【浅野純次・読書の楽しみ】第115回2025年11月17日
◎西川邦夫『コメ危機の深層』(日経プレミアシリーズ、1210円)
古古古米が流行語大賞の候補なのだとか。備蓄米はもう平時の1割しか残っていません。今、異変が起きたらどうするのか。その意味でも令和のコメ騒動の本質をしっかりつかむ必要があります。
構成はコメ騒動、コメの需要と供給、コメの流通と価格、稲作農業の実態、生産調整と減反、国際商品としてのコメ、展望、の7章で、コメ問題の全体像が網羅されています。農家、農協、卸と小売り、政治の視点から鋭い分析がなされていて生産者、消費者どちらの立場から読んでも参考になりそうです。
例えば価格形成の効率性を高める課題には、現物市場と先物市場の連動性を高めることが重要であるとして、先物市場充実へ向けての提言がなされている点は見逃せません。
あるいは「稲作農家の時給は10円」というショッキングな言辞を手掛かりに、日本農業の零細経営と生産性を解明していくくだりも説得的でした。
そしてコメがタバコとマユ(桑)と同じ衰退作物とならぬよう、コメの生産性と価格問題は決定的に重要であるとして問題提起がなされます。とりわけ生産調整を直接支払いに置き換えていくことは、確かに大事な政治的決断です。広く本書が読まれて議論が深まることを期待します。
◎河野龍太郎・唐鎌大輔 『世界経済の死角』(幻冬舎新書、1320円)
半年前に本欄で河野龍太郎『日本経済の死角』を取り上げましたが、今回は気鋭のエコノミスト同士の対談です。新書とはいえ280ページにも及んで読み応え十分でした。
話は今回も実質賃金が26年間まったく横ばいで生産性の上昇に見合った賃上げが行われてこなかったことへの批判から始まります。先進国でこんな国はありません。株主資本主義極まれり、です。
続いてトランプ政権で世界経済はどう変わるかに一章が割かれますが、アメリカ経済の底力の一方でドルの行方が最も重要なテーマとなります。中国元など他の通貨の行方とも関連しますが、この部分だけでも一読の価値があります。
とはいえ問題はやはり日本です。とくに円安に象徴される国家の迷走はすでに危険な領域に入っていますが、対談もキャピタルフライト(資本逃避)の危険にしばしば立ち返ります。目先の分析から世界と日本経済の中長期的課題まで親切な入門書(とはいえすいすいとは行きませんが)としてお薦めします。
◎保阪正康『戦後80年 わたしは、この言葉を忘れない』(日刊現代、1760円)
先の大戦では、いろんなスローガンや言葉がはやりました。正確には軍部や役人がはやらせたのですが、昭和史の大家である著者はそれらの狙いや人々の受け止め方などを、生の声を使って興味深く解説していきます。
「国民を呪縛した七つの戦時用語」として取り上げられるのは、「非国民」「玉砕」「皇国」「隣組」「本土決戦」「国民は無色」「兵隊さんよ ありがとう」です。軍部は戦争を「事変」、敗走を「転進」、全滅を「玉砕」と言い換えて責任逃れを続け国民を欺き続けました。
しかし著者は、ために多くの犠牲者を出すに至ったこのような戦時用語が再現されることのないよう、警鐘を鳴らします。確かに戦時用語の欺瞞を理解することは、現代の指導者による言葉の言い換えや詐術、責任逃れを見極めることに役立ちそうです。たかが言葉の一つ二つではなく、言葉に私たちはもっと敏感でなければならない。読み終えてそんな感想を持ちました。
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