【リレー談話室・JAの現場から】「こころ」は道具-新社会人の皆さんへ2020年4月6日
◆ようこそ、協同組合に
新社会人の皆さん、おめでとうございます。新型コロナウィルスの災禍が全世界を覆っているそのときに、学友や恩師との思い出を心に刻む間もなく、不安を抱えたまま「協同組合」の一員になりました。
ようこそ、農業協同組合に来てくれました。皆さんはたくさんの人々に囲まれ、小さな宇宙の中心にいます。その小さな宇宙こそが学校のような職場の協同組合です。その宇宙と皆さんひとり一人は一体です。何よりもご自分の「いのち」を大切にして、そして周囲の命を守り助けてください。そのような仕事が皆さんを待っています。日々の仕事の泣き笑いのなかに、上司や先輩、同僚や後輩を気遣い、家族を養うなどの営みが始まります。辛いときには泣いて、何かをやり遂げたら笑顔をつくって自分をほめてください。
◆思いどおりにいかない
二つのことに触れます。第一はこれから「思いどおりにいかない」ことが多くなるということです。経験を重ねれば重ねるほど、年をとればとるほど、思いどおりにいかないことに出くわします。そんな状況のなかで判断して、前に進むのです。
100年前に世界で数千万人の命が「スペイン風邪」によって奪われました。日本でも45万人が亡くなり、2年ほどで自然的に収束しました。精巧な電子顕微鏡などない時代で、文字どおり「見えない敵」でした。今回のコロナ災禍は数世紀に一度の世界の大事となっていますが、ウィルス変異は地球環境の新リスクとなりそうです。さらに、日本は首都圏直下あるいは南海トラフなどの巨大地震、温暖化による異常自然災害に備える必要があります。
この一瞬も、世界はかつてないほどの人命と経済の危機にあります。人々は共通するコロナ災禍に国を超えて一丸となって立ち向かう、人類初の行動をとっています。皆さんは最初から「思いどおりにいかない」厳しい事態との遭遇となりました。それでも眼前の危機に対して、農業を守り育てる協同組合人としての使命と役割を担ってください。
◆「こころ」は道具
第二は「もう一人の自分をもつ」ことです。今は亡き先人の話です。左肩に「小さな自分」を座らせるのです。困ったときに「自分は正しいか、それでいいか」と問いかける小さな存在です。人の「こころ」は怖いものをもっています。「こころ」のコントロールはなかなか思うようになりません。ですから、悩みや課題を抱えたとき、左肩のもう一人の自分に問いかけ相談するのです。
「こころ」は道具のようなものです。よく管理することで仕事の助けになります。大工さんの道具である鑿(のみ)・鉋(かんな)・鋸(のこぎり)・錐(きり)・金槌(かなづち)などは、いい仕事をするために丁寧に管理されています。よく手入れしないと錆びます。使い方を誤るとケガをします。「こころ」も刃物になることがあります。「こころ」こそ、道具のように管理したい。しかし、「こころ」は勝手気ままで、管理しにくくて、しばしば苦しめられます。だから、もう一人の自分の力を借りて問いかけるのです。「自分は正しいか、それでいいか」と。優れた棟梁は管理された道具、つまり「こころ」を一生かけてつくりあげます。少しずつ努めてそのようになります。
その先人は、「もう一人の自分」に「タダシ」という名前をつけ、漢字を宛てたそうです。厳しく筋を通した父親の名の「忠」、思慮深く温厚な亡き後輩の名の「正」です。左肩の二人の「タダシ」と付き合い、示唆を得てきたと話していました。思うようにいかないときに「タダシ」に問いかけてご自分を律したといい、その成果は半々だと控え目でした。
コロナ災禍は、地球の温暖化、貧富の格差、核の脅威などとともに人間の傲慢が招いた環境問題だとの指摘もあります。その克服のために、世界のひとり一人の懸命の協働が続いています。そのような新時代を一緒に生きぬきましょう。
(JCA客員研究員 伊藤澄一)
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