精神のリレー・焼き場の少年の行方 JCA客員研究員 伊藤 澄一【リレー談話室・JAの現場から】2020年8月15日
1年前の当新聞に『精神のリレー・焼き場の少年』という記事を載せた。長崎原爆投下直後に米軍カメラマンのジョー・オダネルが撮影した一枚の写真(別掲)のコメントである。
10歳くらいの少年が背中の幼子を荼毘に付すために直立不動で順番を待つ写真である。2017年にローマ教皇はこの写真を全世界にカードとして配布し、昨年の長崎訪問でもスピーチする教皇の横に、この写真が置かれた。
■いつ撮られたのか
8月8日にNHK・ETV特集『焼き場に立つ少年をさがして』が放映された。長崎放送局が3年をかけて調査したドキュメンタリーである。あの1枚の写真が、いつ、どこで、どのような状況のもとに撮られたのか、少年はその後どのように生きたのかを、最新の技術と数多くの人々の証言で構成したものだ。さらに、あの写真は占領軍の軍務として記録写真を撮り続けたオダネルが軍務を離れてプライベートに撮り続けた写真の1枚であったが、その意図に迫り、戦争孤児となった子供たちのその後を追っている。
NHKは少年の写真を鮮明に拡大、カラー化、そして3D化して詳しく調べている。すると少年の右胸に名札が縫いつけられている。名前は不明だが、当時は左胸につけられていたから、写真は左右反転していたことがわかった。昨年に判明したこの事実から、事態は急展開した。
カラー写真から少年の鼻血止めの詰め物と左目の出血がみられ、専門の医師は1シーベルト程度の残留放射線を浴びている可能性を示唆した。その様子から、直接の被ばくは免れ原爆投下の8月9日から2カ月程度と推測した。オダネルの撮った記録写真は福岡と佐世保のものだが、すべて日付が判明している。公務ではない日(10月13~17日、22~25日)に長崎を訪れた可能性が出てきた。主に子どもたちの写真を撮り続けていて、その中の1枚が「焼き場の少年」である。しかも、オダネルのもっていたカメラの型から10月中旬だとしたら、日中にフラッシュをたいた可能性があり、写真の後ろの背景に光が当たっていないから、曇りの日だったのではないか、と専門家は指摘した。長崎地方気象台の原爆投下後2カ月の気象記録を見ると、オダネルが長崎を訪れた可能性のある曇りの日は10月15、17、22日に絞り込まれた。
■どこで撮られたのか
写真の少年の横と足元には文字のある石柱と電線かケーブルのようなものがある。公的な意味を持つ可能性のある石柱には「縣」に似た文字が見える。ケーブルは太めの二本の線をより合わせて巻いたもので、こんな太い電線はなかったことから、列車の通信ケーブルだった可能性があると当時の技術者たちが指摘した。もし、それが鉄道のものとすれば、長崎本線沿いに敷設されたものと考えられ、列車が来たときに踏切を制御するケーブルの可能性があると。さらに、少年の足元に少し見えている石組みはしっかりしており、長崎本線の道ノ尾、長与などの駅で見られたという。当時、点検のために列車で往復していた技術者は、左右反転させた写真の3Dによって立体化された段々畑と木立が続く風景に見覚えがあると証言した。道ノ尾駅は浦上駅に通ずる救護支援の拠点となり、旧ホームが残されている。そこには焼き場や戦災孤児たちが命をつないだ児童養護施設があり、多いときには70人近い子供たちが暮らしていたという。だが、そこで暮らした少年たちの詳細な情報は残されていない。たった一人で亡き弟を背負ってこの拠点駅の焼き場にたどり着いた少年が、ここでオダネルとどのようにして遭遇したのであろうか。その後、少年がその施設に身を寄せたのかどうか不明で、その行方は杳として知れないという。
このような少年たちが、どこに引き取られ、どんな大人たちに出合えたか、わずかな差が子供たちの命を分けたと番組は言及する。NHK長崎放送局の「焼き場の少年さがし」に敬意を表したいと思う。
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