【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(176)「外国人労働力依存型農業」が直面する試練2020年4月10日
新型コロナの影響が世界で最も深刻な国の1つであるイタリアでは、農業も重要な局面を迎えている。春先の収穫期、あるいはこれから収穫期を迎える農作物を「誰が」収穫するか…という問題だ。これはイタリアだけの問題ではない。
新型コロナの影響がフードシステムに及ぼす影響は、様々なレベルで考えられるが、一番直近の影響は、今、目の前で収穫しなければならない農作物を「誰が」収穫するかである。既に多く知られているように、どこの国でも感染者のうち高齢者の重篤化する割合は多いようだ。そうなると高齢化が進む農業分野は、まず、直接的な労働力への影響が重要な懸念事項となる。農家自身が感染して営農継続ができなくなること、これが一番わかりやすい。感染者数の職業別統計など、現段階ではとても整理できないであろうが、年齢別の感染者数がわかれば、ここは推定するしかない。
さらに、イタリアに限らず昨今の農業現場では、諸外国からの移民や研修生などの形で収穫期の短期・季節労働に従事する外国人が多い。イタリアの場合には、ルーマニアからの季節労働者が農業生産における「収穫」部分で重要な役割を務めている。
いくつかの報道によれば、イタリアの農場で働くEU外からの移民労働者は通常10~20万人はいるという。既報のとおり、EUはEU外との行き来を基本的には遮断したため、これらの労働者が特別な許可を得て収穫作業に従事できるかどうか、そして、その許可の発令時期をめぐり、様々な問題が現地では生じているようだ。
感染拡大を防ぐためには可能な限り人の動きを止めることだが、例えば、イチゴの収穫はまさに今、この時期であるし、今後、アスパラガスやズッキーニなどの収穫も目前に迫っている。人間は意識的に行動を制限することが可能だが、農作物は手をかけなければそのまま放置され、折角作ったものでも食用には回らず、膨大なロスが生じることになる。
簡単に言えば、農場には農産物があっても、それを収穫して流通に載せることが出来ないため、スーパーマーケットの棚には欠品が相次ぐということだ。言い方を変えれば、生鮮品のサプライチェーンにおける新しいボトルネックとして、収穫作業が急浮上してきたということでもある。
この背景には人の「安全確保」というレベルの問題と、現実の「食料調達」、つまりサプライチェーンをどのように維持するかという問題、さらに、国境を超える人間の移動との兼ね合い...など、様々な問題が複雑に交錯している。
図らずも、今回の新型コロナは、国内という意識と密接に結びつく傾向が強い農業が、実は外国人が不可欠な役割を担う形に変化していたという、いわば「公然の秘密(open secret)」を正式なものとして認めざるを得ない状況にしたのかもしれない。これは、イタリアに限ったことではない。米国や日本も同様である。
最後に少し、中長期的な視点を追加しておきたい。
筆者が長年携わってきた穀物の分野では、生鮮農産物と異なり影響が少しずつ、しかし着実に現れると考えられる。
北半球では昨年秋に主要な穀物の収穫が既に終了している。また、穀物の収穫作業はほぼ機械化されているし、長期保存にも適している。イチゴやモモなど傷みやすい果実や野菜等の収穫作業とはやや異なる。懸念すべき点としては、今後の作付作業が順調に行くかどうかである。南半球については時期が半年ズレているが、基本的に状況は同じである。
問題は、こうした他国の状況を改善することにどう協力できるかという国際協力という側面と、今後の日本でいかに同じような状況に陥らないように対策を準備することができるかという国内農業への支援と対策である。日本農業においても、実際の現場では外国人労働力に頼っている分野は数多くあるであろう。他国の経験をただ眺めるだけでなく、出来る協力をしつつ、その教訓を上手く生かして欲しい。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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