【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第77回 牛馬耕と食文化(1)2019年11月21日

私の生まれ育った山形の内陸部では、秋になると何人かで連れ立って鍋、お椀、箸、サトイモ等の食材を背負って近くのあるいは遠くの川原に出かけ、芋煮会を開く。この芋煮会の歴史については省略するが、私たちは川原に落ちている石を積んでかまどをつくり、まわりの山から枯れ葉や枯れ木を拾い、あるいは川原に流れ着いた流木を拾って来て燃やし、それに持ってきた鍋をかける。
 鍋には川から汲んできた水とサトイモを入れ、サトイモが柔らかくなったら、牛肉と(味が沁みるように手でちぎった)コンニャクを入れ、醤油で味をつけて煮る。最後にネギを入れる。もしも近くの山でキノコでもとれたらそれも入れる。そしてみんなで川原の石か持ってきた敷物に座りながらお椀に盛って食べる、大人は酒を飲みながらということになるが。
 友だち同士で、同級生やサークルの仲間と、近所の人たちと、あるいは家族で開くこの芋煮会、川原のあちこちで立ち上る焚き火の煙は秋の風物詩だった。
 この風習はどこにでもあるのだろうと思って、私の学生時代(もう数十年前になるが)に、芋煮会をやるからイモを買ってこいと後輩に言ったら何とサツマイモを買ってきた。仙台には芋煮の風習がなかったのである。
 その後、仙台が大きくなり、山形県人が多数流入してくるなかで芋煮会の風習が定着するようになった。そして秋になるとあちこちの川原から煙が立ち上る。
 しかし、この仙台の芋煮は芋煮ではない、と私は言う。牛肉ではなく豚肉を使うからだ。しかもサトイモに加えてニンジンからダイコン、白菜まで入れ、味噌で味をつける。これでは豚汁(とんじる)でしかない。しかし仙台ではそれが芋煮として通用している。
 考えて見れば、仙台では普通の時でも牛肉はあまり食べず、豚肉を食べる。
 かなり前のことになるが、近所に引っ越してきた大阪出身の奥さんから、肉屋には豚肉が多くて牛肉がきわめて少ない、牛肉の値段も高い、「そもそも豚肉ってどうやって食べたらいいの」と家内が聞かれたと言う。たしかにその通りで、スーパーで肉の並ぶ棚を見ると、6~7割が豚、2~3割が鶏、1~2割が牛肉というように当時なっていた。最近は少し牛肉が増えている(輸入の影響)が、基本的な傾向は前とほぼ同じである。
 これは仙台ばかりではない。東北はほとんどがそうだ。山形県内でも庄内地方は豚肉が中心で、芋煮の肉も牛ではなくて豚である。東北ばかりではない。東日本は一人当たり豚肉消費量が多い。これに対して西日本は牛肉消費量の方が多い。
 だから東日本は豚肉文化、西日本は牛肉文化であるなどとよく言われる。
 ところが私の生まれ育った山形の内陸だけは牛肉をよく食べる。実際に山形県の一人当たり牛肉消費量は東日本でもっとも高く、西日本の府県並みである。豚肉中心の庄内地方も入って平均されているにもかかわらずである。東日本のなかでは山形県だけが特殊で牛肉が中心の西日本と似ているのである。
 なぜ山形内陸と西日本は牛肉文化なのだろうか。いろいろ考えてみたが、それは田畑の耕し方、牛耕と馬耕の違いに関連していると私は考えている。
 山形内陸と西日本はともに一戸当たりの経営面積が小さく、段々の田畑が多くて区画は小さかった。こうした地域では小回りがきき、ゆっくり歩く牛で耕した方がいい。西日本の場合は昔からの二毛作地帯だからなおのことである。しかも牛は餌が少なくてすむ。かくして牛耕となる。
 一方、庄内を始めとする東日本は相対的に経営面積が大きい。しかるに冬の長さ、雪の多さから春の作業適期はきわめて短い。そうなると、馬力のある馬で速く耕さなければ困る。平坦で区画も大きいからそれはできる。それで馬耕になる。
この耕起のしかたの違いが肉の消費指向の違いに関係していると私は考えるのだが、このことについては次回述べる。
そのほか、本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
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