コラム 詳細

コラム:リレー談話室・JAの現場から

【JCA客員研究員 伊藤 澄一】

2019.11.07 
【リレー談話室・JAの現場から】「農業と地域」存続の危機一覧へ

 10月初めに日本農業新聞は特集『ゆらぐ基-危機のシグナル』の連載で中山間地農業、それを担う集落営農組織などの迎えた危機、自治体農政の弱体化について現場からリポートした。NHKも『大廃業時代-会社を看取るおくりびと』(NHKスペシャル)で日本の中小企業の行き詰まった姿を各地から放映した。

◆次代の担い手が減少

 農村は中山間地農業と中小企業など少子高齢化を伴う人口減少と次代の担い手・後継者の不在によって、地域維持の困難に直面している。台風・地震などの異常な自然災害の頻発は、地域での生業と暮らしの新リスクとなっている
 小規模・中山間地農業は耕地面積、農業算出額、農家数のそれぞれで約4割を占めるが、担う1万5000の集落営農組織の解散が増えている。農家と地域住民で行う水路や農道の保全管理など地域活性化を担う受け皿組織の解散も目立つ。高齢化と人材不足、定年後の雇用延長でリーダーが確保しにくい。国が組織を支援する交付金も申請手続が煩雑だと指摘されている。
 中小企業も地域経済の低迷による業績悪化、後継者の不在などで追い込まれて、廃業が加速している。2018年の中小企業の廃業件数は4万6000件となり10年間で倍増している。リーマンショックも大きく影響している。国も金融円滑化法による借金返済の猶予措置や個人保証の一部を手元に残せる経営者保証ガイドラインなどで、中小企業の存続支援や廃業の痛みを緩和するルールを整えた。
 しかし、現下の環境はそのような措置をも弥縫策(びほうさく)としてしまうほどの構造的な問題が見えている。NHKは帝国データバンクの緻密なデータと分析をもとに全国の中小企業140万社のうち、31万社が向こう1年で廃業に追い込まれる可能性があると指摘する。これらに農業法人も含まれるだろう。早めの廃業によって従業員、取引相手、金融機関、さらには地域社会への悪影響を少しでも回避して自らも最悪の事態を免れようという動きとなっている。それを指導する廃業コンサルタントまで現れている。
 国の試算では団塊世代が後期高齢者となる2025年までに企業の廃業で650万人の雇用とGDPの22兆円が喪失する可能性があり、さらに日銀は全国の地銀・信金の半数以上が10年以内に赤字となると見通している。

◆"防人"たちに希望を

 『大廃業時代』では元社長たちの廃業決断前後の苦悩の姿が映し出される。決断が遅れ破綻した悲劇の元社長、早めの廃業決断で会社の終わりにけじめをつけた経営者などだ。地域の消費者の減少や企業間の競争は、売上の低迷となり会社の存続を危うくする。後継者の不在は事業とノウハウの存続を終わらせる。地域経済は網の目のように縦横につながり、一社の命運は他の企業に連鎖する。突然の倒産となれば、その影響は不意打ちとなって地域社会のダメージとなる。そのようなリスクが可視化されて、早めの廃業が増えていくという厳しいストーリーだ。
 ちなみに日本の人口減少はこの先数十年は続き歯止めはかからない。2019年の出生数は90万人を切り、団塊世代(昭和22~24年生まれ)の年270万人誕生の1/3となってしまう。団塊ジュニア世代(昭和46~49年)の年200万人誕生後に期待された第三次ベビーブームはなかったことに続き、国の見誤りと抜本対策の遅れがしわ寄せされて、地域社会から若者の姿が見えなくなっていく。
 そのようななか、第5期の食料・農業・農村基本計画が議論されている。力まかせの官邸農政の弊害である実態軽視の議論不足と詰めの甘さをどれだけカバーできるのか注目される。農業分野だけで語れる弥縫策では済まないのかもしれない。厚労省が農村にあるJA厚生連病院にも再編統合を求める話もある。
 地域社会を支える小さな農業や中小企業などの存続に点る赤信号。抜本的な政策転換をしなければ、担い手たちの不在とともに農業と地域の存続が絶たれることになる。


本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。

リレー談話室・JAの現場から

一覧はこちら

このページの先頭へ

このページの先頭へ