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【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】食料国産率は「ごまかし」なのか ~実は飼料自給の重要性を認識させる~2020年3月19日

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【鈴木宣弘・東京大学教授】

 新たな食料・農業・農村基本計画では、飼料自給率を反映しない新たな食料自給率目標を設定することになった。名称は「食料国産率」とすることになった。これを巡って「自給率45%の達成が難しいから、飼料の部分を抜いて数字上、自給率を上げるのが狙いではないか」という声もある。自民党や食農審の企画部会では、「飼料増産に水を差さないように」との指摘も出た。一方、「農畜産物の生産においては、飼料に限らず種苗など輸入に依存するものは多い」「(飼料の部分を反映しないと)購入飼料を多く使う都府県の生乳生産が自給率に反映されやすくなる」という意見もある。こうした意見も踏まえ、筆者なりに「食料国産率」の評価と活用方法を考えてみた。

◆総合食料自給率=食料国産率×飼料自給率
 今後の食料自給率の設定は、カロリーベースと生産額ベースの二本立てに加え、それぞれが、さらに二本立てになる。今回、導入される「食料国産率」と従来からの総合食料自給率(飼料の国産度合いを反映)である。

 カロリーベース自給率について、定義を確認すると、食料国産率は、
食料国産率=国産供給熱量(=国産純食料×単位カロリー)÷供給熱量(=純食料×単位カロリー)で、これに対して、従来から用いられている通常の総合食料自給率は、簡潔に示せば、

総合食料自給率=食料国産率×飼料自給率

である。


◆併記する意義~国産の頑張り&飼料自給の重要性
 この2つを併記することは、飼料の海外依存の影響がどれだけ大きいかを認識させることになる。具体的に農水省の示している平成30年度の数字で見ると、食料国産率→総合食料自給率で示した場合、
全体 46%→37%
畜産物 62%→15%
牛乳・乳製品 59%→25%
牛肉 43%→11%
豚肉 48%→6%
鶏卵 96%→12%
となる(農水省の説明スライド参照)。seri20031919_3.jpg

 一番差の大きい鶏卵で見るとわかりやすいが、日本の卵は96%の国産率を誇り、よく頑張っているな、と言えるが、飼料の海外依存を考慮すると、海外からの輸入飼料がストップしたらたいへんなことになるな、もっと飼料を国内で供給できる体制を真剣に整備しないといけないな、ということが実感できる。

 つまり、今後の活用方法としては、特に、酪農・畜産の個別品目について、両者を併記することで、酪農・畜産農家の生産努力を評価する側面と、掛け声は何十年も続いているが、遅々として進まない飼料自給率の向上について、もっと抜本的なテコ入れをしていく流れをつくる必要性を確認する側面との両方を提示する指標にすることではないだろうか。


◆カロリーベースと生産額ベース
 そして、最終的には、飼料を含めたカロリーベースの自給率の向上が安全保障を考えるベースだということを確認する必要があろう。一部には、「カロリーベースの自給率を重視するのは間違いだ」(元農水省事務次官)(注)と指摘する声もあるが、生産額ベースとカロリーベースも、それぞれのメッセージがある。

 生産額ベースの自給率が比較的高いことは、日本農業が価格(付加価値)の高い品目の生産に努力している経営努力の指標として意味がある。しかし、「輸入がストップするような不測の事態に国民に必要なカロリーをどれだけ国産で確保できるか」が自給率を考える最重要な視点と考えると、重視されるべきはカロリーベースの自給率である。だから、我が国のカロリーベース自給率に代わる指標として、畜産の飼料も含めた穀物自給率が諸外国では重要な指標になっている。

 日本では、輸出型の高収益作物に特化したオランダ方式が日本のモデルだともてはやす人達がいるが、本当にそうだろうか。一つの視点は、オランダ方式はEUの中でも特殊だという事実である。「EUの中で不足分を調達できるから、このような形態が可能だ」との指摘もあるが、それなら、他にも、もっと穀物自給率の低い国があってもおかしくないが、実は、EU各国は、EUがあっても不安なので、1国での食料自給に力を入れている。むしろ、オランダが「いびつ」なのである。

 つまり、園芸作物などに特化して儲ければよいというオランダ型農業の最大の欠点は、園芸作物だけでは、不測の事態に国民にカロリーを供給できない点である。日本でも、高収益作物に特化した農業を目指すべきとして、サクランボを事例に持ち出す人がいるが、サクランボも大事だが、我々は「サクランボだけを食べて生きていけない」のであり、畜産のベースとなる飼料も含めた基礎食料の確保が不可欠なのである。


◆種まで遡ったら野菜の自給率は80%→8%?
 また、今回の議論に絡んで、「では野菜の種はどう考えるか」といった疑問も惹起された。筆者も、以前から、「野菜の種子の9割が外国の圃場で生産されていることを考慮すると、自給率80%で唯一コメに次いでまだ高いと思っていた野菜も種まで遡ると自給率8%(0.8×0.1)という現実は衝撃である」と指摘してきた。食料生産に不可欠な要素をどこまで遡るかという議論も不測の事態の食料安全保障を考える上で重要である。今回の「飼料自給率を考慮するかしないか」の議論は、不測の事態の安全保障の議論を深める機会にすべきであろう。

出典: 農林水産省。

(注)『平成農政の真実~キーマンが語る』(筑波書房)参照。

 時事通信の菅正治氏による一連のインタビュー録である。平成農政の真実がここにある。深く農政に関わったキーマンたちが、公式文書ではわからない、今だから話せる裏事情も語っているので、真のストーリーが読み解ける。例えば、石破農政と民主党農政とのつながりについて筆者の1人(鈴木)は以前から言及していたが、今回、複数の関係者が、さらにそれを裏付け、膨らませる発言をされている。これを通読すれば、農政のシークエンスがわかり、一方の見解に偏らず、様々な立場の意見を総合的に咀嚼し、未来へつながる道しるべを読者自身が見いだせる。ぜひ読んでみていただきたい(1人の発言録は諸事情により割愛された)。著者割引販売や未収録分についての問い合わせはsuzukinobuh2@gmail.comで対応可。

 

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