、拠って立つ人々のために尽くしてこそ、自らも成り立つということを忘れず、それぞれの立場から、社会の発展に貢献し、自ら責任をとる覚悟を持ったリーダーになってくれることを願っています。

 農学の祖、横井先生は「農学栄えて農業滅ぶ」と言いましたが、それは実はあり得ないと私はよく話しています。最終的には、現場の農業が滅んで、農学だけが栄えることはありえない、「農業が滅んだら農学も滅ぶ」。これは、どんな仕事でも同じで、組織や会社が存続できるのは、その組織がよって立つ農家や消費者という現場が持続できるからこそです。それを忘れて、「組織が組織のために働いたら組織は潰れる」。このことも肝に銘じてほしいと思います。「今だけ、金だけ、自分だけ」=「3だけ主義」で、目先の自身の儲けや保身に陥ると、自分も組織も長期的には持続できません。何事も、基本は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」=「3方よし」です。

 本研究室の皆さんは計量的手法で数値化して分析することに優位性を持っています。また、農国(農学国際)という「未完成」ながら、現場との接点を重視する専修・専攻で、現場からの視点を意識してきました。そのことは、今後研究を続ける人にも、社会に出る人にとっても大きな武器になります。大いに活かして下さい。皆さんは、計量的手法の有用性も限界も知っているから、常にその限界も意識して、現実・現場の実感と複雑さをよく吟味せずに、短絡的な結論に結びつけてしまう人には、事情をよくわかっているプロとして、皆さんがアドバイスして下さい。現実・現場は極めて複雑な要因から成り立っていて、計量モデルはあくまで現実をある側面から切り取ったものであり、そこから導かれる結論には制約があることを常に意識し、まず、現実・現場を自身が実感することが不可欠であると。

 もう一つ、何の世界も思考の硬直性が発展を止めてしまうことを述べておきたいと思います。経済学者の一部は、自分がテキストで学んだ「理論」が「実感」に合わないと、無理やり「実感」をねじ曲げて、非現実的な仮定で「理論」に押し込もうとする傾向があります。そもそも、「理論」は「実感」を説明するために形成されたものだから、現場の「実感」に合う「理論」を再構築する必要があるのに、自分が教え込まれた固定観念を「教義」のように信奉する(開発)経済学は、現場の状況を改善するのでなく、むしろ悪化させる危険があります。こうした思考回路に陥らず、頭をほぐすことが研究でも仕事でも肝要です。現場の「実感」に合う「理論」を再構築することは皆さんに期待されている重要な仕事です。

 以上、農学国際という「未完成」の専修・専攻で学び、いろいろ戸惑いもあったと思いますが、現場・現実にしっかりと立脚した思考・分析・活動が物事の基本だという点は、ここで学んだ姿勢として忘れずに、「3だけ主義」に陥らず、「3方よし」の実践で、これから、それぞれの分野で社会のリーダーとして活躍してくれることを心より念じております。期待しています。頑張って下さい。

 

本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

鈴木宣弘・東京大学教授のコラム【食料・農業問題 本質と裏側】 記事一覧はこちら

一覧はこちら

このページの先頭へ

このページの先頭へ