【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】選択の自由~「安全」とは何か2020年1月24日
市場原理主義の「総帥」ミルトン・フリードマン氏は、すべての規制をなくして「選択の自由」を確保すべきと主張したが、例えば、消費者が不安を持つ食品などの表示義務もなくしてしまったら、消費者は、逆に、「選択の自由」、「選ぶ権利」を失ってしまう。
私は自然科学者でなく、素人だが、なぜ、私が食の安全について議論するのか。それは消費者の選ぶ権利を保障しなくてはならないという視点からである。
そもそも、様々なものの安全性については、異なる見解が対立している。例えば、子宮頸がんワクチンについては、懸念する声が大きくなり推奨がストップしたが、大学の医学部の講義などでは、「がん予防できる夢のワクチンなのに世論とマスコミが潰した」と説明される場合も多いと聞く。
私には何が本当かわからない。ただ、巨額の金も動いている。ある病院の医師は、多くの臨床試験では、「製薬会社と誓約書を書き、副作用が出たり、効果がなかった治験者のデータを省いて論文を書くことが条件となっている」と説明してくれて驚いた。
米国などで牛豚の肥育に耳ピアスで注入されるエストロゲンは、乳がん、前立腺がんとの因果関係が指摘されている成長ホルモンで、国際的にはOKということになっているが、「エストロゲンが乳ガン細胞を増殖する」ことは医学界の常識に近い。
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が1962年に設立したコーデックス委員会で国際的な食の安全基準などが決められているが、私が以前から取り上げてきたM社開発の牛成長ホルモン(BST)と成長促進剤ラクトパミンの安全性審査は「投票」に持ち込まれた。
BSTは米国で認可後、乳がん7倍、前立腺がん4倍、という学会誌論文が出てきて反対運動が再燃した。ラクトパミンは人間に直接中毒症状も起こすとして、EUのみならず、中国やロシアも国内使用とそれが使用された家畜の肉の輸入を禁止している。
これらも国際的に「安全」とされているが、その安全性は、使用国や製薬会社のロビー活動の結果としての「投票」で「安全」となったのである。これを科学的根拠に基づくものとして金科玉条にできるとは到底思えない。
遺伝子組み換え(GM)トウモロコシの発がん性を実験したフランスのカーン大学の論文に対しては実験に意図的な操作があったとして大きな批判も展開された。しかし、反論として安全性を示したという論文はM社のデータに基づいてM社とつながっている研究者が実験したものが多い。
こうした実態が意味することは、「安全」の根拠も脆弱だということであり、懸念する消費者が多いのだから、せめて表示により使用の有無がわかるようにして、消費者の選ぶ権利を保障することは必須だということであろう。
しかし、我が国では、米国からの強い要請に応えて、2023年4月から「遺伝子組み換えでない(non-GM)」の任意表示が実質的にできなくなり、2019年10月には、世界的に予期せぬ損傷などが起きていると指摘されているゲノム編集を表示もなしに完全に野放しにしてしまった。本当は使用禁止の収穫後農薬のOPP(オルトフェニルフェノール)などを米国からの輸入食品には「食品添加物」として認めてきたが、その表示も風前の灯火である。食パンなどで検出されているグリホサート(発がん性などが国際的に認められている)の残留基準値は米国での使用量が増えたのに合わせて2017年に緩めさせられてしまった。
我々はどうやって身を守ればよいか。米国民のBST阻止運動が参考になる。M社と認可官庁が組んで、non-BST表示が無効化されてしまったが、表示がなくても、店として、企業として、「BSTは使用していない」ことを表明させた。ウォルマートやスターバックスやダノンや多くの企業が呼応した。個別商品への表示を無効化されても、自分たちの流通ルートでは排除されていることがわかるようにしたのである。自身の身の危険もある中で、発がん性の論文を書いた、勇気ある研究者がいてくれたことも大きい。自然科学者も金のために人の命を危険にさらすことはやめて、この研究者のように、本来の姿を取り戻してほしい。
日本の消費者も、国産の安全・安心な生産をしてくれている人々と、勇気と誠意ある研究者とともに、強固なネットワークをつくり、そうした流通ルートを確立できれば、自分たちの命と健康を守っていくことができる。
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