子守用のわら工品・「えずこ」【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第100回2020年5月28日
手労働・自給自足段階の農作業は、前にも述べたように、家族総ぐるみでこなしていかなけれはならなかった。したがって農家の女性は、家事・育児(これまた手労働・自給自足段階におかれていた)に都市の女性のように専従するわけにはいかず、農作業の合間に家事や育児をするほかなかった。

育児についてもう少しいえば、一般的には子どもは放置しておかれた。もちろん、乳幼児の場合は布団に寝かせておかれ、授乳の時間が来ると、近くに母親がいれば家に戻ってきて飲ませ、母親が遠くの田畑にいれば兄姉か祖母がおんぶして連れて行って授乳させ、それもできなければ母親が赤ん坊をおんぶして働いている田畑に連れて行き、木陰にでも寝かせておいて時間が来ればおっぱいを飲ませるなどしていた。
しかし、冬になると農作業は相対的に暇になるので、そんなことをしなくともよくなる。家に寝かせておいたり、おんぶして子守りすることができる。
しかし東北などのような雪国では布団に寝かせてだけではいられない。寒いからである。その昔の住居ではましてやだ。それならこたつや行火に寝せればよい。しかし、それは赤ん坊を火に近づけること、きわめて危険である。
そこで考え出されたのが「えずこ」だった。
「えずこ」、これは私の知る限りでは東北地方だけで見られるものなのだが、これは「乳児を入れておくために稻わらを編んでつくられた丸い大きなかご」のことである。その形と乳児の入れ方は山形県庄内地方の民芸品「いずめこ人形」をパソコンで検索して見てもらえればおわかりいただけるだろう。子どもが動かないように、また温かさを保つように薄い布団や布きれでくるんで入れ、底の方にはぼろきれを敷いていた。
そこに入れられた赤ん坊はまわりを見回したり、寝たりしているが、たまに泣くとお腹がすいているのではないか、おしめ(おむつ)が濡れていないか、身体の具合が悪いのか判断して、必要に応じて「えずこ」から出したり、また入れたりしていた。
はいはいをするようになったり、暖かい季節になったりすると、赤ん坊は「えずこ」卒業となり、えずこは不要となる。
するとそのえずこはご飯の保温に利用された。雪国ではご飯を外に置いておくと冷たくなっておいしくなくなり、それどころか凍ってしまう場合さえあるので、温かいご飯を「おひつ」に入れ、そのおひつを布きれなどで包んで「えずこ」に入れ、保温するのである(「どぶろく」づくりに利用する場合もあったが)。
そしてまた赤ん坊が産まれると、その「えずこ」は再び育児用として用いられる。こうして何度も用いられたものだった。
この「えずこ」は東北地方全般に見られるものなのだが、「えずこ」という呼び名は山形内陸部で使われているものであり、同じ山形でも庄内では「いずめこ」、宮城県では「えじこ」、そのほか「いじこ」、「えんづこ」、「えづめ」等と呼ぱれていたとのことである。
なお、「えじこ」という呼び名は「嬰児籠(=赤ん坊を入れておく籠)」から、「いずめこ」は「飯詰籠(=ご飯を詰める籠)」からきているという説があり、それぞれもっともなような感じがするが、それは単なる偶然という感じもしなくもなく、よくわからない。
なお、私の生家や近所でこの「えずこ」を作っているのを見たことがない。かなり手間暇かけてつくったと思われるもので、きっとどこか専門的に冬場つくっている地域があり、そこから買ったものだろう。残念ながらその産地を聞くことなしに年をとってしまった。
このように「えずこ」は便利なものであり、私たちの幼い頃はどこの家にもあった。私もそれで育ったし、私の弟妹もそうだった。しかし戦後、「えずこ」は幼児を不潔な状態で長時間放置することになること、さらには下半身の発育を妨げる恐れがあることからしてよくないという保健婦や生活改良普及員等の指導で徐々に少なくなり、50年代後半にはほとんど見られなくなった。
たしかにそういう問題はあったかもしれない。しかし、これもかつての生活の知恵の産物、それに慣れ親しんだ私などにはなつかしい。人形としてだけでもいいから残していきたいものだ。そして稲わらは子守用具としてまで使われたものだということを後世まで伝えてもらいたい。
こんなことを言うのは年寄りのノスタルジア(今はこんな言葉は流行らないか、私も時代遅れになったようだ)なのだろうが。
そのほかにも、稲わらは釜・鍋・鉄瓶などを置くとき下に敷く釜敷き・鍋敷きなどに加工される等々、さまざまなわら工品が地域の必要性に応じてつくられた。
そしてそれらは、稲作をいとなむ農家が必要なだけ自分の家で作って使うのであるが、労働力の事情やわらの必要量等からよその農家から購入する場合もあった。逆に、余剰分を都市住民や商工業に販売もした。販売を主な目的として大量につくる農家もあった。そしてわら工品は都市住民の生活資材、商工業等の生産・流通のための資材として、日用品として販売もされた。
さらに稲わらは、畳やござ、壁塗り、冬の雪囲い、わら葺き屋根の材料として、たわしの代わりとして、納豆など食べ物を入れる「つと」として、子どもたちの遊び道具としてまでも使われた。詳しくは省略するが、ともかくあらゆる面でわらは用いられた。
まさに稲わらは農家の生産と生活にとってはもちろんのことすべての日本人の生産と生活に不可欠のものであった。わらは暮らしの基礎だったのである。
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酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】
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