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コラム:地方の眼力

【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

2019.07.31 
【小松泰信・地方の眼力】当事者の苦悩に思いを馳せよ一覧へ

 臨時国会が8月1日に召集されるのを前に、初当選した重度の身体障害がある「れいわ新選組」(以下、「れいわ」と略)の2人を本会議場に迎えるため、議席のバリアフリー化工事が行われた。この話題も含めて、各種メディアは山本太郎氏率いる「れいわ」を取り上げている。投票が締め切られるまでは、山本氏や同党を「放送禁止物体」として黙殺していたのに。インターネットを通じて伝えられるその選挙運動は、もっと多くの議席を獲得してもおかしくはない、心が揺さぶられるものであった。

◆頼りにならない代弁者たちとMMT(現代貨幣理論)に裏付けられた経済政策

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 毎日新聞(7月30日付夕刊)は、「ざわつく永田町」という見出しで「れいわ」の戦略を分析している。「真夏の夢で終わらなかった」で始まる本文では、「代弁者でなく当事者を国政の場に」というモットーを徹底した点を、同党が支持を得た要因の一つにあげている。まさに同感。代弁者である国会議員のレベル低下、想像力の欠如、さらには、安倍組の利害関係者の代弁者に成り下がった自己保身等々への挑戦でもある。己の落 「自民党なら現状維持できるなんてとんでもない。人々の暮しはどんどん貧しくなっている。それを考えると自民党政治にピリオドを打たなきゃしょうがない」「無党派層をつかみ、与党側の票を削りたい」「人々の生活を底上げする経済政策を掲げて、私たちと共に政権交代を目指すなら全力を尽くしたい」、といったインタビューへの回答に共闘の二文字が鮮明となる。

 西日本新聞(7月30日付)において、施光恒氏(せ・てるひさ、九州大学大学院准教授)は盛り上がりに欠けた中で、目立ったのが「れいわ」の躍進とする。その原動力の一つとして、最近注目を集めているMMT(現代貨幣理論)を理論的裏付けとした経済政策の提起をあげている。「日米など独自通貨を発行する国は、政府債務が増加しても破綻することはない。不況期には債務残高を心配せず積極的に財政拡大政策をとるべき」とするMMT理論をふまえて、「消費税廃止」や「コンクリートも人も~本当の国土強靱化、ニューディールを」という財政拡大政策を掲げたことを評価する。外交、安全保障、皇室の位置づけなどに不安定感が見られることを指摘しつつも、「次回の衆院選でさらなる旋風を巻き起こす可能性が高い」としている。
 「既存の政治では人々の閉塞感は払拭できない」とする最後の一文を、既成政党とその議員たちは重く受け止めるべきだ。

 
◆「れいわ」の農政と発火点

 日本農業新聞(7月29日付)も「どう見る れいわ農政」というタイトルで取り上げている。
 同党の参院選での政策について、「食料安全保障を『最重要事項』とし、食料自給率目標は『100%』に据える。その実現に向け、農業だけでなく全ての第1次産業就業者への戸別所得補償を主張する」と紹介し、「夢のような政策」と位置づける。さらに、TPP、種子法廃止法、漁業法、国家戦略特区法など、安倍政権下で成立した法律や国会承認された条約の「一括見直し・廃止」を主張していることも紹介する。
 記事の最後には、「比例区の安倍政権批判票が相当、れいわに流れた。国会でも存在感を発揮していくかもしれない」と、危機感を強める野党幹部の声を添え、「新たな勢力として農政論戦に一石を投じるか」としている。
 自民党一つ覚えの全国農政連に忖度してか、「夢のような政策」と揶揄しつつも、その実、農業政策や地方問題への大胆な切り込みいかんでは、農業・JA関係者への影響力大とみている、と嗅覚が働くが如何か。
 農業・JA関係者への影響力が小さくは無いことを、毎日新聞(7月28日付)の「れいわ 地方に広がるか 不安感に直球主張」という記事が示唆している。
 「原発維持、TPPの締結といった自民党の政策は『農家にとって死活問題』と反対の立場。『僕らの目線に近く、食の安全や生活保障を第一に掲げる点にも共感する。不安感が覆っているからこそストレートなメッセージが響く』」とは、同党の地方遊説に聞き入った農家(35)の感想。 
 中島岳志氏(東京工業大学教授・日本政治思想)は、「れいわと地方の親和性は高いのか」という質問に答えて、「潜在的には、地方の農協、青年会議所にいるような人に訴える力を持っていると思う。彼らは地元の人間関係があるから自民に投票しているが、発火点があれば案外もろいと思う」と、興味深いコメントを寄せている。
 JAグループの組織内候補者の得票数を見れば、積極的であろうが消極的であろうが発火点を求める民意が堆積しつつあることは間違いない。「れいわ」が、その民意にどう刺さり込むことができるかが、これからの農政の行方を左右する。

 
◆豚コレラをどうする!

 ところで、日本農業新聞(7月30日付)は、2018年9月に発生し、間もなく11ヵ月になる豚コレラ問題に多くの紙面を割き、その窮状を訴えている。
 一面のリード文は、「豚コレラの発生拡大が止まらない。養豚場での発生は岐阜、愛知に続き24日に三重県にも拡大。27日岐阜県恵那市で33例目が確認された。陽性の野生イノシシは、福井県、長野県へと範囲が広がる。日本の養豚産業を守るために、何をすべきか」と、問いかける。
 殺処分を経験した農家4人と識者2人による座談会には、胸が締め付けられた。殺処分頭数は、最も多い人が1.1万頭、最も少ない人が2500頭、計2.37万頭である。
 「経営再開への展望」を問われて、橋枝雄太氏(36)は「従業員10人の生活もあるし、何とか再開したいが、周辺には陽性のイノシシがうようよしている。......防疫対策というか、対応に追われていたという感覚だ」と答える。鋤柄雄一氏(49)は、「今月18日に8頭を入れて、最初に経営を再開した。......最初に再感染の恐れもある。そうなれば、家族には養豚をやめると話している」と、苦しい胸中を明かす。阿部浩明氏(52)は、「生まれた時から豚と一緒に遊び、豚の居ない生活は考えられない。半年間、収入もない。早く再開したいとは思っている」と、生活の一部であることを訴える。
 同紙の31日付は、政府・自民党が、豚コレラ発生県の増加を受け、飼養豚へのワクチン接種の是非について、本格的な検討に入る方針を固めたことを伝えている。皮肉なことに、その横には、福井県越前市で初発生が確認され、殺処分がなされたことを伝える記事が掲載されている。
 ほぼ1年間、養豚農家をはじめとする現場関係者の死に物狂いの苦闘は筆舌に尽くしがたいもの。現場任せの政治が生み出したこの情況を政治の不作為として断罪するには、早すぎるのだろうか。政党も政治家も、当事者の苦悩に思いを馳せよ。
 「地方の眼力」なめんなよ


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