(190)パキスタンのバッタと夏のモンスーン【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年7月24日
今年の2月、ソマリアのバッタの被害をコラムで紹介しました。それからほぼ半年を経てバッタはどうなったでしょうか。今週はこれを考えてみたいと思います。
各地で大発生しているバッタの群れだが、現在最も集中しているのはウガンダとケニアの国境近く、エチオピア中央部、そしてパキスタンとインドの国境周辺である。
南部パキスタンではインダス川を挟んで西にカラチ、東にハイデラバードがあるが、さらに東に行き、インドに入ると大インド(タール)砂漠がある。大インド砂漠の西端からパキスタンにかけては肥沃な農業地帯である。そこで大量のバッタが夏の繁殖期間を迎えている。早い段階で羽化した群れは、既にネパールにまで到達したそうだ。
パキスタンではカラチを含む同国南部のシンド州で最も重要な作物である綿花に多大な被害が出ている。3年前には年間180万トン近く生産し、インド、中国、米国、ブラジルに次ぐ、世界第5位の綿花生産国であるパキスタンも、今シーズンは140万トン程度に減産見込みである。
一方、インダス川を北上した群れは、パンジャブ州の農村を直撃している。被害を最小限にするため、殺虫剤散布とともに現地当局は集めたバッタの死骸に対して報奨金を出してはいるが焼石に水のようだ。そこで、地域の人々が集めたバッタを乾燥した上で粉末にし、飼料の一部をバッタで代替する業者が登場した。
昆虫の身体にはタンパク質が多い。FAOが2013年に公表した資料(注1)では、100gあたりのタンパク質含有量は生の牛肉が19-26gであるのに対し、バッタ(locusts and glass hopper)は幼虫で14-18g、成虫で13-28g記されている。メキシコやガテマラのトウモロコシ畑にいるバッタ(sphenarium purpurascens)に至っては35-48gである。
バッタの被害を報じるニュースの多くがlocustsという単語を使用している。バッタの細かい種類については詳しくないが、報道では養鶏用飼料に用いる大豆を10%バッタで代替しているようだ。日本の昆虫食・昆虫利用飼料の研究や配合飼料生産が実践レベルでどこまで到達しているのか最近はフォローできていないが、「必要は発明の母」である。切実なニーズがあるところに何等かの支援が出来ないものだろうかと思う。
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話はガラリと変わるが1497年にポルトガルのリスボンを出たヴァスコ・ダ・ガマは、アフリカ西岸を南下し、喜望峰を超えた後にアフリカ東岸を北上、マダガスカルの対岸にあるモザンビーク(国名ではなく同国の同名の島、モザンビーク島。ここは大航海時代のポルトガルの貿易拠点であり、天正遣欧少年使節なども滞在したかつてのポルトガル領東アフリカの首都。現在のモザンビークの首都マプトではない。)、ケニアのモンバサを経て、その少し北のマリンディからインド洋を夏のモンスーンに乗り、東へ向かい、インドの南端、マラバル海岸沿いのコーチやカリカットなどを訪れた後に、再び同じルートで帰国している。当時のカリカットはインドで最も豊かな交易拠点であったようだ。
注目したいのは、往路でアフリカ最後の寄港地はマリンディだったようだが、インドからの復路はアフリカ最初の寄港地がソマリアのモガディッシュであることだ。
高校時代に使用した地図帳か世界地図がある方は、ここで述べた地名の最後の部分、つまりガマがアフリカとインドを往復した地名とルートをよく覚えた上で次のアドレスにあるFAOのバッタの伝播経路と見比べると興味深い。
http://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/200708forecastE.jpg
もちろん、バッタはソマリア北部からイエメンを経てインド北西部へ移動しており、ガマの航路よりもはるかに北を移動している。だが、基本的な動き方は同じである。
この背景にはインド洋を中心にアフリカ大陸東岸を時計回りに大きく回る夏季のモンスーンという現象がある。バッタもこの風をうまく利用したのであろう。地理の授業でモンスーンについて習った現代人は「なるほど」ですむが、500年前にこの仕組みを発見し、ビジネスに活用した商人達の知恵は凄いと思う。
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夏のモンスーンには続きがあります。インドを通り越した後、どこへ向かうかといえば、インドシナ半島を西から東へ通り抜け、中国大陸東岸を北上します。その先には何があるかは言うまでもありません。この流れにバッタが乗らないことを望むばかりです。
注1) FAO, "Edible Insects: Future prospects for food and feed security", 2013, p.69.
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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