協同組合の目指す社会 ―ウイルスとの共存―【リレー談話室・JAの現場から】2020年10月27日
「生産」と「利用」の自給を
7月下旬からのコロナ第2波を何とか乗り越え、感染者は依然多いものの、重篤者は少なく医療体制は何とか持ちこたえている。一方で、10月から東京を含めて「GO TO」が本格的に始動し、経済回復への模索も始まっている。しかしながら、冬にむけてインフルエンザ流行も懸念されるところであり、不安は尽きない。
世界的パンデミックを引き起こしているコロナは、今後、旅行・ホテル・飲食など「密」を伴うサービス業を中心に廃業や失業など、さらなる深刻な影響をもたらすであろう。復興にむけて我々は大きな社会的努力を強いられることになるであろうが、まずは一人ひとりがマスク、手洗い、うがいを励行し、密を避け、来年の東京五輪を目標とした特効薬、ワクチンの開発・普及を待ちたい。
時代が生んだ副産物
新薬によってコロナは終息にむかったとしても、いずれ近い将来第2、第3のコロナが発生し、パンデミックが再来することを予測する人は少なくない。経済のグローバル化が進み、利益を求めて激しく人・モノ・カネが行き交う現代社会において、ウイルス感染症は時代がもたらす「副産物」とも言える代物だからである。コロナは人が必要なものを生産し、暮らしを営む社会のあり様を問うているように思えるし、これだけ甚大な被害をもたらしているコロナから我々は当然のこととして教訓を得るべきだ。
賢人に学ぶ
内橋克人氏は、「FEC自給圏」(フード・エネルギー・ケアの自給圏)を提唱している。
故宇沢弘文氏は「社会的共通資本」を明らかにし、新自由主義を主張する一派に対して、過度な市場競争は格差拡大など社会を不安にすると反論し、社会的な利益を生み出す源泉について特定の個人・法人に帰属させるのではなく、社会として共有すべきと提唱した。
「賢人」に学びたい。人が生きていく上で大切なもの(そこには教育や環境等が当然含まれる)をより身近な地域から、重層的につくりあげていく社会(集落⇒学校区⇒市町村⇒国⇒諸国)を少しずつでも築きあげていくことが、ウイルスと共存しうる唯一の知恵に思う。今は逆なのだ。より効率的なモノとサービスが世界から地域に流入し、不足するもの、例えば高齢者ケアや鳥獣害など、いかんともし難い地域資源管理が地域に強いられているのである。
ところで、協同組合は実はこうした身近な地域において、人が生きていく上で必要なものを地域で自給していく地域社会づくりを目標としてきた。ロバートオーエンは農工一体型の地域コミュニティー建設を目指し、志半ばに逝ったが、その目標はロッジデール先駆者に引き継がれた。大原幽学は幕末に下総国(千葉県北部)長部村において村落共同体を基礎に先祖株組合を設立し、現在にいたる総合農協の原型として受け継がれている。手前味噌かもしれないが、昭和42年全中は農業基本構想、45年に生活基本構想を全国農協大会において提起したが、重ね合わせて読む時、その核心は協同組合による地域自給社会の建設にあったのではないかと気づく。
欠かせない「生産協同組合」
協同組合が目指す姿が仮にこうであるとするならば、その実現のためには、本質的に欠けているものがある。農協にしても、生協にしても、「利用協同組合」という組織的性格から、協同組合が提供するさまざまな物資やサービスを組合員が利用し、自ら農業と生活を営むということを目的としており、組合員が協同組合に参加し、生産するという「生産協同組合」としての性格、機能が打ち出せていないことだ。
臨時国会において労働者協同組合法の成立が期待されている。全国各地で活発に活動しているワーカーズの10年来の悲願である。組合と組合員が雇用契約を結ぶことを前提としているが、実質的には組合員による「生産協同組合」といっても過言ではない。法制化により協同組合において「利用」と「生産」の両翼を担う機能が制度的に担保される意義は大きい。
次代のコンセプト
協同組合による地域自給社会づくりには、この二つの機能が欠かすことができないし、このことへの気づきは将来の協同組合の発展の礎となると思う。こうした共通認識のもとで協同組合がより提携を強めるのはもちろんのこと、さらに「社会的企業」とも呼ばれる地域に根ざし、地域に人が暮らしているからこそ存立する企業をパートナーとして、意識的に活動を共にしていくべきだと思う。
来年はJA第29回全国大会、各県では県大会があり、JAでは中期3か年計画の樹立する大切な年である。次代のコンセプトは、コロナを教訓として、ウイルスとも共存できる営農と暮らしを自給できる地域社会づくりではないかと思う。到底すぐに実現できるものではないが、農協運動は大きな目標の実現にむけて奔(はし)ることと肝に銘じ、全国の仲間の共感が得るべく、コミュニケーションをはじめたところである。
(JA全中教育部教育企画課長 田村政司)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日 -
「農林水産業みらいプロジェクト」2025年度助成 対象7事業を決定2025年12月19日 -
福岡市立城香中学校と恒例の「餅つき大会」開催 グリーンコープ生協ふくおか2025年12月19日 -
被災地「輪島市・珠洲市」の子どもたちへクリスマスプレゼント グリーンコープ2025年12月19日 -
笛吹市の配送拠点を開放「いばしょパル食堂」でコミュニティづくり パルシステム山梨 長野2025年12月19日 -
鳥インフル 米国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年12月19日 -
子牛の寒冷ストレス事故対策 温風式保育器「子牛あったか」販売開始 日本仮設2025年12月19日 -
香港向け家きん由来製品 北海道からの輸出再開 農水省2025年12月19日


































