民意に死角なし【小松泰信・地方の眼力】2020年6月24日
6月23日の沖縄全戦没者追悼式で、「20万人もの尊い命が無残にも奪われ、沖縄の誇る豊かな海と緑は容赦なく破壊され、焦土と化しました」と挨拶するのは安倍晋三首相。その瞬間も、現政権の手によって辺野古の海は容赦なく破壊されている。よくもまぁ、こんなスピーチができるもの。本人も、スピーチライターも揃いも揃った厚顔無恥無知族。
◆「死角」を問うても答える「資格」が無い農政
「見えないことは存在しないことではない」と言う、「交通教本」の教えから始まる日本農業新聞(6月20日付)のコラムのテーマは「死角」。コロナ対策について「事業の継続と雇用を、そして暮らしを守り抜いていく」と記者会見で語った安倍首相に、「死角はないか」、すなわち「たくさんの人が職を失い、たくさんの人が満足には食べられないのはなぜですか、そういう人たちが首相の目には映っていますか」と、尋ねたいと記している。
同紙1面に、「政府 輸出 家庭向け強化 コロナ対応 商品開発を支援」の見出しあり。
政府が19日、農林水産物・食品輸出本部を開き、新型コロナウイルスが世界的に広がっていることを踏まえた輸出拡大対策を示したことを伝えている。コロナ禍により、各国で需要の比重が外食から家庭食に移り、小売りやデリバリー(宅配)、電子商取引(EC)サイトでの販売が増えていることを受け、対応する商品開発や施設整備を支援し、人の移動が困難な中、オンラインでの商談会や越境ECの活用を促す方針とのこと。
2019年の農林水産物・食品の輸出額は9121億円。これを30年までに5兆円にすることが目標。
本部長の江藤拓農相は「現存する商流の維持、消費者の行動変容に対応し、輸出拡大に反転攻勢をかける」と意気込む。
3面には、自民党の塩谷立農林・食料戦略調査会長らが、首相に対して食料・農業・農村基本計画や農林水産物・食品の輸出を30年に5兆円とする目標の実現に向けた決議を申し入れたことと、自民党の農産物輸出促進対策委員会の福田達夫委員長らが江藤氏に、農林水産物・食品の輸出を農業者の「稼ぎ」につなげる仕組みを提言したことが紹介されている。
食料自給率37%という、この国の惨状から目を背けた、「死角だらけ」の農政がこの人たちによって展開されている。
◆被災地の農業再生に尽力せよ
「中山間地の気象条件などを生かし、農業などの基幹産業の再生を力強く進めてもらいたい」で始まるのは、福島民友新聞(6月23日付)の社説。舞台は福島県葛尾(かつらお)村。
東京電力福島第1原発事故による避難指示が出されたが、帰還困難区域を除き、2016年6月に避難指示が解除された。その後、震災前と同じように生活できる環境はほぼ整ったが、村民の帰還は3割未満。復興庁が昨年実施した住民意向調査では、「まだ判断がつかない」が2割、「戻らない」が3割。他方、109人の新規転入者の中には就農などで移住した人もいる。
基幹産業の農業は主力だったコメや畜産の再生が進み、養鶏、太陽光発電を使ったコチョウラン栽培など新たな取り組みが始まるとともに、東北大が村内に植物工場を開設し、マンゴーなどの栽培実証を行っているそうだ。
そのため、「農業を軸とした産業の活性化を図るため、村は国や県などと、担い手の育成や、法人化などによる経営基盤の強化を支援していくことが求められる」としている。
「アンダーコントロール」と叫ぶ大嘘つきとはソーシャルディスタンスをたっぷり取って、被災地の農業再生に向き合うことも農政の重要課題のひとつである。
◆沖縄の民意に死角なし
琉球新報(6月18日付)の社説は、琉球新報社が沖縄テレビ放送、JX通信社と合同で6月13、14日に実施した県民の意識調査結果に基づき、興味深い内容となっている。その概要は次のように整理される。
(1)名護市辺野古への新基地建設について;「反対」「どちらかといえば反対」の回答合計が61.95%。「賛成」「どちらかといえば賛成」の回答合計が27.69%。
(2)普天間飛行場の返還・移設問題の解決策について;無条件閉鎖・撤去や県外・国外移設を求める回答合計が69.52%(内、「無条件に閉鎖・撤去」30.28%)。「辺野古に移設すべきだ」は17.13%。同紙が実施した最近の世論調査でも、「無条件に閉鎖・撤去」の割合が増えており、「新基地は必要ないという認識が広がりつつあるためだろう」としている。
これらから、辺野古新基地建設に対し、「反対の民意が強固であることが改めて浮き彫りにされた」としている。
(3)玉城デニー知事について;「支持する」61.55%、「支持しない」21.31%。
この支持率が新基地建設反対の回答とほぼ同じ数値であるため、基地問題の解決を玉城知事に託しているものと推察している。
(4)安倍内閣について;「支持する」18.73%、「支持しない」66.33%。
この結果に対しては、「7割超が埋め立てに反対した県民投票の結果や知事選、国政選挙などで示された新基地反対の民意を踏みにじってきたことへの反発が如実に表れた」ものとしている。
◆やはり民意は地方にあり
共同通信社が5月29~31日に実施した全国緊急電話世論調査で、安倍内閣の支持率は39.4%だった。琉球新報の社説は、「沖縄の2倍以上の支持がある」ことを「基地問題を巡る沖縄と本土の意識の差」とする。そして、「多くの県民の反対を無視して埋め立てを強行する安倍政権の振る舞いを、県外の人々にも広く知ってもらい、認識の共有化を図る必要がある」とする。
なぜなら、それは「対岸の火事」ではないからだ。沖縄での手法が一般化すると、「反対意見は黙殺し、(中略)いずれ国策の名の下に、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場の建設さえも強行されかねない」と危機感を募らせ、「そんな暴挙が横行すれば、もはや民主国家とは言えなくなる。そのような未来は何としても避けたい」と、訴える。
もうひとつ興味深い調査結果がある。長野県世論調査協会とJX通信社が5月30、31日に共同で実施した長野県民意識調査においても、安倍内閣の支持率は18.6%であった。それぞれの理由で現政権に退場を願っている「地方」は少なくない。
「あなたがあの時 私を見つめたまっすぐな視線 未来に向けた穏やかな横顔を 私は忘れない 平和を求める仲間として」は、沖縄の追悼式で高校3年生の高良朱香音(たからあかね)さんが読み上げた平和の詩「あなたがあの時」のむすびである。
感謝されずとも、「あなたがあの時、傍観者だったから・・・」と詰(なじ)られない人生を送りたい。平和を求める仲間として。
「地方の眼力」なめんなよ。
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