【坂本進一郎・ムラの角から】第14回 もう50年もたったか2019年7月3日
「泳ぎを知らなくとも、水に飛び込んでしまえ」
私は悩める青年であった。将来どんな職業についたら自分自身で満足が行ったという気持ちになれるだろうか。この悩みは大学3年後半から徐々に沸き起こってきた。大学4年になると時間的に決めなければならないという切迫感のようなものを感じた。だがどっちに行けばいいのか、考える材料も乏しかった。今までの学校生活は人生の決断をモラトリュームしていたようなもので、そこで私の頭は空っぽだったからだ。どうしたらいいか真剣に考えた。
その結果、誰か一人の人生を追跡してみようという気になった。4年生の春のことである。選んだのは島崎藤村であった。藤村は粘り強い人のように見えたからである。わたしも粘り強いところがある。そこでとっつきやすかったのだ。しかしあまり役に立たなかった。藤村は小説家を目指した人なのだ。それでも役に立ったのは「それでもなお」という精神で頑張っている姿だった。余禄もある。藤村は仙台の東北学院高校の教師をしたことがあり、これは逃避行に過ぎなかった。ところが、仙台の名掛丁に下宿しているとき太平洋岸から聞こえてくる潮騒が心地よかったという話は今とは雲泥の差である。今は車の喧騒は聞こえても海の潮騒は聞こえてこないからである。
話を元に戻そう。行き先を決められない自分が嫌になり、自分で自分をますます憂鬱にした。決めなければならない。なのに決められない自分。いつまでもこの状態でいられない。そこで自問自答した。「それなら新聞記者はどうか」「高校教師ではどうか」どちらも腰が据わっていないので食指が動かなかった。そして、ずるずると政府系の金融機関に勤めることになった。
父はこのことを喜んだ。わたしは父の祝意も馬耳東風だった。結局はここに就職した。だが腰かけ気分なのか頭と体がばらばらで腰がそわそわして落ち着かなかった。勤めて一週間目勤めを解放されて門の外に出た瞬間、からだがばらばらになって崩れそうになった。この時「あ〃ここには勤められないな」と強く思った。勤務を終わり自宅に帰ると、どうしたらいいか考え疲れるほど苦吟した。もう苦吟をやめようと思った瞬間、遠い向こうのほうにぴかっと光るものがあった。「百姓をやれ」という「天来の声」であった。
啓示に従って農業の道を歩むことにした。まだ悩みはあった。どうやったら農業に到達できるの。全国の農業を見て歩いた。本当は里山型の農業をやりたかったが、当時は規模拡大型の農業基本法の農業に変わっていた。いずれにしても門外漢の私にとっては、なにもかも全く新しいことに挑戦するわけで、そこで「泳ぎは知らなくとも云々」と冒頭を書き出したのである。
入植して50年たった。この国の軽農主義はすさまじい。それに覆いかぶさるように1本調子(単眼思考)もすごい。一本調子が国民をこの前の戦争に引っ張っていったのだし、福島原発を引き起こしたのも、今の農業つぶしも一本調子のせいである。
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