【浅野純次・読書の楽しみ】第49回2020年4月13日
◎毎日新聞「桜を見る会」取材班『汚れた桜』(毎日新聞出版、1320円)
森友に加計に桜を見る会。これらのスキャンダルには、証拠隠滅、はぐらかし答弁、首相夫妻のお友達優遇という共通項があります。でもSNS上で怒りが最も強いのは桜を見る会だそうです。
桜を見る会問題は安倍首相が後援会=支持者に対するサービスとして招待状を乱発し、前夜祭では(おそらく)会費補助まで行ったのに、うやむやのうちに逃げ切ろうとしているように見えます。
本書は発端(田村智子議員の国会質問)から昨年末までの一部始終を丁寧に追いかけます。すでに知っている事実も少なくないし、知られざる裏話がたくさん出てくるわけでもありません。
しかしこうやってまとめられると、SNS上で人々が憤慨するのはよくわかります。桜を見る会では、自分のために税金を使っているわけだし、人々を納得させるような反論は皆無だからです。
なので政治資金規正法違反という点では河井夫妻より罪が重い。であればコロナの陰でうやむやにしていいわけはないでしょう。
わかりやすく書かれていて頭の整理に役立ちます。記者たちの考えや行動が書き込まれているのもよかった。官房長官や内閣府の総務課長の答弁がそのまま収録されていて思わず笑ってしまいます。
◎阿部岳『ルポ沖縄 国家の暴力』(朝日文庫、814円)
沖縄北部の名護市の北隣にある東村に3年前、米軍新基地が建設されました。高江ヘリパッドです。半年にわたり反対運動が続けられたのですが、500人もの機動隊員が本土から送り込まれ、多勢に無勢、住民が排除され痛めつけられる中で完成してしまいます。
その間にはネット上の右翼(ネトウヨ)や保守系メディア・文化人からの激しいバッシングもありました。
そして完成1カ月後オスプレイが海岸に、1年後にはヘリが近くの牧草地に墜落大破して住民の不安は的中すます。その際の米軍の行動は日本の警察さえ近寄らせない居丈高なものでした。日米地位協定の不平等性を実感させられる場面です。
現地で講演した右翼作家が、著者(沖縄タイムス記者)とのやりとりで無責任さを露呈するのも本書のハイライトの一つ。ともかく本土の私たちは沖縄のことをもっと知る必要があります。基地を主題に沖縄の人々の本心を伝えようとして書かれた本書は、そのための絶好の手掛かりになると思います。
◎檀乃歩也『北斎になりすました女』 (講談社、1650円)
葛飾北斎には栄という名の娘がいました。彼女は幼少の頃から北斎のもとで画業を見よう見まねで学び、北斎の画業を手伝うようになります。そして北斎に劣らぬ才能を発揮するのですが、もちろん世間に通用して高く売れるのは圧倒的に北斎のブランドです。
彼女は北斎と二人三脚で画を描きながら腕を上げていきます。そして北斎の晩年から死後、北斎の落款で北斎になりすまします。
彼女は女性の手足や着物のひだでは北斎よりはるかに優れた表現力をもっていました。光と影を描いては当代一流で、遠近法もうまかった。そんな彼女に自分の落款で世に問いたいという葛藤はなかったのか。そこが本書の重要なテーマで、興味津々です。
彼女はもっぱら葛飾応為と名乗っていました。なぜ「おうい」かも面白いお話ですが、江戸時代の芸術文化を知ることもできる優れた美術ノンフィクションとして大いに楽しめること請合いです。
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浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
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